檻の中
しゃぁ、しゃぁ。
玄関から、竹箒をかける音がする。
年の瀬。
やや早めの昼食ののち。
「みーくん、今日は大掃除をします!」
そう高らかに宣言した彼女に、
共用部であるリビングの掃除を命ぜられた。
しかし。
「やることあんまないぞ、これ」
早世した両親から継いだ田舎の家。
18畳ほどのLDKは、記憶にあるどの時よりも綺麗だった。
「まぁ、のんはマメにやってるもんなぁ・・・」
とはいえ、直々のお達しである。
彼女が日頃やりづらいであろうところに手を入れる。
蛍光灯カバー、壁掛けの時計、換気扇、エアコンにカーテンレール。
高い所を重点的に攻めていく。
「・・・あ、そういえば、こういうのもやりづらいよな」
リビングの橋に置いてある小さな本棚に目が留まる。
中は、父母の趣味の雑誌や本が詰まったままとなっていた。
「いい機会だし、整理するか」
上段には、囲碁将棋、手芸雑誌に絵本。
私が一切、引き継がなかった両親の趣味の本があった。
下段には、アルバム。
次代が進むにつれ、私の映る写真は減っていっていた。
「あーっ! 静かだから様子を見に来てみれば!
安易なトラップにひっかかってる!」
「いっ、いや、違うぞ」
「やってる人はみんなそうゆーの!」
「はい、すいません・・・」
そう言って、手元のアルバムをダンボールへと移す。
これで、一通り。棚の中身を出し切ってしまった。
「・・・ねぇ、それ、どうするの?」
「どうって、まぁ読む人も居ないから。
まだ使えそうなのは売って、ダメなものは――――」
「・・・すてちゃうの?」
「腐らせるよりは、ソッチのほうがいいだろ」
「・・・これも?」
一番上になっている、アルバムの表紙をそっとなでる。
「・・・私はさ、あんまり親との仲、うまく行ってなかったからさ。
なんかそれ見せつけられれてるみたいで」
アルバムを直視できず。
視線を空になった本棚のあたりに動かす。
「それなりに反発してたのにさ、死んだらあっさり戻って来て。
貰うものもらって、今は、のんと楽しく暮らしてる。
昔は檻みたいに思ってたこの家も、すごく居心地がよくて」
だからつい、思ってしまう。
もっと上手にできたんじゃないか。
このアルバムも、もっと埋められたんじゃないかと。
「だからさ、もう、空っぽにしたほうがいいんだよ。たぶん」
「・・・」
「ごめん、なんか変な空気にしちゃって―――って」
ダ、ダダダダ・・・・・バン!
彼女は唐突に駆け出していた。
ドサバタドサバタ。バン!
・・・・ダダダダ!
そして、騒音と共に戻ってくると。
タン、と一冊のアルバムを差し出してきた。
「・・・これ! ここに置きたいんだけど、いいかな?」
表紙には、"のん♡みーくん"と、彼女と私の名前が。
「いいけど・・・なにこれ」
「かっ、隠しアルバム・・・みたいな?」
「・・・見ても?」
走ったからか、上気した顔でうなずく彼女。
許可をいただいたので、ペラペラとめくる。
「あぁ、懐かしい。大学のときのだ。撮ったなそういえば。
でも、別に何も、隠さなくてもいいのに」
「~~~っ!」
「あれ、でもこれなんだ、こんなの取られた記憶ないぞ」
「ひゅ、ひゅ~~っ! ひゅ~~!」
吹けてないし。
「まぁ怒らないけど。
でもそんなに恥しがるなら、見せなくてよかったんじゃないか?」
「・・・みーくんが、あんな顔するから」
「?」
「だから、寂しそうだったから、元気になるかなって思って・・・」
「―――あぁ」
言われて、そうか、と思った。
私は、私が思っている以上に単純らしい。
「よし。じゃあ私も、もう一冊、置こうかな」
「・・・うん! いいと思う! 何置くの~~? わたしも見たい!」
「なんだろう、そう期待されるとちょっと照れるな」
「え~~? なんだろうなんだろう? 恥ずかしがらずに持ってきちゃいなさいよぉ」
「じゃあ持ってくるね。私の、"のんコレクション"」
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