第50話 護衛依頼と新人

 ギルドに到着したレンとエリアスは、掲示板を見ながら王都に向かう護衛の依頼がないかと探していた。


「ないな……」

「ないね……」


 とレンとエリアスは揃って呟く。


 ギルドの依頼にも、常に自分のやりたい依頼があるというわけではない。人気の依頼などは競争になるためギルドに来るのが遅いと余り物しか残っていないのだ。


 レンは、自分が寝坊したことを後悔していた。


「馬車でも借りてのんびりと王都に向かいましょう」


 と落ち込むレンを察したのかエリアスが声をかける。エリアスの優しさが身に染みてくる。


「そうだな……」


 とレンは答えた。



 ここで、レンに声をかけるものがいた。


「おや!レンさんではないか。久しぶりですな」


 と言ってきた。


「あれっ!ゴリスさんですね。お久しぶりです」


 スティグマに初めて遭遇した時に助けた、商人の男だ。


「あの時は、本当に助かりましたぞ。レンさんは命の恩人だ」


 と改めてゴリスはレンにお礼を言う。


「いえいえ、ゴリスさんはギルドに何か依頼ですか?」


 と尋ねてみる。商人がギルドに訪れるのはそれが目的だと思われる。


「ええ。近々王都に戻ろうと思ってな、護衛の依頼をお願いしようとね。なんだったらレンさんが受けてくれたら嬉しいんだがね」


 とゴリスは言う。レン達が受けてくれたらと願望で言っている。


 これはレンとエリアスにとって願っても無いチャンスだった。


「「ぜひお願いします!」」


 と速攻で返す。


「本当に良いのですか?とても嬉しいが……」


 とゴリスは驚いたように返事をする。レンほどの実力者がいることは安心でしかない。


「ええ!俺たちは丁度王都に行こうと思ってたので」


 と試験などの話をする。


「レンさんの実力も知ってるし、早速依頼をお願いしようかな」


 とゴリスが言ったため、一緒に受付まで歩いて行く。


 受付には、いつも通りアリーが控えていた。


「商人のゴリスだ。護衛の依頼を頼みたいのだが、この2人にお願いしたくてね。2人も了解してくれた」


「そうですか。でしたらこちらで契約書などを作成させていただきますのでサインをお願いします」


 と手続きが進んでいく。


「手続きは完了です。依頼頑張ってくださいね」


 とアリーがレンとエリアスに言う。


「ああ!」


「ええ!」


 と2人は返事をする。



 とそこに声を出す者がいた。


「おいおい!商人のおっさん。そんな弱そうな奴らより俺たちを雇わないか?」


 と言ってきた。


 見るからに新人の冒険者のようだ。しかも実力を過信してるような……態度も悪いし。


「それは、この2人があなた達に劣ると?」


 とゴリスが聞く。ゴリスは、商人としての長年の目利きで冒険者の実力を測れている様だ。


「そう言うことだよ。明らかに弱そうだろが」


 と言った。無茶苦茶をいうものだ。


 その瞬間エリアスから殺気が上がった。


「落ち着いてくれ」


 とレンはエリアスの頭を撫でる。


「イラッとした、レン」


 とエリアスが言った。


『彼らの力はマスターには遠く及びません……実力をはかることのできない新人いえ、馬鹿ですね』


 とナビゲーターさんが言う。


 今日のナビゲーターさんは毒舌だな……


『失礼しました。主人を馬鹿にされたためイラッとしました』


 おお!今のは嬉しいな……


 周りの冒険者達は、面白そうに見ている。レン達が黒龍を倒す実力があることを知っているのだ。この事態がどう転ぶかを眺めている。

 1人くらい止めてやれよ……と思う。


 しかし、今更絡まれる展開が来ようとは……このまま馬鹿にされてるのも嫌なので、どうしようかなと考えてると、いきなり拳が向かってきた。


「さっさと依頼をよこしやがれ」


 と言ってくる。


 レンはそれを簡単に掴んで言う。


「ギルドで暴力は良くないぞ?」


 そして威圧を使う。さすがに魔物に使うものほどの力は込めないが……


 その瞬間、レンに絡んできた男は一瞬にして意識を刈り取られた。何が起きたかもわからないまま。


 レンは威圧を男だけに向けていたためそれ以外には被害は出ていない。


 他にも黒龍の討伐のことを知らない奴らはいるだろうし、舐められるのは面倒だなと思ったところでアリーが声をかけてくる。


「レンさん、こちらはギルド長からのBランク試験の推薦状です」


 と周りに聞こえるように言った。


 一部の若者冒険者からはどよめきが上がる。


 ギルドのカウンターの方ではフィレンが微笑んでいた。


 なるほど彼女の考えか……


 実力の測れない新人に絡まれるのも予想していたのだろう。


 さすがにこれ以上なにかを言う人はいなかった。


「さすがレンだね。威圧だけで倒すなんて……」


 とエリアスは感心していた。


「まあレベル差があったんだよ」


 とレンは言う。


 戦闘になる展開だと思ったが、その前に終わってしまった。


 ちなみに護衛は、2日後のためその間はまた、鍛錬なり、準備なりを行おうとレンは思うのだった。




 そして依頼を受けた翌日、鍛錬のため草原に出てきていた。


「さて、色々と試してみようか」


 と準備運動を始める。


「レン、その動きはなに?」


 とエリアスが聞いてくる。


「ラジオ体操とか知らないか……」


 レンはどうしたものかと思う。


「まぁ身体を動かす前に身体をほぐしている感じだ」


 と説明しておく。


「今日も、数日前と同じようにエリアスの武器の練習と俺の鍛錬をしていこうかなと思ってる」


 戦う時は、色々な戦法があった方が有利になるだろう。


 レンは、武器を取り出して鍛錬を行おうとするのだった。

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