第20話 迫るかげ
ジョージイは原島とすごす幸せな日々の内に、隠し続けていた小さな小さな不安の欠片を消すことができずにいた。
優しい原島の胸に抱かれながら、いつかは必ずくるその日を祈りの気持ちで包み込み、隠し続けていた過去を如何にして、無きこととできるのか。
満ち足りた時間の裏側に隠しておいた、過去の事実は徐々に大きくなり、恐怖となって今ジョージイの目の前に現れた。
「省三…わたし、」
「どうしたの?ジョージイ」
ジョージイの声に起こされた寝ぼけ顔の原島をみると、今日も打ち明けることができなくなる。
「ごめん、起こしてしまった?、なんでもないの」
今はまだ無理、ジョージイは心の整理をする時間をまた、自分に与えた。
ボスロフのオフィスに、再びスコットシンプソンが現れたとき、ジョージイはボスロフ、イリーナと共にロシア大使館主催のパーティーの席にいた。
この日もジョージイは、ボスロフのなくてはならないパートナーであった。
ボスロフのロシア本国との信頼関係は、今やジョージィによって築きあげられていた。
この日のパーティーは、ジョージィのために行われていたと言っても良いものであり、ある目的がかくされたパーティーでもあった。
ロシア大使館の駐在武官の一部に、ジョージイとスコットシンプソンの関係を調べていた人物がいた。
その男は執拗にジョージイに近ずき、目を離すことがなかった。
まだ大学院生であり、国家の仕事に携わっているわけではないが、国防を研究する人物であり、ジョージイの夫である。仮に結婚の実体がないとしても無視できない。
ジョージイの背後にスコットとロシアの諜報のかげが迫っていた。
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