第487話 こうもあっさりと

「「……」」


「ふっふっふ〜ん!」


 サイラスもガイルも、2人ともあまりの衝撃に驚きすぎて声も出ないようね!

 まぁでも、2人がこんな反応になってしまうのも無理はないわ。


 だって……いったい誰が!

 由緒正しき公爵令嬢であり!!

 仮とはいえ王太子の婚約者でもあり!!


 国内のみに留まらず周辺諸国にまで完璧な淑女や淑女の鏡として名を馳せるっ!!

 この私が今やこの大陸で知らぬ者は殆ど皆無と言っても過言ではないだろう、白銀の2つ名で知られるSランク冒険者ソフィーだと思うだろうか?


「そんな私にかかれば、殿下達の企みを見抜く事なんて容易い事だという訳です」


 その答えが、目の前の2人の反応に他ならないっ!!

 むふふっ! 普通は貴族のご令嬢が、それも公爵令嬢が冒険者をやっているなんて思わないよね。


 それが古臭い考え方にとらわれている、この国の人となるとなら尚更に。

 公爵令嬢が冒険者だなんて、思いもしなかっ……


「やはり、そうでしたか」


「やっぱり貴女こそが、白銀の天使だったのですね」


「えっ……」


 ちょ、ちょっと待って!

 なに? 何なのっ!? 何でそんな冷静に……というか、至極当然のように、受け入れちゃってるの!!?


 そこはもっと驚愕に目を見開いて、公爵令嬢にして孤高の悪役令嬢たる私が最高位の冒険者だったという事実に愕然とするところじゃんっ!!


「信じる、のですか?」


 2人に……というかイストワール王国の貴族にとっては、考えられないような話のはずなのに。


「はい」


「勿論です」


 微塵も疑っている様子がない。

 これはガチで私がSランク冒険者であると、信じている感じだわ。

 いやまぁ、事実なんだけども!


 う〜ん、まさかこうもあっさりと受け入れられてしまうとは。

 本当ならもっと衝撃のカミングアウトのはずなんだけどなぁ。


 これまでにこの2人が、Sランク冒険者〝白銀〟ソフィーの正体が私だって気付くような要素はなかったはずだし。

 それどころか、疑うきっかけすらなかったはずな──


「数年前にリアと共にアクムス王国まで護衛をしていただいた時から、もしかしたらと思っていましたので」


「私は魔王ナルダバートの一件からですね」


 の、に……


「な、なるほど」


「ルスキューレ嬢が学園に殆ど来ていらっしゃらないのも、白銀の天使が成した偉業と照らし合わせると納得できます」


「で、でも、白銀が偉業を成した時に、私が学園に登校していた時もありましたよね?

 それにオルガマギア魔法学園の新人戦で白銀が優勝した時、アルトお兄様と一緒に私は観戦していたんですよ?」


「確かに時系列的にルスキューレ嬢と白銀の天使が行動が被っている時がありましたが、転移魔法を使う事ができる貴女ならば納得できますし。

 新人戦の時も賢者であるアルト様を兄に持ち、自身もSランク冒険者である貴女なら魔法でどうにかできたでしょう」


 結構当たってるし……

 まぁ正確にはルーちゃんが演じてくれてた時が殆どだけど、転移魔法を使った時もあったし、サイラスの推測はあながち間違っていない。


 くっ……さすがは前世の記憶にある乙女ゲームでは、攻略対象となる秀才。

 私の完璧なアリバイ工作を見抜くとは……


「それに、貴女がSランク冒険者である白銀の天使ソフィーと同一人物だと考えれば、様々な事に説明がつくんです。

 例えば……内部が恐らく空間魔法で拡張されているだろう、この馬車もそうです」


 うっ……で、でも! 我が家には賢者の1人に名を連ねるアルトお兄様がいるわけだし。

 アルトお兄様がやったという可能性も……


『ソフィー……2人に正体を明かした貴女が、どうしてさっきから冒険者ソフィーと同一人物だって事を否定しようとしているのよ』


「っ!!」


 ル、ルミエ様……そ、それはですね……えっと、その、そ、そう!

 まだこの2人が完全にこっち側に着いたって決まったわけじゃないですし!!


『でも彼らがセドリックや聖女達を見限ったと判断したから、2人に正体を明かしたんでしょ?』


 うぐっ! そ、それは……だって……


『だって?』


 だって……! もっと驚いて欲しかったんだもん!!

 私がSランク冒険者〝白銀〟ソフィーだって事は、世界規模のビッグニュースなはずなのにっ!!

 こうもあっさりと受け入れられるなんて……!!


『……』


 やめてっ! そんな呆れたような顔で見ないでくださいっ!!


「や、やりますね。

 その通り、貴方達の推測はおおよそ間違っていません」


 とりあえず! ここで動揺を悟られるわけにはいかない!

 孤高の悪役令嬢たる、この私のプライドに賭けてっ!!


「エドウィン、アレス。

 お前達の要件は、これで終わりか?」


「っ! は、はい」


「その通りです」


「そうか、しかしソフィーは公爵令嬢。

 それも王族に次ぐ国内最大貴族であるルスキューレ家で、王宮に入るにはもう暫く時間がかかる」


 それは……まぁ、そうですね。

 イストワール王国では爵位の低い者から先に入場して待ってる必要があるし。


「ならば……ここからは、ソフィー」


「はい、なんでしょうか?」


「レフィア神聖王国で何があったのか、話を聞いても問題ないという事だな?」

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