第27話 お呼ばれとお礼

 窓から刺す日差しが顔にあたりレンは朝になったことに気がついた。


 元の世界ではアラームがないと起きられなかったのにこっちの世界ではそれなしで起きることが出来た。


『マスターおはようございます!』


「おはよう」


 ナビゲーターさんに挨拶を返しながらレンは少し欠伸をする。その時ちょうど6時の鐘が鳴った。早起き最高!


 上着を羽織り一階の食堂に降りていく。


 食堂で朝食のパンをかじっていた時に近くで朝食を食べている冒険者の会話が聞こえてきた。


「そういや昨日の夜にな、若い冒険者に絡んだ3人組が蹴り一発で吹っ飛ばされたらしいぜ」


「おいおい!そんな強くて若いやつこの街にいたかよ?」


 レンはそんなに話が広がるか……と思ってしまった。確かに現実的に考えて有り得ないかもしれないが、一流の冒険者だったら余裕でできるだろう。


 手早く食事を済ませてレンはギルドに向かうことにする。


 朝早いというのにフェレンスの街中はとても賑やかだ。お祭りみたいなのは嫌いではないが。


 ギルドに入り、依頼の掲示板を見る。


「魔物討伐でもやるか!」


 ゴブリンなんかも余裕で倒すことができるし金を稼がねばならない。薬草採取を経験したから次に進んでもいいだろう。


 依頼書を持って受付嬢のアリーの方に向かう。


「これを受けたいんですが……」


「レンさん、申し訳ありませんがギルド長がお話したいことがあるそうで、来ていただけないでしょうか?」


「はひっ?」


 レンは驚いた顔をした。

 スキルがあるのに噛んでしまう。


「あの、断るとかは?」


「来て欲しいのですが……」


 うーむ、断れぬ……。




 レンは現在ギルド長の部屋に向かってアリーと歩いている。


 まさかこんなに早くお呼ばれしてしまうとは……と思いながら。汗がたくさん吹き出てくるような感覚に陥る。


「ギルド長失礼します」


 と言ってアリーが部屋に入っていく。


「失礼します」


 と言いレンもそれに続く。


「よく来てくれたわね。レン・オリガミ」


 とギルド長ことフィレン・アーミラが言ってくる。魅力的で美しい人だと思うけど今のレンにそこまで考える余裕はない。


「自分になんの用でしょうか?」


 レンは単刀直入に聞く。どんな質問が来るだろうか?と脳内シミュレーションする。


「まぁそう慌てないで。アリー、呼んできてくれてありがとう。もう仕事に戻っていいわよ」


「失礼しました。ギルド長」


 アリーが出て行ってしまう。


 とうとう、部屋には2人だけとなる

 フィレンは、お茶を淹れる準備をしているようだ。


「どうぞ」


 良い匂いのお茶が出されたが、少し躊躇ってしまう。何か入ってるのではないかと。


「毒なんて入ってないわよ」


 フィレンは優雅な動きでお茶を飲んでいる。そんなにわかりやすい反応をしていただろうか?失礼をした様だ。


 レンも、スキルもあるし大丈夫だろうと飲む。


「失礼しました。……おお!こんなに美味しいお茶は初めてかもしれない」


 感激して頬が緩む。


「気に入ってもらえたかしら?これはエルフが作ってるお茶なの」


 エルフがお茶作りか……と日本にいた頃テレビで見た茶畑で働く人たちを想像してしまう。なかなか面白そうだ。


「それで俺に何か用でしょうか?」


 レンは再び尋ねた。


「そうね、あなたが何者かというのも気になるけど、お礼を言わせてもらいたいのよ。昨日、迷宮で突然オーガに遭遇したパーティを助けてくれたそうね。ありがとう」


 美しいエルフの微笑みと感謝の言葉をレンはもらう。


 このお茶、少し誘惑系の魔法入ってんじゃないか?と思った。それほどフィレンが綺麗に感じる。


「まぁ冒険者として助けるのは当然ですよ」


 ベタな回答をレンは返す。


「それでもよ、この街の新人冒険者じゃあオーガに敵わないと思うわ。あなたがいなかったら大事な冒険者を4人も失うところだった。」


「気にしないでください」


 とレンは返した。Dランクと言っても薬草採取をしてればEランクから余裕で上がれるのだ。だからDも新人である。


「ここからは私の興味なんだけど、いったいどんなスキルを持っているのかしら?私の上級鑑定も弾かれたのだから相当なものと思うんだけど……」


 レンは、鑑定を完全に無効化したらそれもそれで怪しいか…と思い直すのだった。


 ギルド長が冒険者を助けたくらいで呼ぶとは思っていなかったのでスキルの話が出て納得した。


 仕方ないと思い


「確かに強力なスキルを持っていることは否定しません。ですが詮索もしないでくださると助かります。もし無理にでもというのなら……」


 と言う。レン自身も気付いていないが少し声に威圧も混じっていた。



「わかったわ!あなたは恩人だし、それを無下にするのはいけないわね」


 思ったよりあっさり引いたことにレンは正直驚いた。もっと追求されると思っていたからだ。秘密を暴こうとまでは思わない人のようだ。


「俺はそんなに強くないですよ?期待しないでくださいね」


 ととぼけたが


「あなたが昨日、3人組を蹴り一発で吹っ飛ばした所を私もたまたま見てたのよ。あれだけでもあなたの力はこの街の冒険者でも上位に入るわ」


『見られていたとは、彼女はなかなか目が良いようです』


 ナビゲーターさんの言葉に頷きつつ、まさか見られてるとは思わず、恥ずかしい気持ちになる。


「まぁあなたは悪い人じゃない様だし、特にこれ以上話すことはないわ。急に呼んで悪かったわね」


 と言われたためお茶を飲みレンは退室したのだった。機会が有ればまたお茶は飲みたいなと思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る