第180話 狂人と暗殺

「キャ、ハハ〜!いや〜、やって来ましたね王国」


 と複数の色が入り混じった暗めな髪色をした男が笑っていた。場所は、王都よりも離れた所にある小さな森の中だ。


「筆頭……これからどう動くのですか?」


 黒いフードをかぶった男が変わった髪色の男に話しかけていた。


「ギャッハ〜、これからまもなく到着する魔族の方々と合流するんですよ。そして〜、王都に攻めてみるとしますかぁ」


 凄まじい目力を見せながら言っている。とても普通の人とは思えない顔だった。


「面白いことになりそうですね……」


「死を与える……」


 周囲の黒いフードを被った者達が言っている。みな物騒なことばかりが口から漏れている。


「ハハッ、楽しみですねぇ〜。昔襲った狼人族の村位は、見ていて楽しめると良いんですが」


 と過去を思い出すように清々しい表情をする。


「筆頭だけが生き残ったっていう?」


「ええ、光明の魔女に邪魔されましたがね。村が壊れていく様は見ていてとても興奮するものでしたよぉ」


 自らの身体に腕を回り悶えている。気持ち悪いものがあった。


「筆頭!王都に先に入った魔族からの連絡で魔王の娘を見つけたとのことです」


「ヒャヒャ、殺してしまいましょう。積極的に狙ってください!早く王都に行きましょうか」


 とルンルンとピクニックに行くかのような軽い口で言う。


『スティグマの力を見せつける』


「ヒャッハッハッ〜、スティグマ戦闘部隊筆頭サジャードが行きますよぉ〜」


 厄介な者が王都に向かう準備を始めていた。






 王都武道大会は、2日目になっていた。昨日の対戦から今日、王国最強の男アルファードが出ることは確定なため多くの観客が会場に集まっていた。


 とりあえず、レン達は午前中は試合はないだろうと言うことで観客席からのんびりと見守ることにした。


「それにしても、お前達はそっくりだな」


 とレンが言いながら目を向けると、そこではルティアとクシフォンが一生懸命出店の食べ物を食べていた。


「何言ってるのよ!」


「何を言っているのじゃ!」


 と同時に返して来たためもうシンクロ率が高過ぎる。



「全く、なぜ我々が貴様と同じ場所にいなければならんのだ」


 とフィーズは文句を言っている。クシフォンは、扱いやすいのだがフィーズをどうにかするのはなかなか難しい。


「まぁ、怒るでないフィーズ!これはなかなか美味いぞ。食べてみると良い」


 と言いクシフォンがフィーズに食べ物を渡す。


「な!ありがたき幸せ!」


 と言いフィーズが受け取っていた。フィーズは、クシフォンに対しては激甘だ。クシフォンさえ言いなりにすれば後は安心ということだ。


 救国の英雄も警備で忙しいためレン達でクシフォン達の様子を見ておくことにした。どこにスティグマや魔族が潜んでいるか分からないのだ。




 第5試合は、Aランク冒険者同士の戦いで会場は、なかなか盛り上がっているようだがレンとしてはそこまで面白くもなく若干眠気を感じていた。


「レン、喉が渇いたのじゃ!妾と何か買いに行くのじゃ」


 と服を引っ張りながらクシフォンが言ってくる。


「なぜこいつと!私が参ります、クシフォン様」


 とフィーズが言う。レンを誘ったのが納得いかないようだ。


「フィーズ、妾はレンと行くと言ったのじゃ。待っておるが良い」


 とクシフォンに言われ、仕方なく待つことにしたようだ。なんだかシュンとなっている。


(貴様、何かしたら許さんからな!)


 と強い目力を感じた。


 エリアス達にもすでにクシフォン達の素性は説明してある。しっかりと納得してもらい今に至っているのだ。


「お母さん、何かあったら頼む」


 レミに一言声をかけてレンは、クシフォンと飲み物を探しに向かうのだった。



「お主、かなり眠そうにしていたからの。気分転換も大切なのじゃ」


 とクシフォンが言う。気を遣ってくれたらしい。意外と周りを見ているようだ。


「まあ、自分の知ってる人とかの戦いなら良いんだけど、知らない人となるとな」


 と欠伸をする。


「妾に感謝するのじゃ。飲み物は奢りじゃな!」


 と言っている。


「何が飲みたいんだ?」


 クシフォンの好みは知らないため聞いてみる。種族によって好みもあるのかは気になる。


「うーむ、新感覚な物が飲みたいのじゃー」


 とのことだ。


「これなんてどうだ?」


 と言いながらレンはスマホの写真を見せる。そこに写っているのは元の世界で流行っていた飲み物、タピオカミルクティーという物だ。


「なんじゃ?なかなか面白そうじゃな。これが飲みたいのじゃ」


「まぁ、この国にはないな。残念ながら」


 この世界にすらないなと思いつつ答える。


「興味深くて忘れられなくなるじゃろうが……まぁ良い何か見つけるのじゃ!」


 と言いつつ出店を物色し始める。


 レンも何か良い物がないか、のんびりと出店を見ているとナビゲーターさんの声が聞こえる。


『殺気です、マスター』


 レンは、すぐさま気持ちを切り替えた。近くにスティグマか魔族がいるようだ。そしてそいつはレンやクシフォンを狙っていると言うことだろう。


 すぐさまレンは、クシフォンの側に張り付いて歩き始める。


「なんなのじゃ?」


 とクシフォンは、疑問に思ったがレンはそれよりも他に注意を向けていた。



『来ますね、暗殺を狙ってます。標的は、クシフォン・ニアードの様です』


「ああ、だけど腕がまだまだだ」


 レンは、スキルを発動する準備をしながらクシフォンに迫ってくる人物を目に捉える。



 帽子を深く被り顔を隠した人物がレンとクシフォンの方に歩いて来て、クシフォンに向かって何かを握った手を突き出して来た。


 その瞬間にレンは、スキルを発動する。


「な、どうしてだ!」


 顔を隠した人物が驚いていた。


「これのことか?」


 と言いレンは、周囲には見えない様に手にしたナイフを見せる。


『見事なタイミングの強奪でした』


 とナビゲーターさんが評価してくれる。


「まさか、妾の命を?」


 とクシフォンが呟くと同時に顔を隠した人物は逃げ出す。


 レンは、隣にいるクシフォンに危険が及ばない様に注意を払いながら男を追うために走り出すのだった。

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