檻の中
ホルストの惑星、その
簡素なスピーカーから流れるその曲で、朦朧としていた意識が覚醒させられる。
「よぉ、お目覚めかよ、クソ野郎」
地下室。
手の届かない、明かり取りの窓から、月の光が漏れる。
頭痛がする。
「・・・夜じゃねぇか、寝かせろよ」
しわがれた声で、目の前の若者に抗議する。
「あぁ? そんな都合のいい話があるかよ。
お前がやったことはきっちり返させてもらう」
「何やったってんだよ・・・」
「また忘れたフリかよ。
いいぜべつにお前が覚えてなくたって。
オレが覚えてるからな」
こっ。
自分の中の空気が抜ける。
おもむろに、みぞおちに足が食い込む。
2度。3度。
衝撃がすぎ、じわじわとした痛みが残る。
吐き出した代わりを求める肺の要求が辛い。
かといって、意識を手放すことは、オーケストラが許してくれない。
「ホント、こんなのの何が楽しかったってんだ」
ひとしきり終えた後、若者はそう吐き捨てた。
「楽しかねぇだろうよ」
「・・・楽しくなかったってか、あぁ?」
「そうだよ、楽しくなんてなかった」
全く身に覚えは無いが。
いつかの自分が、もし、そうしたのだとしたら。
「他に何もできねぇから、できることしかしねぇだけさ」
「なんだそれ、ガキかよ」
「あぁ、そうだな」
本当にそうだ。
獣のようにもがいていただけの生理現象。
楽しいとか、意味とか、そういうものは、そこには無い。
あるのは、もっと根源的で単純な欲求だ。
「ただの、ガキだったんだろうよ」
曲が終わる。
意識が沈む。
責任も、暴力も、苦しみも、悲しみもない。
真っ暗な中にとけていく。
あぁ、次こそは、目覚めなければいいのに。
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