耳掻き屋

高井 緑

耳掻き屋

「ママー、お耳キレイキレイちてー」


 恥も外聞も無く、年下女性の膝に縋り付く私。すかさず耳の穴にドクターフィッシュが流し込まれる。

 うおお……耳の中で魚(うお)が暴れておる!

 さながら、榴弾から逃れようとガレキの山を這いずり回った、あの夏のように。


「まこと良き仕事であった。お代はこれで」


 蜜柑を一房差し出す私の手を、先代店主が押し留める。


「お代なら既に戴いているよ。あんたの歌でね」


 そして今、私はステージ袖に立っている。

 ずっと頭にこびりついていた夏の亡者共には、別れを告げてきた。

 間もなく出番だ。

 NHK紅白歌合戦。白組、大トリ。

 年末の大舞台で、一匹の負け犬が平和を謳う。

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耳掻き屋 高井 緑 @syouyuuyu

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