第53話 2人目の英雄と邂逅
王都の日陰とでも言うべき場所、スラム街。そこを1人の女性が歩いていた。
黒髪、黒目でありこの世界においては珍しい容姿だ。それでいて、見た目も美しいと言えるものであるため、スラム街で襲われることは当たり前だ。
「おいおい!なかなかに可愛い奴がいるじゃねぇか」
と数人の男達が女性の行く手を塞ぐ。
ここはスラム街だ。女性に助けなどない。スラム街にはスラム街のルールがある。入った時点で自己責任だ。
「警告です。どきなさい」
と女性は言ったが男達はどかない。
「なかなか威勢の良い女だな!こりゃ楽しみだ」
と下品な目を向けてくる。
このまま女性は男達に捕まるだろう。女性が一般人ならば……
パァン!
とスラム街に乾いた音が鳴り、最も女性の近くにいた男が倒れた。
男はなす術なくその場で倒れた。それだけで他の男達を動揺させるのには十分だった。
「私は、警告しましたよ?」
と凛々しい顔で言う。
「クソがっ!おいお前ら!全員でぶちのめすぞ」
と言い男達が襲いかかってくる。
だが女性の下までたどり着けた男は1人もいなかった。
「はぁ……」
と女性はため息をつき移動する。
「そういえばフィレンが言ってた子は、もう王都に着いたでしょうか……」
と呟く。
スラムの男達が勝てるはずもない。女性の正体は、救国の英雄の1人であるハルカ・ミナヅキなのだから。
最近の王都は、かなり不安定な状況にあるとハルカは考えながら歩く。モンスターの大量発生に加え、謎の疫病。
「やはり……スティグマの仕業と見るべきだろうか」
とハルカは考える。
謎の病気は、医者の診察や魔法使いの回復魔法でも完治には至っていない。症状を和らげるので精一杯だ。
「フェレンスにスティグマが出たとフィレンが言っていましたが、それとも関わりがあるのでしょうね」
と推測を口にしながらスラム街を抜ける。
ハルカは、そのまま王城に向かった。城の門番は来たのがハルカだと分かるとすぐに中に通す。救国の英雄にはそれだけの信頼があるのだ。
「陛下に面会することは出来ますか?」
とメイドに尋ねる。
「少々お待ちください。聞いて参ります」
とメイドは言った。
すぐにメイドが戻って来て、面会出来る事になった。
「陛下、失礼します」
とハルカは言い部屋に入る。
「ああ。来ていきなりで悪いが、何か情報は得られたか?」
と質問してくる。
「申し訳ありませんが、まだ掴めていません」
と答える。
「そうか……私は、この危機に何も出来ておらぬ」
と苦しそうに言う。
「陛下、王妃様のご容態はいかがですか?」
「魔法使い達の魔法で症状を少しでも楽になるようにしているが……時間の問題になるかもしれん」
と再び苦そうに言う。
外には発表されていないが、王妃も謎の疫病に感染していた。王城内の一部の者しか知らない事実だ。
「なんでも良い、情報を集めてくれ。頼む!」
と王は懇願するかのように言う。
「ええ!恩人に報いるため全力を尽くします」
と陛下に宣言し、部屋を出る。
ハルカが部屋を出て行った後、王は呟いた。
「すまないな……この世界に召喚したことを恨んでも構わないのに、ここまで力を貸してくれるとは」
と言った。
情報を少しでも得るため、一度冒険者ギルドに向かうことにした。
「この騒ぎでは、フィレンの推薦した子達のランクアップ試験も出来ないでしょうね……」
とハルカは呟く。
もうギルドに着いているかもしれないと考えながら、向かう。一体どんな人物なのか気になったのだ。
そしてギルドに到着し、中に入る。冒険者は多くが駆り出されていて、ギルドはかなり静かだ。昔は、昼間から酒を飲んでるやつもいたな……と思いつつ歩いていると、ある冒険者が目に入った。
黒髪、黒目さらにその身体内に秘めているであろうかなりの力を感じた。
彼のことだろう……しかも自分と同じだとハルカは確信した。
それと同時に向こうもこちらのことに気づいた様子だ。
「貴方がフィレンが言っていた冒険者ですか?」
と日本語で声をかけてみる。
あちらも、やはりという反応をして返す。
「はい、そうです。もしかしてあなたが救国の英雄の?」
と日本語で返ってきた。
「ええ、ハルカ・ミナヅキです。よろしく」
と言い手を差し出すのだった。
ギルド長との話が終わった後、レンとエリアスはギルドの受付近くにいた。
「さてこれからどうするか…」
とレンは呟く。
「うーん。大量発生の魔物を倒すのも良いかもしれないね」
そうだな…
と考えていた所でギルドの扉が開き女性が入ってきた。
黒髪、黒目の女性だった。まさか同郷ではないかと思っていると声をかけてきた。
「貴方がフィレンが言っていた冒険者ですか?」
と日本語で言ってきたのだった。
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