第83話 光明の魔女と次なる目的地
「王都に到着した時には、すでに戦いは終わってしまってたわね。結局、スティグマにも逃げられた」
王都を歩きながら女性は、誰にも聞こえない声で呟く。
スティグマの行動は速い。現れた場所を知ってから移動しても間に合わないことの方が多い。
手早く集めた情報によれば、スティグマの筆頭が2人現れたらしい。何を行なっていたかを聞いた時は驚いたものだ。
「光明の魔女なんて言われても所詮は人間、出来ることには限りがあるわね」
自分の力不足を感じながら歩いていると、目の前で子供がつまずき転んだ。
「大丈夫?」
光明の魔女は、子供にすぐに駆け寄り声をかける。
「うん……でも血が出てきちゃった」
「任せなさい」
光明の魔女が手をかざすとあっという間に傷が消え血も止まる。高位の魔法だ。
「え!すごい。魔法使いさんなの?」
「ふふっ、そうよ。治ったから立てる?もう転ばないのよ?」
子供が去っていくのを見つめながらふとあることを考える。
「あの子は、エリアスは元気かしら……」
呪われた少女、エリアスのことを思う。エリアスが救われる未来を感じ取っていたがそれはいつになるかもわからない。今も苦しんでいるかもしれない。あの時、送り出して本当に良かったのかとよく考える。
「困っている人を救うのはあの人との約束だしね」
自分が悩むと、今は亡き大切な人のことを思い出す。
「悩んでばかりじゃいけないわね!あの人にも、息子にもきっと怒られてしまう」
昼時ということもありお腹がすいてきた。さすがの魔女も空腹には勝てなかった。
「適当に何か食べて、またスティグマの捜索ね」
と呟きつつ、良いお店を探す。
ふと魔女の正面の方を見たことのある人がこちらに向かって歩いて来ている。
「あれは……エリアス?」
そう、見間違えようもない。白い髪、狼の耳、エリアスだ。
エリアスは、同じ歳くらいの男の子と少し歳が下くらいの女の子と歩いている。おしゃべりしていることから、エリアスは、呪いから救われたのだとはっきりわかった。
「普通に話している。よかった、本当に救われたんだね……」
魔女は、少し涙を浮かべながらもこちらに気づいていないエリアスに声をかけようと近づいていく。
だが途中で隣にいる男の子に興味が向いた。エリアスと楽しそうにおしゃべりしている黒髪、黒眼の子。そしてその容姿は自分が知っているような感覚がある。
「まさか、そんなことがあるはずない……」
魔女は、鑑定を使用する。
「何も見えない?スキル!」
これは鑑定がバレてしまう。と思いすぐさま人混みに紛れ離れる。
「鑑定をしたのがバレたわね……それにしてもまさか、あなたなのかしら?」
魔女は、昼食のこともすっかり忘れて王都を出るのだった。その心の中は、嬉しさと衝撃の半々となっていた。
街中をエリアスとルティアと歩いていたレンは、魔法がかけられた感覚を感じ取った。
「誰だ?」
「どうしたの!レン」
レンが突然声を出したためエリアスは驚く。
「誰かが俺を鑑定してきた。でも俺のを覗けないと分かるとすぐに逃げたみたいだ」
『私でも相手を追うことが出来ませんでした。かなりの実力者と思われます。悪意などは全く感じられませんでしたが……』
ナビゲーターさんでも追えないとは中々のことだ。
「一体誰がそんなことをしたのかしら?」
ルティアは、周りを見渡しながら言う。
「悪意は感じなかったから興味本位でかもしれないな……でも何でかわからないけど、悪い気が全然しなかった……」
レンはなぜ自分がそんな気持ちになったのかわからなかった。
「それにしてもランクアップも終わったし、これからどうするかというのを考えよう」
そう、王都に来た目的はすでに終わっているのだ。スティグマの騒動が無ければもっと早くに終わったのだが……
「王都を出てどこかに向かう?」
「そうね。それも面白そうだわ!」
エリアスの意見にルティアはかなり乗り気だ。王様、許してくらるのかなー
そうだとしたらどこに向かうか……それが問題となってくるのだ。なんなら目的のない旅も面白そうだが。
「2ヶ月後の武道大会までには、戻ってきたいしな……それに、少しは修行したい」
武道大会には、救国の英雄である最強の男が来るかもしれない。ぜひ、その男とも戦ってみたいと思ったのだ。
「そういえば、迷宮都市って言うのがあったわよ。修行するならそこが良いんじゃない?王都からはそんなに遠くないし」
ルティアが興味を惹くことを言った。
迷宮と言ったのだ。
「あるのか?迷宮が」
「ええ、あるわよ」
「そういえば、私も少しだけ行ったことがあるんだよね」
エリアスは、行ったことがあるようだ。
「そうか。なら次に向かうのは迷宮都市にしよう。さっそく準備を始めるぞ」
と言いながら歩いて行くのだった。
3章王都混乱編終わり
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