第4話 長女沙緒莉の誘惑
「私はゲームの事はよくわかってないんだけどさ、昌晃が詳しく教えてくれたから楽しかったよ。真弓に聞いても面倒くさそうにしか教えてくれないから少し楽しかったよ。でもさ、三つもゲームを買って大丈夫なの?」
「コントローラーとかは大体揃ってるから必要ないし、その分でゲーム買ってるから大丈夫だと思うよ。貰ったお金を使い切ってるわけでもないし、残った分はちゃんと返すからさ」
「その三つってさ、一つはみんなでワイワイやるような奴でもう一つは対戦するやつでしょ。で、残りの一つって、もしかして私とお姉ちゃんでも出来るような簡単なやつじゃない?」
「たぶん誰でも出来るやつだと思うよ。ネットで見ただけなんだけど、これってボタンを押すとかよりもコントローラー自体で遊ぶらしいよ。だからさ、ゲームに慣れていない人の方が得意だったりするかもね。それに、これってあんまり一人で遊ぶものじゃないみたいだからさ」
「へえ、やっぱり優しいんだね」
「やっぱりって、そんな事ないけど」
「ううん。優しいと思うよ。私もお姉ちゃんも真弓もそう思ってるよ」
「そんな事ないと思うけど」
「でもさ、優しいだけじゃなくていやらしいところもあるよね」
「え、どこが?」
「どこがって、さっきだって私のパンツ見てたでしょ?」
「見てたでしょって、アレは不可抗力と言うか、そっちが見せてきたようなもんだと思うんだけど。それに、僕はすぐに目を逸らしたんだからセーフでしょ」
「すぐに目を逸らしたって事は、少しは見たって事じゃない。やっぱりいやらしいな。そんな人だとは思わなかったのにな」
「いやいや、スカート履いているのにあんな体勢になる方がおかしいって」
「あ、人のパンツ見ておいてそんなこと言うんだ。おじさんとおばさんに言っちゃおうかな。昌晃が私のパンツを見ようとしてくるって」
「それはマジでシャレにならないって。僕が悪いみたいじゃん」
「僕がって、私がわざと見せたみたいに言わないでよ。私だって見せたくてそうしてるわけじゃないし、今だって恥ずかしかったりするんだからね」
「その割には自分から話を振ってきたくせに。でもさ、来週から学校始まるんだしスカートを履いていることをちゃんと意識して行動した方が良いと思うよ。今日だって階段を下りる時は意識してたみたいだけどさ、上る時は無防備だったと思うからね」
「ちょっと、そんな時からスカートの中を覗こうとしてたの。最低ね」
「いや、見てないって。大体、僕の方が先に上ってただろ」
「それもそうか。って、そんなんで誤魔化されないわよ。そうだな、学校が始まったら帰りに何かおごってもらおうかな」
「なんで僕が陽香に奢らないといけないんだよ。それに、買い食いは良くないと思う」
「まあまあ、そんな固い事を言わないでさ。昌晃がダブったり辞めたりしなければ三年間一緒に通うことになるんだし、たまにはそう言う事もいいと思うんだけどな。それにさ、一緒のクラスになるんだからそう言う機会も結構あると思うよ」
「え、一緒のクラスってもう決まってたっけ?」
「決まってたっけって、そんな事も知らないで受験してたの?」
「いや、試験と関係ない事は気にしてなかったからさ、クラスの発表ってもう終わってるの?」
「まだ発表はされていないけど、私達外部受験で高校に入る人ってみんな特進クラスになるのよ。幼稚園とか小学校から通っている人達とは受けてきた授業内容も異なるわけだし、その人達に追いつくためにも特進クラスでしっかり学ばないといけないのよ。それについていけないと大学にも進学出来ないからね。そうじゃないと高校に入った時点で大学の合格も決まっちゃうってことになるでしょ」
「でもさ、それって小学校から通っててもそんなに変わらないんじゃないの?」
「そんな事ないと思うよ。小学校卒業時点で中学卒業までの単元は終わってるみたいだからね。中学の卒業の時点で高校の授業も終わってるようなもんだしね」
「じゃあさ、高校でいったい何を学ぶって言うのさ」
「それは高校で習うべき教科でしょ」
「でもさ、それって中学の卒業時点で全部終わってるって事なんじゃないの?」
「一度終わらせたからって二回やっちゃ駄目ってことは無いでしょ。何回だってやっても問題ないと思うよ。だから、私達みたいな人は特進クラスで頑張らなきゃ追いつけないのよ。だって、みんな二回目の高校の授業を受けているようなもんだし、人によっては三回目四回目の復習って人もいるらしいからね」
「マジか。ちゃんと勉強しとかないとマズいよな」
「そうね、最初のうちは遊んでいる暇なんてないのかもしれないよ」
「って、ゲーム沢山買っちゃったじゃないか。どうすんだよコレ」
「ま、買っちゃったもんは仕方ないんだし、息抜きとして楽しみましょ」
「ん、待てよ。って事は、真弓は僕たちよりももっと大変だってことにならない?」
「でしょうね。でも、真弓は小学校に入る前からお姉ちゃんと一緒に勉強してたから問題無いんじゃないかな。あの子ってさ、ゲームだけじゃなくて勉強も遊びの一環としてとらえているところがあるのよね。私には理解出来ない世界だけど、わからないことを知っていくことに喜びを見出しているんだって。私もクイズが自力で解けたら嬉しいけど、それと勉強は一緒じゃないように思えるんだよね」
「もしかしてだけどさ、僕と陽香と真弓って同じところを勉強していくってこと?」
「どうなんだろうね。まるっきり私達と真弓が同じってわけでもないと思うんだけど、似てるようなところを学ぶとは思うよ。もしかしたら、一緒に宿題とかテスト勉強とかしてたりしてね」
「それはちょっと想像出来ないや」
僕の足取りが重くなっているのはゲーム機なんかを持っているからではない。さっきまでは気になっていたけど一人では出来ないゲームを買ったことによる幸福感に包まれていたのだけれど、今は受験の前日くらい気が重くなっていた。少しくらいは勉強も大変なのかなと思っていたのだけれど、実際は僕が思っていたよりも何倍も大変そうな予感がしていた。
「ねえ、もしかしてだけど、さっきの話を信じてる?」
「さっきの話って?」
「授業の話」
「うん、今から気が重いなって思ってた」
「ごめん、それって嘘だよ。でも、同じクラスにはなると思うよ」
「え、嘘?」
「うん、嘘。でもね、外部入学と中学からの進学組でクラスが別れているのは本当だよ。私も詳しくは無いんだけどさ、内部生と外部生で対抗意識を燃やしているって話はよく聞いたかも」
「へえ、それも嘘だったりするの?」
「ううん、これは嘘じゃないよ。というか、外部生が内部生に勝手に対抗意識を燃やしてるって言った方が正しいのかな。クラスの平均点が内部生より低くなってはいけないって暗黙のルールみたいなものがあるみたいでさ、テストの点数が悪い生徒って退学に追い込まれたりすることもあるみたいだよ」
「うわ、何か陽香と一緒に卒業する自信なくなってきたかも」
「まあまあ、そう言わずにさ。試験勉強なら三人で一緒にやれば効率的でしょ」
「三人って、沙緒莉姉さんも?」
「お姉ちゃんは大学の授業とかで忙しいと思うよ。って、真弓を入れて三人だよ」
「真弓って中学生じゃない。一緒にテスト勉強したって意味無いでしょ」
「そんな事ないんだな。真弓は本当に特進クラスなのよ。それも、東大合格を目指すようなところだよ」
「またまた、そんなわけないでしょ」
「残念だけどこれは本当なんだよ。ウチの学校って高校と大学は割と外部入学生って多いんだけど、中学ってほとんどいないのよね。それってさ、募集している人数が少ないってわけじゃなくて合格の基準点に届いていないってだけなのよ」
「中学受験ってそんなに難しいの?」
「多分だけど、私も昌晃も中学の時に受けてたら落ちてると思うよ。だって、中学の受験も私達が受けた試験と同じ問題で合格点も同じだからね」
僕はその話を聞いても信じることは出来なかったので持っていたスマホで何となく中学校の試験内容について調べてみた。過去の傾向と対策を見てみたところ、陽香が言っていることと大体同じような事が載っていた。という事は、今の時点で僕たちと真弓は同じような学力なのだという事だろう。よし、勉強でわからないことがあったら真弓にも聞いてみよう。そんな冗談を頭の中で思い浮かべてみたが、それは自分でも笑えるとは思えないような冗談だった。
「あ、お帰りなさい。結構早かったね。二人で遊んでくるのかと思ってたけどまっすぐ帰ってきたんだね」
「遊んでくるって、買い物したらすぐ帰って来るに決まってるでしょ。お姉ちゃんはおばさんのお手伝いしてないの?」
「うん、最初は手伝ってたんだけど、私の腕じゃ邪魔になるだけだと思って見てたんだ。そうしたらさ、お風呂に先に入ってていいよって言われたからこれから準備してお風呂に入ろうかと思ってたとこ。そうだ、良かったら一緒に入る?」
「一緒にって、お姉ちゃんと昌晃が一緒に入るのっておかしいでしょ」
「何言ってんのよ。私だってそんな事を言って昌晃君を困らせたりしないって。私が誘ってるのは陽香、あんたよ」
「そ、それはそうよね。うん、そうだと知ってたわ。でも、私はお姉ちゃんと一緒じゃなくていいよ。なんか、一緒だと狭そうだし」
「そうかな。さっきお風呂の使い方を教えてもらった時に見たけど、二人で入っても大丈夫だと思うよ。あ、陽香が言うように昌晃君が一緒に入るかな?」
「ちょっとお姉ちゃん。昌晃が嫌そうな顔してるよ。変な冗談を言って困らせるの良くないよ」
「ごめんごめん。じゃあさ、私は先にお風呂をいただいてくることにするよ。脱衣所に乳液とか化粧水を置いておくから陽香も使っていいからね。昌晃君も使いたかったら使っていいよ」
沙緒莉姉さんは僕にもそう言ってくれたのだけれど、僕はそう言ったものを使ったことが無いし使う予定もないので何とも返事に困ってしまった。とりあえず、買ってきたゲームを使えるように初期設定でもしておこうかなと思っていると、お風呂に行こうとしている沙緒莉姉さんに呼ばれた。
「忙しいところごめんね。お風呂の使い方でちょっとわからないところがあるから教えてもらっていいかな?」
「別にいいですけど、何がわからないんですか?」
「脱衣所の鍵のかけ方なんだけど、何回やっても鍵がかからないのよね。どうやったらいいのかな?」
「え、普通にボタンを押せばかかりますけど」
「それが、何回やっても開いちゃうのよ。特別な事って何も無いよね?」
「はい、ドアノブについてるボタンを押すだけです」
「ちょっと試してみたいから見ててもらってもいいかな?」
僕は沙緒莉姉さんと一緒に脱衣所まで向かうことにした。僕は中に入っていつも通りに鍵をかけたのだが、沙緒莉姉さんはそれをじっと見て納得しているようだった。脱衣所の鍵はそんなに厳重な物ではないのだが、簡単に開けられるような物でもないので鍵がかからないという事もないとは思う。
実際に沙緒莉姉さんに中から鍵をかけてもらって僕が脱衣所の外からドアを開けようとしてもしっかりと鍵がかかっていたのだった。何度ガチャガチャとドアノブを回しても扉が開くことは無かった。それを見た沙緒莉姉さんが安心しているのをドア越しに僕も感じていたのだった。
「そっか、中からは簡単に開けられるようになってるんだね。ちょっと勘違いしてたかも。あ、ごめんなさい。そこにポーチを置いたままだったかもしれないんだけど、あったりするかな?」
「ポーチってこのピンクのやつですか?」
「そうそう、それだよ。脱衣所に置いておいてもらってもいいかな?」
「そうは言いましても、鍵がかかってるから入れないですよ」
「あ、そうだった。ごめんね」
沙緒莉姉さんはそう言いながらドアを開けたのだけれど、なぜか下着姿になっていた。陽香とも真弓とも違う大人っぽい下着だなとは思って少しだけ見惚れてしまっていたのだけれど、僕の顔をじっと見た沙緒莉姉さんは少し嬉しそうにほほ笑んでいたように見えた。
「あ、そんなにじっくり見られると恥ずかしいかも。それとも、一緒にお風呂に入ろうか?」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。戻ります」
「こっちこそごめんね。でも、お風呂上りには違う下着に着替えているから、想像しててもいいよ。ほら、あそこにあるからさ」
僕は沙緒莉姉さんが指さしている方を向くことが出来なかった。見てしまっていたら沙緒莉姉さんがそれを付けているところを想像してしまうと思うし、そうなったらまともに沙緒莉姉さんの顔を見ることが出来なくなってしまうだろう。
「あ、ゲームの設定の途中だった。早く戻らなくちゃ。あと、鍵はちゃんとかけておいてくださいね」
「うん、後でしようね」
「え?」
「ゲームの事だよ」
どうしよう。沙緒莉姉さんと陽香と真弓がこの家に来てからまだ一日も経っていないというのに、物凄く疲れてしまっている自分がいる。僕も年頃の若い男子なので女性の下着を見ることが出来るというのは嬉しいはずなのだが、嬉しい以上に恥ずかしいやら申し訳ないという気持ちが先行しているような気がしている。きっと、これは僕が初めて彼女たちのパンツを見た時に感じた罪悪感がいまだに僕の中に残っているせいだろう。だからと言って、その罪悪感を無くしても行けないような気がしていた。
僕はリビングに戻ってゲームの設定の続きをすることにした。何もなかったかのように冷静に、確実に進めていったのだが、僕を見ている陽香の視線は何か冷たいような気がしていた。
僕はその視線に耐えられる自信も無く、ただひたすらにテレビ画面に映されている設定画面を注視していた。
「やっぱりさ、昌晃っていやらしいね」
僕はその言葉に驚いてしまい、思わず陽香の事を見てしまった。
陽香はその言葉とは裏腹に嬉しそうな笑顔だったのが逆に怖くなってしまった。
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