第92話 買い物と浮かれるレン

 ポロロン〜ポロロン〜


 と音がなりレンは目を覚ます。スマホのアラームの音だ。


「懐かしい音だよな……なんか元の世界に帰ってきたみたいだ」


 そんなことを呟きつつカーテンを開けるが、窓から見えるのは元の世界の街並みではなく、異世界のものだ。


 このまま二度寝をしたら元の世界では母親が起こしにきたが、ここでは来ることもないので何となく二度寝に入る。


「夜に迷宮探索すると眠いな……」


 レンの意識が落ちようとした時に、声が降ってくる。降ってくる?


「起きなさぁぁぁぁぁい!」


 上から声が降ってくるのだ。そして次の瞬間にレンの身体に衝撃を感じる。ステータスのおかげで痛くはないが驚きはあった。



「なんだなんだ!」


 大慌てで目を覚ますと、寝ているレンの上にルティアが乗っていた。飛び込んできたようだ。


「二度寝とはいい度胸ね。私がわざわざ起こしに来てあげたのよ」


 と言う。何て起こし方だ!とレンは思う。心臓にとてつもなく悪い。



 完全に目が覚めたレンは、起き上がり支度を始める。どこの世界に王女様に起こされる冒険者がいるのだろう……と思いながら。




 食堂で朝食を食べながら、おしゃべりをする。


 ルティアは、安定の大食いを発揮しておりレンの所持金を少しずつだが削っている。レンの所持金もかなりの額があるためそうそうなくなることはないが……


「とんでもないね……」


 ミラが衝撃を受けている。


 ちなみに、レンとミラは名前で呼び合うことにした。異世界では、名前で呼ぶのが一般的のようだしエリアスやルティアのことも名前で呼んでいるのだからそれでいいだろう。



 そういえば。食事に関してはレンも元の世界にいた時よりも食べるようになった気がする。冒険者をしてるからだろうか?と思い、今度ハルカとかに会ったら聞こうと思う。




「迷宮に行こうと思ったけどミラの装備が全くないな」


 未だにミラの装備は制服だ。


「いや〜、街に着いたらね、服を買わなきゃ目立つよな!なんて思ってましたとも、さすがの私も。でもね無いんですよ!お金がぁぁぁ」


 なんとも悲劇的な語り口調だなとレン達は眺める。やはり彼女はこんな性格では無かった気がする。


『異世界に来て浮かれているのだと推測します、マスター』


 ナビゲーターさんの予想にレンも賛成だ。ミラの意外な一面が明らかになった気がする。




「迷宮都市だし、良いものが売ってるかもしれない。早速何か探してみるとしようか?」


 とレンが言い、4人で向かうことにする。



 そこからは、ショッピングとなりレンはどちらかというと荷物持ち的な形になった。


 別に両手に荷物を持っているわけではない。レンにはアイテムボックスがあるからしまうだけだ。


「あの〜、これも欲しいんだけど……」


 とミラが申し訳なさそうに言ってくる。


「ん?気にしないで買って良いぞ?」


 とあっさりとレンは答える。お金には余裕がある。



 ここでエリアスを見てみると、服を見てレンを見てを繰り返している。


「エリアス、好きなの買って良いんだから遠慮しないでくれよ」


 と声をかける。その瞬間パァァと花が咲いたかのような笑顔になった。よっぽど欲しい服があったようだ。



「凄いわね、あの子。たくさんの服を連れてる女の子に買ってるけど、お金持ちなのかしら……」


「武器を持ってるし冒険者よ……かなりの実力があるんじゃないかしら」


「声かけてみようかしら……」


 などなど、レンについての声がいくらか聞こえてくる。


「ふふっ、当然ね。レンだもの」


 とルティアがドヤ顔で語る。なんだそれはとレンは思うが……



「3人も女を連れてるぜ、あの男」


「ムカつくなぁ、ボコボコにしてやるか」


 と今度は血の気の多い声も聞こえる。



「うわ……めんどそうなのがいるよ」


 とレンはため息をつく。




 数分後、レンの周りには、絡んできた男達が倒れていた。絡んできたので、わからせてやった。余裕で倒しましたよ。


「絡まれるのも1回経験すれば満足なんだけど……」


 お約束の展開が何度も起こっても面倒だと思うようになってきた。



「あの子とても強いわよ!」


「強いし、お金持ちだし……素敵ね」


「顔も悪くないし、お近づきになりたいなぁ〜」


 と黄色い歓声が上がる。



「おお!なかなか嬉しいこと言われてるなぁ」


 レンは、正直嬉しい気分になっていた。


『エリアスやルティア、私がいながら他の女に目を向けますか。許し難いですね、マスター』


 頭にナビゲーターさんの声が響く。


「えっ!」


 何か急にナビゲーターさんが不機嫌になったみたいだ。金髪の美しい女性が怒っているイメージが伝わる。



「ごめんなさい……」


 これはまずいと思い、レンはただ謝るのだった。

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