第427話 引き受けよう

 ッ────!!!



 魔の森の奥深くからここまで、バシバシと伝わってくる殺意の奔流!

 ここまでしっかりと鳴り響く、大気を震わせる魔物達の咆哮!!


「ふ〜ん」


 事前にある程度は予想してたけど……


「やっぱり、魔の森の魔物達を利用してきたね」


「だね」


 このタイミングで偶然、魔の森でスタンピードが発生するなんて事はまずあり得ないだろうし。

 フィルのいう通り! これは教団の連中の仕業と思って間違いない。


「しかし……これは悪手でしょうに」


 確かに魔の森は冒険者ギルドの規定で、S級危険領域に指定されるほどに危ない場所だし。

 生息している魔物も強大で、まさに人外魔境といって差し支えない。


 一般人なら当然として、高位冒険者でも中層以降に足を踏み入れてしまえば死亡率は5割を超える。

 だけど、所詮はその程度! いくら強大で、危険な魔物が多いとはいえ……


「甘く見られたものだわ」


 魔の森に生息する魔物達なんて、大海を超えてあの場所で!

 本当の人外魔境……人を超越した存在達が住う伝説の地、神の国こと悪魔王国ナイトメアで修行を積んだ私達の敵じゃないのであるっ!!


「こほん、フィルくん」


「フィルくんって……はぁ、まったく」


「むっ」


 おかしい。

 なんか思ってた反応と違うんですけど。

 ふかふかなお気に入りクッションに腰掛けて、優雅に足を組んで美しく!


 みんなの、Sランク冒険者のリーダーに恥じない、かっこいい仕草で指示を出したはずなのに……なぜか呆れたような感じで、ため息をつかれてしまった。


「了解しましたよ、ボス」


 瞬間──


「神聖なる白き光よ」


 フィルから膨大な魔素が解き放たれる。

 フィルによって支配されたかのように、大地が、空が、空間が……王都全体が。


 さっきまであれだけ咆哮を挙げていた、まだ見えない魔物達でさえ静まり返る!

 まるで世界がが凍りついかのような錯覚に陥る!!


「全ての害悪を閉ざせ……白光の聖域」


 天から降り注ぐ美しき女神を象った優しい白い光が、意思を持っているかのように王都を抱擁し……王都全域が優しく、温かい光に包まれる。


「う〜む」


 私の相棒たるフィルだし、このレベルの魔法を一瞬で発動したのは、今更だからまぁいいとして。

 何度見ても神聖な感じがハンパない。


 やっぱり天使の称号は私じゃなくて、フィルにこそ相応しいと思うんだけどなぁ〜。

 基本的にずっと仮面をつけてるのに、私のどこに天使の要素があるのか。


「解せないわ」


「ほらいつまでも座ってないで、そろそろ来るよ」


「っと、そうだった!」


 フィルが解き放った膨大な魔素エネルギーの圧を受けて、魔物達も動きを止めたようだけど。

 それはほんの数秒程度。


 本来なら研ぎ澄まされた本能で、彼我の実力差を悟って逃げるんだけど。

 どうやってるのかは知らないけど、教団のヤツらの手によって正常な判断ができない状態にあるわけで……


「来たわね」


 続々と。

 それはもう黒い津波のように、魔の森から姿を現す視界を埋め尽くすほどの魔物達!!


「Sランク冒険者の皆様っ!」


「早くご避難をっ!!」


 まぁこの外壁に常駐してる、騎士さんが取り乱すのも無理はない。

 だってこんなにも大量の魔物達が……


 それもS級危険領域である、魔の森の魔物達が!

 続々と止まる事なく、魔の森から溢れ出してくる光景……魔の森のスタンピードなんて経験した事ないだろうし。


「ふふっ」


 だがしかしっ! 忘れてもらっては困る。

 私が! 私達がいったい何者なのかをっ!!


「安心してください」


 ここは私がビシッと! かっこよく魔物達を退けて、私の力を見せつけると同時に……天使ってイメージを払拭してやろうじゃないっ!!


「私達は人類最強の一角、Sランク冒険者ですよ?

 この程度の魔物達なんて……」


 よし! あの魔法で一掃してやるわ!!


「なんの問題もありません」


 むふふっ、さぁ! 刮目しなさいっ!


「その通りだ」


 瞬間──


「へっ?」


 無数の魔法陣が光り輝き……


「ここはこの私。

 Sランク冒険者が1人、〝軍勢〟が引き受けよう」


 万を優に超える、大軍勢が顕現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る