第379話 絶対に許さないわ

 現状では世界中で暗躍しているにも関わらず、各国の上層部の中でも一部の人達しか認知していない組織。

 基本的には5年に一度、なんらかの緊急事態が生じた際には四大国のうち2国からの要請によって開かられる国際会議。


 その場にて各国の王達によって、教団と呼ばれるようになった秘密結社……光の使徒。

 その光の使徒の頂点に君臨する10人の最高幹部。

 十使徒の一角にして、慈愛の称号を持っている第七使徒・慈愛のピア。


「よ、ぐも……! よくも、このワタシに血をっ!!」


 四つん這いになって、腹部を押さえて吐血しながらも、狂気に満ちた目で私を睨んでくるピアは確かに強い。

 それこそさっき自分でも言った通り、5年前は手も足も出なかったほどに。


 並列存在による分体を使うことがでるため、どれだけ分体を倒しても本体を倒さないと意味がないし。

 まぁ一時的に弱体化はするだろうけど……それに加えて時間をも操る。


 並の者ならピアの事を認識すらできずに敗北するだろうし。

 Sランク冒険者のみんなでも、初見なら多分ピアには勝てない。

 それほどまでに、ピアは強くて厄介な強敵なわけだけど……


「まったく……このピアちゃんの身体を、我らが神のモノである私に傷をつけるなんて。

 それがどれだけ愚かで、許されない事かは以前に教えてあげたはずなんだけどなぁ〜」


 狂気に濁った瞳で、ゆっくりと歩いてくるピアが……


「仕方ないなぁ〜。

 うふっ! とりあえず〜私の尊い身体を蹴りつけた……この足はもう必要ありませんよねぇ〜??

 うんうん、切り落としちゃいましょう〜!!」


 ニタァと笑みを浮かべて、禍々しい魔力を纏わせた腕を振り上げ……



 ボトッ



「……は?」


 地面に落ちた腕に。

 血の一滴すら出す事なく、切り落とされた自身の腕にピアが間抜けな声を漏らす。


「言ったはずですよ? 5年前とは違うと」


「ッ〜!!?」


 私の言葉に、目の前で淑女然とした笑みを浮かべる私に……ピアが驚愕に目を見開いて息を呑む!

 まぁ、ピアが驚くのも当然だよね。


「な、なぜ……!」


「動けるのか、ですか?」


 だってピアは今、時間を止めているわけですし。

 時間停止をしているはずなのに、私に反撃されたピアが驚くのは当然というもの!!


「簡単ですよ、今の私は時空間魔法を使えます。

 つまり……この程度の時間停止なんて、今の私には通用しない」


「ッ!!」


 咄嗟にピアが飛び退いて私から距離を取る。

 私の剣気を察したか、流石にいい感をしてるわね。


「でも……」


 纏った雷が弾け……



 バチィッ──



 雷鳴が鳴り響く!


「逃しませんよ」


 一瞬で飛び退いたピアの真正面に肉迫し……


「うぐっ……!?」


 私の剣が、ピアを胸を刺し貫く。


「十使徒が第七使徒・慈愛のピア」


 この5年間。

 私は特級依頼を遂行するにあたって、他のSランク冒険者のみんなと修行を重ね!

 さまざまな化け物達と……


 それはもう、視界を埋め尽くす超巨大津波を引き起こしたり、天を衝くほどに巨大な水柱を何本もぶっ放してきたりは序の口。

 ピア程度の時間停止なんて可愛く思えるほどに、本当にヤバい存在達と海で鎬を削ってきた。


「貴女ではもう、私には勝てない」


「調子に、のるなっ!」


「無駄です。

 今の貴女は私の雷によって拘束されているので、全身が麻痺していますからね。

 もう動けないし、逃げられない」


「なっ……ふ、ふふっ、今ここで私を始末しても無駄ですよ?

 忘れたんですかぁ〜? 私には分体があるんですよぉ〜?」


 ピアの顔に僅かに浮かぶ恐怖の色。

 まっ、そりゃそうだよね。


「私の目を見てください」


「目ですかぁ? なにを……」


「この竜眼ドラゴン・アイには、いくつか権能があるんですけど。その1つとして竜の瞳は全てを見通します」


 まぁ、全てっていうのは大袈裟で、見通せないものも当然あるけど。

 細かい事は気にしない!!


「つまり……今の貴女が並列存在による分体ではなく、本体だって事も当然わかっているんですよ。

 だから絶対に逃しません」


「っ……!」


 これでピアも自身の置かれている状況が。

 絶対に私がピアを逃すつもりがないって事がわかっただろう。


「ふふっ、ねぇピア、私ってこう見えて実は苛烈で無慈悲な悪役令嬢なのよ?」


「ひぃっ!」


「だから、5年前の一件も。

 レオン陛下の事も……絶対に許さないわ」


「や、やめっ……」


 喉をひきつらせた悲鳴をあげたピアが、焦ったように恐怖に顔を歪め……


「こんな、こんなところで!」


「今度こそ、消えなさい」


「いやぁっ──」



 バチィィィッ──!!!



 耳をつんざく、雷鳴が鳴り響く。


「ふぅ……」


 灰すら残さずに消滅させてやったわけだけど……やっぱり敵とは言え、人を殺すのはいい気分じゃないわ。

 後でまたレフィーちゃんに癒してもらえればいいんだけど……



 チンッ



 静まり返った場に、刀を納める音だけがこだまし……


「よし!」


 感傷に浸るのは後!


「今はフィルのところに急がないと」

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