第201話 魔眼と魔王
サジャードは去り、魔族も倒されたため戦いは終わった。魔族の狙いであるクシフォンは無事で特にこちらが受けた被害はないように感じた。
「サジャード……ふざけた奴だね。遊び感覚で国を襲撃だなんて」
腕組みをした聖女ネーヴァンが言う。怒っているのだろう。
「スティグマが遊び感覚で来たから被害が出なかったというのもあるでしょうね……最後の攻撃は不味かったけど」
とフィレンが呟く。
「あっさりと結界を破られて情けない気持ちだよ。申し訳ない」
カラミィは、結界を壊されダウンしてしまったことに責任を感じているのだ。
「カラミィ、あなたがいなければ国民に大きな被害が出ていましたよ。大丈夫です」
とハルカが励ましている。
救国の英雄の面々が話し合っている様子をレン達は眺めていた。
「それにしてもなんで、ナビゲーターさんが身体を持っているのよ」
とルティアが疑問をレンにぶつける。ミラやエリアスも気になっているという様子だ。
「ああ、ナビゲーターの身体は俺とナビゲーターさんで作り出したんだ。スキルを色々と使ってな……苦労したんだ」
レンは自分のセンスのなさを実感した。確かに図工などは得意ではなかった気がする。
「今回は、事態が事態だったので出てきましたが、もう一度メンテナンスをする必要がありそうです」
とナビゲーターさんが言う。まだ身体が完璧ではないのだ。どこか疲れたという様な表情をしている。
「なんだか、とんでもないことをするね」
とエリアスが言う。
「面白そう」
とミラを興味津々にナビゲーターを眺めている。ドレスのスカートをめくろうとして叩かれていた。
「そういえば、有耶無耶になったけどエリアスの告白は大成功ね!やったじゃない」
とルティアがエリアスの肩を叩きながら言い出す。
「ちょっ、このタイミングで言わないでよ!」
と顔を少し赤くしてエリアスがルティアに詰め寄る。そういえば、レンがエリアスに告白した直後にスティグマや魔族が攻めてきたのだ。
「いや〜、あれは良い展開だったなぁ!いよっ!カップルさん、熱いねぇ!」
とミラが言ってくる。なんだかジジ臭いことを言うなとレンが思っていると、会場の方にアルファードが戻ってくる。
ハルカに聞いた話だと敵と戦っていると言っていたが、そこまで苦戦する相手だったのか?と思った。
「悪りぃな、大事な時にいなくてよぉ」
とアルファードが手をあげる。そんな彼は所々怪我をしているように見えた。
「あんたが怪我をするなんてあるのかい……すぐに治すよ」
と言いながら、ネーヴァンが魔法を使う。
「すまねぇ、厄介なことになっちまってな」
とアルファードが言う。かなり真面目な雰囲気が流れる。
「何があったんですか?アルファード」
とハルカが聞く。
アルファードは、一瞬話すべきだろうか?という様な表情を見せたがしっかりと口を開く。
「ハルカを先に行かせた後、俺が戦った相手……そいつを俺は知っていた。あいつだった、間違いなくな……マサトだ」
とアルファードが言った瞬間、救国の英雄の面々の表情が重くなる。レンにとっては知らない名前だが、彼らはその人物のことをよく知っているのかもしれない。
「本当にあいつだったのかい?」
「ああ……俺のこの目で見た」
ネーヴァンの質問にアルファードが頷く。
「そんなはずはない……彼は確かに私達の目の前で……」
カラミィが自らの眼帯を押さえながら呟く。
「一体……」
とレンが呟くと、ハルカが、口を開く。
「私達、救国の英雄はここにいるメンバーで全員ではないのです。10年程前に1人の仲間を我々は、亡くしました。それがマサトです」
と説明する。
「その人が、生きていた?」
「いいえ、彼は、私達でしっかりと弔ったわ……それが生きてるだなんてあり得るはずが」
とフィレンもわからない様子だ。
かつての救国の英雄の1人が敵として現れた……レンとしては、それはやはりスティグマが絡んでいると思え、目の前にいる英雄達が戦うのは辛いものなのではないか?と思うのだった。
武道大会であるが、続きは明日に行うと言うことになった。ここまでの襲撃があったため、みんな精神的にクタクタだと言うことだ。
「帰るか」
とレンが呟く。
「あ、待つのじゃレン!」
と言いながらクシフォンがやってくる。後ろにはフィーズも付いてきている。
「無事で良かったよ、どうしたんだ?」
敵はクシフォンの命も狙っていたが、サジャードが遊び感覚であったのも幸いしてか特に問題は起きなかった様だ。あわよくばクシフォンの暗殺を考えていたことだろう。
「そうじゃ、レンにまだ妾とした賭けの報酬を渡してなかったのじゃ!すっかり忘れる所じゃった。ほれ、受け取るが良い!」
と言いながらクシフォンが箱を渡してくる。綺麗な装飾の箱で、これだけでも価値がありそうだと思う。
「すっかり忘れてたな……どれどれ?うおっ!」
箱を開けたレンは驚く。
箱の中には、2つの目玉が置かれていたのだ。紅色と蒼色の綺麗な色をしている。
確かに玉は玉と言っていたけど……
と思いながらレンは目玉を見る。
「驚くのじゃ!それは魔眼なのじゃぞ、なかなか無い品だ」
「魔眼!良いなぁ!」
といち早くミラが反応する。さすがだなとレンは心の中で思った。
「これって目に入れるのか?」
とレンが呟く。コンタクトよりもハードルが高そうだと思う。というか怖い。
「そんな不便では無い、目の近くに持って行くだけじゃ」
とクシフォンに言われ、その通りに動かすと魔眼が光となって目に入ってきた。特に痛いと言うこともなく光が治る。
「どんな感じ?」
とエリアスが覗き込んでくるが、特に変化は見られない。
「変わらないな」
「徐々にわかってくるのじゃ!まあ、時間はかかるのじゃ」
とクシフォンが言う。そう簡単には行かない様だ。
クシフォン達と別れようかと思ったタイミングで、レン達に向かって1人の男が声をかける。
「楽しそうだな、クシフォン」
レン達が視線を向けるとそこには、漆黒のローブを着たツノがチラッと見える男が立っていた。
「誰だ!」
とレンが武器を取ろうとしたが、次の瞬間後ろにいたフィーズが跪き礼をする。
「父上!」
とクシフォンが驚きながら言うのだった。
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