フローリングの上

さぁさぁ。


窓に打ち付けられる雨音を聞きながら、広げた原稿用紙にペンを走らせる。

リビングのフローリングから、尻をつたう冷気が心地よい。


咥えていたタバコの灰を皿へと落とす。

時計の針が一直線になろうかという時間。

今日はあと三枚も仕上げれば、上がりだ。


かちゃり。きぃ。ばさばさ。

とっとっと、と、廊下を歩いてくる音がする。


「なぁ! うちヒモやないよな?」


同い年の同居人は、帰宅早々開口一番、そんなことを口走った。


「まぁ、働いてるし、ヒモではないんじゃない?」


「せやんな?」


うっすらと肩口を湿らせている彼女にタオルを渡す。

頭を差し出してきたので、そのままかぶせて、弱めに揉む。


「バイトの後輩がな、ちっとも信じへんのよ。『えー!絶対ヒメセンパイ貢がせてるタイプやと思うわー!』って」


「それはそれは、沽券に関わりますな」


「そう、だから『これでも家賃は折半しとるし立派で対等な清いお付き合いです』って言ったったんよ」


「そのとおり」


髪を拭き終えたら、今度は濡れた服が邪魔になったのか、その場で脱ぎだすヒメ。

寝室から、部屋着を持ってきて着せる。

私には絶対に似合わない、ピンクのもこもこした可愛らしい部屋着。


ソファにこてん、と横になるヒメを尻目に、キッチンへと。夕食の準備にとりかかる。


「そしたら『え~、でも甘え上手だから、なんだかんだご奉仕させてると思うわー』やて」


「それはでも、一緒に暮らしてれば甘えもするでしょ」


「そうよなぁ、甘えてたらヒモやというのは暴論やんな?」


昨日の残りの具だくさんな味噌汁を温め直す。

スーパーで安く手に入れられた豚バラを、フライパンで焼き目をつけて、生姜醤油で味をつける。

千切りのキャベツを添えて、大皿に盛る。白米を茶碗につぐ。


一汁一菜、シンプルな夕餉である。


「あぁでも、その定義はいいかもしれない」


配膳を終えて、ソファに近づくと、きゅっと丸くなって、唇を尖らせた彼女と目がある。


「なんで?」


「ヒモとヒモになって、何か結ばれやすそうで」

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