第157話 クシフォンと狙う影

「妾は、魔王の娘!クシフォン・ニアードなのじゃ」


 腰に手を当ててドヤ顔で言う少女を見てレンは、面倒なことになりそうだなと思わずにはいられない。


「そっか、じゃあさようなら!」


 手を挙げてレンはこの場をすぐさま去ろうとする。


「なっ!待つのじゃー!」


 すぐさま足を掴まれる。


「いやいや、特に怪我をした様子もないみたいなので俺はこれで失礼しますよ」


 意地でもレンは行こうとするが離してくれない。


「一緒に来たやつとはぐれたのじゃ。再会するまで暇つぶしに付き合うのじゃ!それでも逃げようとするならお主にいかがわしいことをされたと叫ぶのじゃ!」


「な!なんて卑怯な!」


 レンは足を止めるしかなかった。







「このお菓子、甘くて美味なのじゃぁ〜」


 レンの目の前では、クシフォンが美味しそうにデザートを頬張っている。


 現在レン達がいるのは、カフェのような場所だ。甘い物を食べたいとのことなので、適当にやってきたのだ。


「確かに美味いな、それにしても本当に魔王の娘なのか?冗談にしては笑えないぞ?」


 レンは、クシフォンに言う。


「む?妾の言うことを疑っておるのか?妾は正真正銘、魔王の娘クシフォン・ニアードなのじゃ!」


 嘘を言っているようには見えない。まぁ本物なのだろう。


「魔王って本当にいるんだな……それにしても、そんなに簡単に魔王の娘って名乗らないほうが良いんじゃないか?ここは人間の国だし」


「むう……格好いいと思うのじゃがな」


 良くないことを考える人も出るかもしれない。もしものことが有れば……


『そうですね。もし、この娘が王国で死んだ場合には魔王軍が王国に戦争を仕掛けてもおかしくはないかもしれません』


 とナビゲーターさんが言う。そんなことにはなって欲しくないものだ。


「とりあえず、不用意に魔王の娘なんて名乗らなように……命を狙われても知らないぞ?」


「ふん、言うではないか。まぁ、気をつけるとするのじゃが、妾もそう簡単には負けないのじゃ」


 と強気だ。


『彼女は、なかなかの実力を持ってますよ。魔族であるため魔法なども優れてそうです』


 とナビゲーターさんが言う。


「それは凄いな」




「お菓子も食べ終わったのじゃ……妾のお供を探しに行くのじゃ、レン」


「俺もですかいな……」


 カフェのお支払いはレンの担当だった。お金も持ってないらしい。速くお供を見つけて帰りたいなとレンは思うのだった。




 魔族には、何か特徴とかないのか?と聞くとツノなんかもあるが隠していると教えてくれた。


 人間の国に入るときなんかは魔法を使って化けているようだ。案外、周囲にもいたりするのかもしれない。


 街にある出店を楽しそうにクシフォンが見て回っているのを見ながらレンは、周囲に気配探知系のスキルを集中して使う。


『カフェ辺りから付いてきている者が2人ほどいますね。マスターを、いえ、クシフォンの方に狙いがあるのかもしれません』


「お供ならすぐに近づくよな……偶々なんてこともないか……」


 早速何やら厄介ごとが始まりそうな流れになってきている。


「どうしたのじゃ、レン。ボーッとしおって」


 とクシフォンがこちらを向いてくる。


「なあ、クシフォンは誰かに命を狙われてたりしないよな?」


 小さい声で聞いてみる。


「妾の命じゃと?妾の国なら父上への恨みとかで命を狙ってくるのもいるかもじゃが……この国でも狙われないじゃろうに」


「クシフォンの国じゃ狙われてるのかよ……」


 もしかすると魔族が付けてきているのかもしれない。一度人気のない場所に入って動きがあるか試すのも良いかとも思う。


「とりあえず、クシフォン……俺について来てくれるか?」


「なんじゃ?仕方がないのぉ」


 と言いクシフォンが付いてくるのでそのまま路地裏に入ってみる。相手の実力はわからないが、レンが尾行に気づけるので苦戦することはないだろうと思う。


「クシフォン、俺の側を離れるなよ」


「お……おう。わかったのじゃ。レンよ、お主急に格好良いことを言うのじゃな」


 とクシフォンが驚いている。レンの表情は真面目そのものだ。




 路地裏に行くと、レンとクシフォンに続いて尾行者がついて来た。


「さて、さっきからついて来てるのはお前達だな……尾行にしては下手すぎるぞ」


 とレンが言う。


「ほう、バレていたか……」


「我々を見つけたことだけは、褒めておこうか」


『見つけたのは私ですけどね』


 うん、まさしくそうだ。



 現れた2人の男達には、ツノがそれぞれ2本生えていた。


「魔族か……」


「な、なんでお主らがここにいるのじゃ!」


 同じ魔族がこの国にいることにクシフォンは驚いている。


「魔王の娘であるあんたに生きててもらっちゃ困るんでな」


「人間の国で死んでもらった方が始末が楽だしなぁ」


 男達は、剣を持っていた。これはクシフォンを殺す気満々だ。そしてすぐさま攻撃を仕掛けてくる。



 だが、レンがそれを好きにさせるはずがない。クシフォンを抱き上げてすぐさま上に跳ぶ。


 そして屋根に着地しながら言う。


「さすがにクシフォンを殺される訳にはいかないな。このまま、王国から去れ」


 威圧を込めてレンが言う。


「ぐっ……なんだこいつは……強い」


 レンの方が実力が上であるため、威圧がしっかりと効いている。油断しない限り問題はなさそうだと思う。


「だがなぁ、俺達はそいつらを殺せと言われているんだ!」


 と言いレン達に向かって剣を持って跳び上がってくる。


「なら相手になってやる。来い!」


 と言いレンも戦闘態勢に入るのだった。

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