第181話 捕縛と追跡

「レン、逃げ出したのじゃ!」


 とクシフォンの声がレンの耳に届く。だが、レンにすでに相手を目で追っている。


「さすがにここで魔法なんて使うわけにはいかないよな!」


 周囲にいるのは紛れもない一般人だ。ここで戦いになれば確実に被害が及ぶ。


 とにかく相手を追いかけながら考えることにした。


『マスター、スキル投擲をインストールしました』


 とナビゲーターさんが言った時に顔を隠した人物が、屋根に飛び移って逃げようとしたためレンは手に持っていたナイフを投げる。


「ぐっ!」


 と声を出しながら顔を隠した人物が空中でバランスを崩して落ちた音が聞こえた。


「良い腕なのじゃレン!」


 クシフォンがレンの投擲の技量を褒めながら手を叩いている。


「初めて使ったから若干賭けだったがな……」


 スキルは今インストールしたばかりで熟練度が低い。正直、今のは外れてもおかしくなかった。



「くそぉ……捕まってたまるか」


 と言いながら男が立ち上がっているのが見えた。帽子を落としたようで顔も見えている。 


「お前は魔族か?だとしたら何がしたいんだ?」


 レンは、アイテムボックスから剣を取り出して引き抜き、威圧を使いながら男に近づく。


「ぐ……それはお前が……知らなくて……良いこと」


 レンの威圧を喰らい、途切れ途切れに言葉を発する。男にとってレンは、死神の様に見えていた。


「なら、捕まえて色々と教えてもらうよ」


 とレンがさらに一歩進む。


「いや、待て!俺が悪かった。やっぱり話すから許してくれ!」


 と男が土下座する。服からは武器を取り出して抵抗しないと表している。


「そうか、じゃあ早速」


「あっさりと信じやがったな!」


 と男が隠していたナイフを取り出してレンに突き刺してくる。


「レン!」


 倒れて行くレンを見ながらクシフォンが叫ぶ。


「ハハッ、ビビらせやがって!後はどうにかそこのガキを殺せば……なんで濡れてやがる!」


 と言いながら男がクシフォンに向かおうとしたが足元が濡れていることに気づく。


「まあ、気づけないか。身代わりだよ」


 とレンが言う。アクアドールを使用して作ったのだ。


「いつの間に!」


 男がヤケでレンに向かうがレンはあっさりと捕縛する。


「レン、別に身代わりなどせずともお主なら倒せたじゃろうに」


「まあ、何か良い情報を話さないかと思ったけどその前に倒しちゃったからな……ちょっとミスった」


 とレンが言う。もう少し魔法を調節して待ってみるのも良かったかもしれない。


「お前……」


「とりあえず、眠ってろ」


 とレンはうなじに手刀を落とす。案外やってみると気絶させられるものだ。力加減を間違えば吹き飛ばしそうだが……



「騒ぎがあったと聞いて来たが、終わってしまったか?」


 と言いながら2人の兵士がレン達の所にやってきた。そしてレンとクシフォン、縄で縛られた男を見て状況を察した様だ。


「まさか、魔族を捕えたのか?レン君!」


 と位の高そうな兵士が言った。


「ああ、そうみたいだ。あれ、あなたは!」


「ああ、2ヶ月程前にあったかな?君がワイバーンを討伐した時にあったノックスだ」


 と言う。そういえば、あの時話した気さくな良い人だとレンは思い出す。


「ええ、覚えてますよ。もしかして、陛下の指示で?」


「ああ、街の巡回をしていてな騒ぎが起きれば近くの者が駆けつける様にしているのだが、まさか早速こんなことが起きるとは……」


 と気絶した男を見ながら言う。魔族が王都に潜んでいると言うことが確実になってきたのだ。


「とりあえず、場所を移しましょ……不味い!」


 レンが移動を提案した時にあることに気がついた。


「なんじゃ!またあれか!」


 クシフォンが上空を見ながら呟く。レン達に向かって矢が降り注いで来ているのだ。



 ノックス達ではどうしようも出来ないためレンがすぐに動く。


 右手で掴んでいた魔族の男を放し、左手はクシフォンを庇いつつ、空いた右手を上空に構えた。


「アクアウォール!」


 大量の水の壁を展開する。だが、そうそう矢の勢いは止まらず、こちらに向かってくることは誰でも容易に分かった。


「レン君!」


 ノックスが声を出すが、


「大丈夫です、アイス!」


 とレンが言った瞬間に、水が凍り矢を完全にからめとった。


「焦ったのじゃ……」


 とクシフォンが呟く。



「いや、まだ来るな……」


 とレンは呟く。


「なに!まだ攻撃してくるのかね!」


 とノックスが驚いている。


「ノックスさん達は、この男を運んで移動してくれ!俺は、敵をどうにかする。クシフォンは、帰ってろ!」


 と口早に言い、クシフォンに転移をかけてエリアス達がいる会場に無理矢理送った。


 すぐさまレンは屋根に登り矢が飛んでくる方に向かって走り出す。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 しっかりと剣で矢を弾きながら、足は緩めないため敵も焦りを出すのではないかと思う。


『100メートル先に発見しました』


「わかった」


 ナビゲーターさんが正確な場所を発見したためそこに向かう。


 正面にボロボロのフードを被った人物がいたためそこに向かう。相手が矢を引き絞ったのに合わせてレンは魔法を使う。


「転移!」


 男の後ろに移動したレンは、剣を突きつけながら



「さあ、話してもらおうか、お前達の目的を」


 と言うのだった。







「な、クシフォン様!」


 フィーズは、目の前に突然現れたクシフォンに驚く。エリアス達も同様だ。


「襲われてレンに転移をかけられたのじゃ!」


 とクシフォンが簡単に説明を言った瞬間にエリアスが立ち上がる。


「私が行く!みんなはここにいて」


 と言いすぐさま観客席を離れて行くのだった。

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