第22話 やめて差し上げろ



 ユニがルネとフェルグスにブチギレた件から数日。困ったことが起きている。

「「…………」」

 双子からの、無言の圧力に身を縮こませるユニ。

 ルネは所用で遅れてくると連絡のあった放課後現在。いや双子の目が怖いわ。

「ヴィリジアス、ヴァンレーダル。やめて差し上げろ。圧かけんな」

「レフには関係ない」

「レフは黙ってなよ」

 いやいやいや。関係なくない。やめろ。

「おい。俺はお前達の大好きなお兄様の幼なじみで友人だぞ。少しは敬え」

「兄様は大好きだけどそれとレフに何の関係が?」

「レフは兄様じゃないから関係ないよね?」

「真顔で言うな」

 何言ってんの? って顔されると腹立つ。

 双子の視線を遮るように間に立った。

「ほら、ダンスレッスンやるぞ。ユニも」

「う。……は、はい」

 双子とユニが距離を取ったのを見計らって、投影装置プロジェクターのスイッチを押す。

 鏡張りのレッスン室、眼前にテストダンスの映像が映し出される。

 俺もそんなに激しくないけど踊る必要があるからやらないとな。

「う、わ、うわ」

 あ。ユニ、ステップ間違った。正しく踏まないとバランス崩すんだよなー。それでも持ち堪えた所から体幹の良さがうかがえるが……。

「付け焼き刃」

「にわか」

 うん。この双子は見逃さないよな。まるで小姑。

「レフ、そこ間違ってる」

「何でズレるの」

 ち。見逃さなかったか。

 リズム感とかダンスに関しては双子がメンバーの中でダントツで上手い。完璧に踊りながらこっちも見る余裕がある。

「いつもサビの一拍前で軸足が不安定になるでしょ」

「他人気にしてる場合じゃないと思うけど」

 ザックザク言ってくるなぁ。いつもの事だけど。

 しかもこいつら兄以外への表情が基本、無なんだよ。少しは愛想つけろよ。

 うちのファンにも基本そこ変わらないからな。

 ……まあ、ファンはそこが良いっていう集まりだから良いのかも知れないが。

 だって団扇に書かれてるのが『罵って』とか『ゴミを見る目』とか『冷笑して』なんだ。おかしいだろ。アイドルのファンだぞ? 推しに罵られたいってなに。

 若干双子も引いてるけどその反応にますます喜ぶファンていう構図だしわけわからん。

 それでも実際、双子のダンスは完璧だしアドバイスも言い方はともかく的確だから慣れるしかないんだけどな。

 そんなこんながあった翌日。

 何か放課後にユニを迎えに行ったら集団に連れてかれるとこを現在目撃したんだが。とりあえず様子見つつ尾行しよう。

 人気ひとけのない空き教室に数名に囲まれて入って行こうとするユニ。

 ……仕方ない。止めるかぁ。

 本当は、自力でどうにかして連れ込まれる前に逃げて欲しいんだけど、今回は助けよう。

「何してるの」

「ユニの分際で兄様を待たせる気?」

「何だお前ら」

「一年じゃねーか。邪魔ださっさと退け」

 おっとー……? 双子乱入……。

 助けようと思ったけど見守り続行。事によっては双子の方を止める必要が出てきたなう。

 え。これ被害大きくなる確定演出? やっぱ俺が止めときゃ良かった。くそぅ。

 しかも双子、ユニしか見てない。他、ガン無視してるし。

「おい! 無視してるんじゃない!」

しつけのなってないガキだな」

 あ。

「躾……?」

「それって、兄様を馬鹿にしてる?」

 ヤバいヤバいヤバい。あぁあ、何であの手合いって容赦なく地雷踏み抜くんだよ!

 既にカウントダウンするように何かが凍るような細かな音と慌てる声、小さい悲鳴が聞こえる。

 そこに不自然なほどハッキリ聞こえる、静かな双子の声。

「兄様だけじゃないんじゃない? 母様と父様も侮辱してるのと同じだと思う」

「ふぅん……」

「これは、もう――」


「「殺すしか」」


「ストーッッップ! 待て待て待て! ストップだストップ!」

 爆速で走り込んで間に入る。床、めっちゃ滑った。だって凍ってる。

「何やってるの、レフ」

「居たならレフが止めなよ」

「そうだな今度からはそうするよ! あと、今すぐその威圧引っ込めないとルネとルカさんに言うぞ!」

 途端、スン……と。双子から放たれていた威圧が消えて、凍っていた場所も人の一部(主に足)も元通りになる。

 告げ口カッコ悪い? 上等だ。俺は後々面倒事になるくらいならカッコ悪くて良い。


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