第372話

「チッ……逃げられちまったか」


「レオン陛下……」


 ただでさえ愛娘を拉致されてるのに、その犯人からあんな話を聞かされて……


「ん? なんだ、なんだ! お嬢ちゃん、そんな顔するなって。

 心配するな、カリンは必ず助け出すからよ」


 それはもう心配なはずなのに、私を気遣ってすら見せるこの態度。

 仮に拉致されたのが私で、これが私のお父様なら、たぶん周囲の制止を無視してもうルイーナの城に乗り込んでるだろう。


 流石と言うべきか、なんと言うべきか。

 レオン陛下は獣王国ビスバロニスを統べる獣王であり、八魔王が一柱ヒトリに名を連ねる魔王でもある。


 上に立つ者として、配下を動揺させないために、勤めて冷静な態度を取ってるってのもあるだろうけど。

 これが……絶対的な強者ゆえの余裕ってやつか……


「さて、それじゃあ……」


 レオン陛下が右手の人差し指を、その鋭い爪を軽く振るう……



 ピシッ……ガラガラガラッ!!



「カリンも最上階で待ってる事だし。

 早速、行くとするか」


 たったそれだけで、ルイーナのお城を守る頑強そうな城門が。

 分厚い扉に幾重にも線が走って……バラバラになって崩れ落ちた……


「マジですか……」


 なに、今の?

 いやマジで軽く指を一振りしただけだよ? 分厚つくて頑強なだけじゃなくて、結界も展開されていたはずなのに……一瞬でバラバラに。


「これは開戦の狼煙の代わりとしよう。

 しかし……クックック、この程度で驚いてもらっちゃ困るぞ?

 これでも俺は、魔王の中でも2、3番を争う力を持ってるんだぜ?」


「えっ……」


 ちょ、ちょっと待って! いま非常〜に、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんですけどっ!?


「に、2、3番を争う?」


 これだけの力を。

 今の私ですら見切れない速度で、ルイーナのお城の城門を破壊してみせたレオン陛下が2、3番っ!?


「そうだが……まっ、詳しい事は先に進みながらにしよう」


「えっ、あっはい」


 今はカリンさんを救出しなきゃだし、こんな所でゆっくり話してる場合じゃなかった!


「ふふっ、それじゃあ急ぎましょうか」


「ぐずぐずしてると、騒ぎを聞きつけた魔人族達が集まってくるでしょうしね」


 確かに、ルミエ様とフィルの言う通りだわ。

 急がなきゃならないのに、大勢に立ち塞がれたら時間を取られるし。


「んじゃあまっ、行くぞ」


「はいっ!」


 レオン陛下に続いてルイーナのお城に乗り込み……



 パァ──!



「これは……」


 レオン陛下によって破壊された城門……いや、違う。

 このお城全体が結界に包まれた?



『ウフフ、それは貴方達を逃さないためのもの。

 魔王の一角に、かつて私の同胞を落としたSランク冒険者。

 生かしていたら、いつか私達の邪魔になるでしょうから、貴方達にはここで死んでもらう』



 私達を逃さないための結界、ね。



『あぁ、安心して?

 おチビちゃんと、可愛い坊やだけは生かしてあげる。

 ウフフ、貴重な実験体としてね? せいぜい頑張って、私を楽しませてくれる事を期待してるわ』



「ったく、あの野郎……俺達の事をナメすぎじゃねぇか?」


「ふふっ、少しイラッとしたわね」


 おっと、レオン陛下とルミエ様のこめかみに青筋が!!

 ま、まずい! 2人に暴走されると、私達じゃあ止められない……!


「で、でも! あれだけ自信満々という事は、なにか罠とか策があるのかもしれませんし。

 油断するのは……」


「問題ねぇよ。

 アイツが何を企んでいても、それごと叩き潰してやるからよ」


「えぇ、身の程を教えてやらないと」


 ダメだ! ど、どうすれば……


「あっ! そういえばレオン陛下!!

 さっきの続き! 魔王について教えてください!!」


「ん? あぁ、そうだったな」


 よかった! どうにか話を逸らせた!!

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