第109話 励ましと上達

 レンとエリアスが転移で移動したのは、迷宮都市の外である平原だった。


「ここなら夜は誰も通らないだろうし、修行が出来る。えっと……そろそろ離れても……」


 とレンが言う。エリアスが抱きついたまま動かないからだ。


「あっ、ごめん!」


 とエリアスが言いながら離れる。少し残念そうに感じている気がした。



「それにしても、ここまで転移で飛べるんだね!」


 迷宮都市から外まで飛んできたことにエリアスは、正直驚いている。


「少しずつだけど、距離が伸びてきてるよ。そのうち、王都とかフェレンスにも行けるかもしれない」


 きっとそうなればフィレンやアリーも驚くことだろう。




「それで、どんな修行をするの?」


「ああ、そうだったな……どう説明したものか……」


 レンは、昨日ナビゲーターさんと話した内容について説明してみる。


「へ〜、なるほど……難しそうだね」


 話を聞いたエリアスは頭を回していた。確かにレンの力は特殊ではあるので理解が難しいだろう。


『この力は、私でさえ把握できてませんのでマスター達に上手く説明するのは難しいです』


 とナビゲーターさんも言う。


「難しいよな、だからとりあえず、ナビゲーターさんにも頑張ってもらって感覚を掴めるようになるよ」


「私は、役に立ちそうにないね」


 とエリアスは、ションボリとしている。


『マスター!ここでエリアスを励ますのです!彼女にかっこいい姿を見せるのです』


 とレンの頭にはナビゲーターさんの声が響く。


(えっ!どう言ったら良いんだ?)


 とレンは悩んだ。だが時間もない…やるしかないんだ!と思いエリアスに迫る。



「エリアス!そんな悲しい顔しないでくれよ。君が励ましてくれるから俺も頑張れるんだ。だから笑っててくれ、俺はエリアスを守れるようにさらに強くなってみせるから!」


 エリアスの両肩に手を添えてレンは言う。


「そうだね、ションボリしてても始まらないね。私も一緒に強くなるから頑張ろう!」


 少し顔を赤くしながらもエリアスは、レンに宣言する。


『まあ、及第点だったと言っておきましょうか』


 と頭にナビゲーターさんの声が響く。なかなか厳しい評価だなと思った。



「私も強くなりたいからね。どうしたらいいかナビゲーターさんにアドバイスもらえないかな?」


 とエリアスが言う。


『そうですね……出来るだけ長時間雷魔法を纏っていられるようになれば良いかもしれませんね。まだ使い方にムラが多いので、上達すれば今までよりも強くなれます』


 とナビゲーターさんが言う。ナビゲーターさんは、レンを通してエリアスの話を聞くことは出来るが反対にエリアスに伝えることは出来ないのでレンが説明する。


「………と言うことらしい」


「わかった、それを課題にしてやってみるね。いつかナビゲーターさんともお話ししてみたいな!」


 レンを支えている存在としてナビゲーターのことを気になっているようだ。


「私も話せる日を楽しみにしてます、だって」


 とレンは伝える。話せる日もたぶん近い……





「ナビゲーターさん、動かせそう?」


『あと少しで腕を動かせそうなんですよね……』


 ナビゲーターさんが頑張っている中、応援しか出来ないのは残念なものだ。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 近くではエリアスが雷を纏っていた。付近はエリアスの光でとても明るい。


 雷を纏った状態で武器を振るうなど様々な動きをしている。MPも効率的に上がるかもしれない。使い続けることでコツも掴めるだろうし、良いことが多い。



『あ、マスター!右腕が動きましたよ』


 とナビゲーターさんが言いながら、動かす。


「凄いなぁ!勝手に動くとか変な感覚しかしないよ……」


 レンが右腕を見ると指を動かしたり肩を回したりしている。レンとしては右腕はないような感覚だが、そこにあるため麻酔でもされたかのような気分だ。


『なかなか難しいですよ……完全にコツを掴んだわけではないので……あ』


 と言っていると拳が自分に向かってくる。


「え!ちょっストップ!うわっー!」


 と言ったが止まらず拳がレンの顔にヒットする。


「いたた……まさか自分に攻撃されるなんて」


『申し訳ありません、マスター。コントロールに失敗しました』


 まあ難しいなら仕方ないと思う。殴られるのは痛いが……


「レン!大丈夫だった?」


 エリアスがレンの赤くなった頬に触れようと近づいてくる。魔法を纏ったままだ……


「あ、しまった……」


 レンは雷を喰らう。


「ああ!ごめんなさい!魔法を切ってなかった」


 とエリアスが慌てて離れる。完全にうっかりしたようだ。


「まあ大丈夫、魔法耐性でなんとかなったから!エリアスは、魔法を続けて」


 とレンは答える。それが無ければダメージが入っていたかもしれない。





「はぁ……はぁ…」


 エリアスが膝をつく。MPが切れかかっているのだ。


「上手くいってる?」


「うん、なんとか……少しは、出来てる……かな」


 と呼吸しながら答える。


「とりあえず、ポーション飲んでね。少しでも長く上手く魔法が使えるなら良い事だよ」


 エリアスはアイテムボックスからポーションを取り出しながら飲みだす。



 再びエリアスも練習を始め、レンも再開することにする。


「ナビゲーターさん、いけそう?」


『はい、マスター。頑張ります』



 右腕のコントロールは、かなり精度が上がっているみたいだ。右手を使って魔法を発動することも出来ている。


「これは、かなりの進歩だね。このままいけば仮説が現実になるかも!」


 強力な切り札になることは間違い無いだろう。





 再びエリアスが膝をついたのでここで帰ることにする。


「いきなり無理しすぎてもいけないからな」


 と言いながらレンはエリアスを抱え上げる。お姫様抱っこというやつだ。


「えっ、ちょっ……」


 エリアスは、恥ずかしそうにしていたがそのまま動かないことを選んだようだ。


 そのままレンとエリアスは転移で宿に帰っていくのだった。

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