校門

「でな、そこでひーちゃんが、

 それじゃケンタウロスじゃなくてミノタウロスやないかい! って」


放課後。

帰宅部である私と雛野ひなのは、活力あふるる同級生を尻目に、帰路につこうとしていた。

今日はチャリで来たらしい彼女に付き合い、駐輪場に寄る。


「あのさ、話があるんだ」


「なに?」


自転車の前かごにリュックを入れ、こちらを振り向く雛野。

ちょっと緊張する。


「あんたと私も長い付き合いになるな」


「せやなぁ、幼稚園からやもんな」


「そんなあんたに、ずっと言おう言おうとおもってたんだけど」


「なんやなんや改まって」


一呼吸。よし。


「あんた、なんで、一人称が愛称なの?」


カシャン。

自転車のカギが開く音がした。


「え・・・なん・・・ひーちゃんの何がなんて?」


「いや、私も悪かった。いつか言わないと、とおもってたんだけど」


「え、なんで謝られてんの?」


マジで訳がわからん、と自転車を引いて来る。

あ、私のカバンも入れさせて。


「え、何、ひーちゃんそんな致命的な感じなん?」


「ごめんな、小3のときにはもう厳しいかなって思ってたんだけど」


「まってまって、7年間も溜めてたん?」


「いや、ぶっちゃけ年長さんぐらいから気にはなってた」


「え、じゃあもう11年ものやん。いっそ墓まで持ってってくれたらええのに」


「なんか・・・我慢できなくなって、つい、な」


「そんな軽犯罪みたいな理由で今?」


チリチリチリチリ。

校門までの道を並んで歩く。


「で、なんで一人称が愛称なの?」


「え、ネタやなくてマジな話?」


「マジ」


「そうかー。いや、マジに聞かれても困んねんけど」


「覚えてないとか?」


「おぼろげやなぁ」


「自分で付けたの?」


「気に入ったのは間違いないと思うんよな」


「というか名字だよねその愛称」


「せやなぁ、ひーちゃんのママもひーちゃんのパパもひーちゃんになってまうな」


「うーん、謎は深まるばかり、か」


校門にさしかかる。

チリチリという音が止まる。


「何、そんなに似合ってない?」


振り向くと、少し不安げな瞳がこちらを見ていた。

・・・あぁ、そう聞こえたのか。失敗。


「いや別に。 カワいくていいと思うけど」


「ほんま?」


「ホント。ほんとにしっくり来すぎていて、だからなんでが気になり続けてたんだけど」


本人さえも覚えていないとは。

やはり、もっと早くに問いただすべきだった。


「なんや、ドキドキして損したな・・・」


チリチリ。カタカタ。

駆け足で校門を抜けて、来る。

しかし、そんなにびっくりさせてしまうとは。うーむ。


「お詫びにアイスでも奢るよ。食べて帰ろ?

 ひーちゃんの好きなシャトレーゼ、近くにできたらしいよ」

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