僕の責任

シヨゥ

第1話

 過労で倒れた友達を見舞いに病院へやってきた。病室へ入ると彼はノートパソコンを持ち込んでおり、ベッドの上に居ながらも仕事をしている。

「過労で倒れたというのにお前は」

「仕方がないだろ。仕事に穴はあけられないんだ。出来ることをやる。ここの入院費用だって稼がにゃならん」

 会話をしつつも彼の視線はモニターを捉えて放さない。

「お前が仕事をする理由って何だね」

「そりゃあ社会人だからさ。働かねば生きていられん。そういうもんだろ」

「こうしなきゃならん。ああしなきゃならん。なんてないと思うがね」

「そんなだからお前は責任感がないって言われるんだ。また仕事を変えただろう?」

「仕事は変えたさ。ただ責任感がないわけじゃないぞ」

「どの口が言う」

「この口だ。僕には生きる責任がある」

「生きる責任?」

「そう。仕事を変えたのはこのまま働き続けたらしんどいし、最悪死ぬ。そう思ったから変えただけよ。死ぬってことは責任放棄だからやっちゃならん。だから生きる選択をした。それだけよ」

「なるほど。それじゃあ俺はお前からみたら責任感がないだろうな」

「生きる責任を放棄しているように見える。その観点から見たらそうだ」

 そう言い切ると彼がようやく視線をこちらに向けた。

「ただそれ以上にお前が過労で倒れるほどに働かせる会社が悪いと思っている。管理責任を放棄しているからな。そんな会社に居て楽しいか?」

「いや」

「お前ほど働ける奴ならほかの会社でもやっていけるだろうよ。倒れたことが良いきっかけと思って転職してみろよ」

「考えとくわ」

 彼は再びモニターに視線を合わせてタイプし始める。その速度は明らかに緩やかになっていた。

「次は退院後に。良い報告を期待しているよ」

 迷いの浮かんだ横顔を残し病室を後にする。僕との会話が良い影響を与えればいいのだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の責任 シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る