第20話 真弓は僕と二人でしたいそうだ

 残っていたクッキーを食べようか悩んでいた時、沙緒莉姉さんが僕の部屋を再び訪ねてきた。ノックとほぼ同時に沙緒莉姉さんは部屋に入ってきたのだけれど、僕が机に向かっていることに気が付いて少しだけ気まずそうにしていた。


「あ、ごめんね。起きてるとは思ってたけど勉強してるとは思わなかったからさ。ちょっと漫画借りたいだけなんだけど、良いかな?」

「本棚にあるのだったら好きに持っていっていいですよ。僕はもう少しで寝ようと思ってたんで気にしないでください」

「ありがと。それでさ、恋愛系の漫画って持ってないよね?」

「少女漫画的なのは無いですけど、ラブコメならいくつかありますよ。どんなのがいいですか?」

「あんまりエッチじゃないやつがあればそれが良いかな。面白いやつとかそういうのがいいかも」

「意外ですね、沙緒莉姉さんってそっち系の方が好きなのかと思ってたから意外です。ラブコメだったらテレビの隣の本棚の方がお勧めですよ」

「意外って、昌晃君は私の事を何だと思ってるんだよ。意外と純情なんだよ」

「何言ってるんですか。そんなわけないじゃないですか。だって、沙緒莉姉さんって露出趣味あるでしょ?」

「いや、違うって。そんな趣味ないって」

「じゃあ、なんで僕には下着姿を見せてるんですか?」

「それはさ、昌晃君の反応が可愛いから、かな」

「なんですかその答えは。僕が無反応だったら見せてないって事ですか?」

「どうだろうね。でもさ、そうなったのって私が原因じゃないんだよね。昌晃君が私のをコソコソ覗いてたのが原因なんだけど、それって覚えてるかな?」

「なんの話か分からないですけど、僕をそうやってからかうつもりですか」

「本当に覚えてないのかな?」

「何を言っているのかさっぱりわかりません。変な夢でも見てたんじゃないですか」

「そんなわけないでしょ。でもさ、昌晃君って私のを見る時は目を逸らしているのに、陽香の時は凄い目で追ってるよね。それって、私の事が嫌いで陽香の事が好きだって事かな?」

「それも言いがかりですか。いい加減やめてくださいよ」

「陽香は気付いてないみたいだけどさ、私はさっきの昌晃君の発言で気付いちゃったんだよね。陽香って、真弓よりも胸が小さいでしょ。だから、お風呂上りってあんまりブラを付けてないんだよね。それでも、カップ付きのキャミソールとか着れば問題無いんだけどさ、陽香ってちょっとサイズの大きいパジャマを着るのが好きみたいなんだ。そんなのを着て前かがみになると、大きく空いた胸元から見えちゃうもんだよね。ほら、こんな感じでさ」


 沙緒莉姉さんは僕の横に立っていたのだが、そのまま左手を机に乗せて腰を曲げて僕の方へ顔を近付けてきた。僕は沙緒莉姉さんの顔が近付いてきたことで恥ずかしくなり顔をそむけたのだが、沙緒莉姉さんは右手で僕の肩を掴むとそのまま椅子を回転させて僕の体を沙緒莉姉さんに対して正面に向けた。僕は抵抗しようと思えばできたはずなのに、沙緒莉姉さんのその行動に流されるまま向かい合うことになってしまった。

 それでも、僕は恥ずかしくて顔を背けようと思って下を向いたのだが、確かに沙緒莉姉さんの着ているシャツの首元は大きく開いていて胸元があらわになっていた。ただ、沙緒莉姉さんと陽香の大きな違いとして、沙緒莉姉さんの胸は重力にひかれているのをブラジャーが支えているのだが、陽香の時は重力にひかれるような胸も無くブラジャーも無かったという事だ。


「あ、やっぱり昌晃君は男の子だね。でも、私からされるがままに流されるっていうのは少し男らしくないかもね。でも、そこで自分からくるような子だったら私はこんなことしてないかもね」

「それって、沙緒莉姉さんは僕に見せたいって事ですか?」

「どうだろう。私も別に見せたいってわけじゃないんだけど、昌晃君はそんな反応してくれるから楽しいってのはあるかもね。でもさ、あと一週間も経たずに高校に通うっていうのに、そんなんで大丈夫なのかな?」

「大丈夫って何がですか?」

「きっと、高校には私以上に無防備な女の子っていると思うんだよね。そんな子がいる中で昌晃君は自分を抑えられるのかな?」

「抑えられるに決まってるでしょ。それより、その前提が間違ってると思いますよ。僕が通う高校はそういう人はいないと思いますよ。だって、受験倍率だって凄いことになってましたからね」

「それってさ、外部受験の話でしょ。内部進学している人達って意外と勉強以外の事をやってるかもしれないよ」

「そんな事ないと思いますよ。それと、その胸元を早く隠してください」

「うーん、隠さなくても昌晃君が見なければいいだけの話なんじゃないかな。ほら、女子高生って結構脚とか出してるし、パンツだって見える機会があると思うんだよね。でも、あの子たちに言わせれば見せてるんじゃなくてそっちが勝手に見てるだけでしょ。あんたらが見なければ見えないのと同じことじゃん。そう思ってるんじゃないかな」

「でも、それって沙緒莉姉さんとは明らかに違うじゃないですか」

「そうかな?」

「そうですよ。今だってそうやって自分から見せてるし」

「そうだよ。私は今昌晃君に見せてるんだよ。なんでだと思う?」

「なんでって、露出狂だからでしょ?」

「酷いな。そんな事ないのにな。でもね、言われてみたらそうかもしれないって思うんだよね。じゃあさ、私の付けているブラのいろって何色だかわかるかな?」

「それを聞いてどうするんですか?」

「どうするって、ただ質問しただけだよ。意味なんて無いよ」

「じゃあ、答えなくてもいいじゃないですか」

「でも、見たんでしょ?」

「見てないです」

「本当かな?」

「本当です」

「でも、私が今付けてるブラって、昌晃君の使ってる枕カバーと同じ色だね」


 僕はその言葉を聞いて自分の使っている枕カバーと同じ色なのかと思って視線を枕へと移していた。言われてみれば似ているかもしれないけれど、沙緒莉姉さんの付けているブラジャーはもう少し明るい水色だったような気がした。


「微妙に違うと思いますけど」

「あ、やっぱり見てたんじゃない。でも、ほとんど同じ色だよ」

「ほとんどって、それに、見てたんじゃなくて見えてたんです」

「まあ、そういう事にしておくよ。じゃあ、私はそろそろ戻って寝ようかな。漫画はまた今度にするよ」

「はい、早く戻って寝てください」

「その言い方は少し酷くない。でも、私はそんな事気にしないよ」

「はいはい、わかりましたから。僕ももう寝ますよ」

「うーん、ここで一緒に寝ようなんて言ったら昌晃君の事を困らせちゃうよね」

「当然です。僕は一人で寝ます」

「でもさ、その枕を使って寝るんだったら、私の胸を枕にしてるって思ってもいいからね。弾力は全然違うけど、包まれるって事には変わりないからさ」

「ちょっと、そういうのは冗談でもやめてくださいよ」

「なに、意識しちゃうから?」

「そういうのじゃないです。意識とかしないです」

「そっか、それはそれで寂しいな。この前部屋に来た時に見てからわざわざ似たような色のブラを探したのにな。そうだ、私が今履いているパンツの色だと思う?」

「ブラジャーと同じ色じゃないんですか?」

「それはどうかな。ブラは探したけどパンツまでは探してなかったような気もするし」


 僕はてっきりここでも沙緒莉姉さんはズボンを脱いで見せてくるものだと思っていた。だが、沙緒莉姉さんはそんな事をせずに部屋を出ていこうとしていた。僕は沙緒莉姉さんの履いているパンツなんて見たいわけじゃないのだけれど、それが何色なのか知りたくて仕方なくなっていた。でも、沙緒莉姉さんは今までと違って僕に見せてくれることは無かった。


「ふふ、もしかして、気になっているのかな?」

「気になんてなってません。大丈夫です」

「それならいいんだけどね。じゃあ、また明日ね。おやすみなさい」

「……おやすみなさい」


 沙緒莉姉さんが出て行ってすぐにベッドに横になったのだけれど、僕は枕を使う気にはなれなかった。沙緒莉姉さんが言っていたことを意識していたわけではないのだけれど、僕はいつものように枕に頭を置くことがよくない事のように思えて仕方なかった。

 僕は枕を変えても寝れないというわけではないし、普段から寝つきがいいわけでもないのだが、この日ばかりはとてもではないが寝られる気がしなかった。結局、僕は外が明るくなって鳥のさえずりが聞こえてきても寝ることは出来なかった。別に学校があるわけでもないので昼寝をすればいいだけの話ではあるのだけれど、なんとなく損をしたような気分になっていた。

 僕は、明るくなった部屋の中で枕を見つめていたのだけれど、沙緒莉姉さんの付けていたブラジャーの色とは全然違ったように思えてきた。そもそも、暗くてよくわからなかったけれど、水色というよりは紺色か濃い青だったようにも思えてきた。今となっては確かめることも出来ないが、僕はそう思うことにして枕を使って少し寝ることにした。大丈夫、この枕は沙緒莉姉さんの胸ではなく普通の枕なのだ。


 正確な時間は覚えていいないのだけれど、僕が寝てからそれほど時間は立っていないような感覚のまま僕は起こされた。


「ねえ、お兄ちゃん。今日は真弓をどこかに遊びに連れて言ってよ。昨日は真弓だけ一緒にお出かけ出来なかったからお願い」

「おはよう。どこか行きたい場所でもあるの?」

「特にないけど、学校の近くに何かあるか見に行ってみたい」

「あの辺って何も無かったと思うけど、一応行くだけ行ってみる?」

「うん、ありがとう」

「じゃあ、沙緒莉姉さんと陽香も誘おうか」

「それはダメ。だって、お姉ちゃんたちはお兄ちゃんとお出かけしたことあるもん。真弓だけお兄ちゃんとお出かけしたことないからダメ」

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