第108話 腕相撲とルティアの賭け

 37階層に到着した一行はここで帰ることにした。


 外に出てみるとすでに日が暮れており、夜の闇が広がっていた。


「迷宮では太陽が出てたから感覚が狂いそう」


 と空を見ながらエリアスが呟いている。人は、そういうことに敏感だから大変だと思う。



「みなさん、今日はありがとうございました!おかげさまでとても充実した1日を過ごすことが出来ました!」


 と挨拶をしてアイリは、帰っていった。




 街中を歩きながら少しだけ買い食いをする。出店に売っているものがなかなか美味いのだ。王女様でも気にいるレベルだ。


「賑わってるなぁ……」


 レンは、周りを眺めながら呟く。冒険者達が多く、腕相撲や飲み比べなんかをしているのだ。毎日が祭りじゃないかと言えそうな盛り上がり方だった。


「レン!あれ、なかなか面白そうじゃない?やってみなさいよ」


 ルティアが指差すのは、腕相撲をしている冒険者達だ。周りではお金をかけている。


「ムキムキで強そうだな。みんな体格良すぎないか?」


「冒険者をやってると自然と鍛えられるからね!」


 とエリアスがレンの横に来て言う。



「おう、ボウズ!なんなら挑戦していくか?今日は、この都市で最も腕相撲が強いウィグ・ストロンガーがいるぜ!」


 とムキムキの男が言った先には、声をかけてきた男よりもさらに凄い筋肉の男がいた。


「おお、強そうだな」


 とレンは、ウィグと言われた男を見ながら言う。


「どうだボウズ?勝てんだろうが、遊びでやってみると良い」


「俺達は、特に何かを賭けたりはしないのか?」


「ああ、遊ぶつもりでやってくれ。楽しんだもん勝ちだ」



 ならやるとしようかと思い椅子に座る。周りではどちらが勝つかというより、レンがどれだけの時間耐え切れるかと言う賭けが始まっていた。


「ありゃ一瞬で終わるぜ」


「ウィグ相手じゃな?」


 と言う声や


「神の奇跡を信じてボウズに賭けてみるか!」


「お前、正気か?」


 最初に、レンに話しかけてきた男がレンに賭けていた。周りからはやめておけと言われているが……


「私は、レンの勝利に全賭けね」


 と言いながらルティアは、自分の財布の中身全てを出していた。王女にあるまじき行動な気がする……周りの奴らも驚いている。


「あいつ……」


 とレンは小さく呟く。エリアスとミラは賭け事はしないようだ。



「俺は、ウィグだ。よろしく頼むぜ挑戦者よ!」


 と言いながらウィグが手を差し出してきたので先に握手する。なかなか気さくな人だ。


「レンです。よろしくお願いします!」




「よし、準備は良いか?」


 ウィグとレンが腕を組む。腕の大きさは一目瞭然でレンが圧倒的に小さい。


「頼むわよーレン!全財産賭けたんだからね!」


 とルティアが人一倍応援してくる。金がかかっているためやる気が違うのだ。


「いくぞ、3、2、1…ゴー!」


 と審判役が言った瞬間、ウィグが凄まじい力で腕を倒そうとするが、レンの腕はピクリとも動かない。


「な!なんて重いんだ!」


 ウィグは、衝撃を受けていた。目の前のレンは涼しい顔をしたままだ。


「ほい!」


 とレンが言いながら腕を動かすと、反対にウィグの腕が机につく形となった。


「勝者、レーーーン!」


 審判役が言った瞬間、衝撃が走る。


「あのガキ、勝ちやがったぞ!」


「まじかよ、都市で1番腕相撲が強い男が負けた……」




「凄いな……レンと言ったな、私の完敗だ。もしやAランク冒険者なのか?」


「対戦ありがとうございました。俺はBランクですよ。なりたてですけどね!」


 ランクを聞かれたので答える。


「なに!私と同じなのか!きっとすぐに上に行くだろうな。未来の英雄と戦えたこと嬉しく思うぜ」


「俺も楽しめました!」


 と言いながら2人は握手する。



「よくやったわ、レン!大儲けよ!」


 ルティアは、とても喜んでいた。お金をしっかりとしまっていっている。


「お前なぁ……」


 とレンはため息をつきながら呟く。

 賭け事が駄目とは言わないが、破産したら大変なのだ。




 楽しめたことだし、宿に戻ることにする。


 後ろでは、儲かったから今度女子で出掛けようというような会話がなされていた。仲良しだなと思いながら良いことだと思った。


 宿でご飯を食べ、それぞれの部屋に帰っていく。レンは、再び修行のため外に向かおうとする。


「昼間怒られたけど反省はしないぞ……」


 と言いながらも、扉を開ける。


「どこに行くのかな?レン」


 ニコニコとした様子でエリアスが立っていた。目は笑ってない気がする。


「あっ……いや、どこも行かないよ〜」


 と言い扉を閉める。こうなれば窓から出るのみだと思い窓を開ける。


「やっぱり出かけるんでしょ?」


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 窓を開けるとエリアスが壁につかまりながら顔を出す。さっき廊下にいたよね?と思いつつレンは外に出る。転移でも出来るのだろうか?


「レンがただ楽しみだけで迷宮を登ってるとは思えないんだけど、私には教えてくれないの?」


 とエリアスが聞いてくる。自分の考えなんてお見通しなんだなとレンは思った。


『エリアスは、マスターにとって大切な人なんでしょう?話すべきですよ』


 とナビゲーターさんが言う。


「変なこだわりは捨てるべきだよな……聞いてくれるかエリアス、俺は王都で暴走した力を使いこなすために夜に修行してるんだ」


「やっぱり、気にしてたんだね。ごめんね、私がもっと強かったら……うん、そうだね!私も手伝うから頑張ろう!」


 エリアスも申し訳ない気持ちになる。レンはどうしても無理をしてしまうのだ。エリアスが好きになった人は本当に優しい…だから少しでも力になりたいと思った。


「あれ、人が壁に捕まってるぞ!」


「何かあったのか?」


 と下の方がザワザワしてきたので、今いる場所を思い出す。


「こんな高い所に捕まってたら目立つよな。エリアス、俺につかまって!」


 とレンが言うとエリアスがレンに抱きつく。


「よし、行こうか!転移」


 と魔法を発動し、その場所から消えるのだった。

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