第339話 まだ続けますか?

「うそ……」


 愕然と呟いてるけど……残念ながら嘘じゃない!!

 洗練された完成度の高い魔法ならともかく、あんなとりあえず魔力をいっぱい詰め込みました! みたいな魔力弾なんて簡単に霧散させられる、これは純然たる事実なのだよっ!


 しかし……身バレ防止のためにもセドリック達に私の魔法の技量がバレるのは避けないとだから、使える属性は私の得意な属性として周知されている氷属性のみ。

 さらに魔力は最低限で、魔法は初歩的な初級魔法だけ。


「ふふっ」


 いいね、面白いじゃん!!

 別にエマの事を舐めてるわけじゃないけど……今の私達の実力差を踏まえると、このくらいのハンデがなくちゃね!


「こんなの、あり得ない……」


 まぁ、エマが驚愕するのもわかる。

 だって乙女ゲームなら……今の一撃は私の頭上を通って外れるけど、その威力に恐れをなした私はその場に崩れ落ちる事になる。


 そして初めての魔法という事もあって、全力で魔力を放出してしまったエマも同様に魔力欠乏症に陥る。

 焦燥感たっぷりに急いでの元に駆けつけたセドリックに、お姫様抱っこされて保健室に向かう。


 死を実感して腰を抜かして、唖然としている私の目の前で。

 未だに立ち上がれない私には目もくれずに、その場に放置して……が! 現実は違うっ!!


 あの程度の魔力弾が私に通用する思ったら大間違い!!

 それにエマも初っ端から全魔力を解き放つ、なんてバカな真似はしなかったみたいだし。


「聖女の力とは、その程度ですか?」


 まぁこれから様々なイベントを経て、強くなっていくんだけど……実際に魔王の力を知っている身としては、こんなので本当に魔王に勝てるのか疑問だわ。


 そもそも乙女ゲームでは魔王は一人しかいなかったけど、この世界には存在する魔王は全部で八……私がナルダバートを倒したから今は七柱だし。


 他にも乙女ゲームとの差異はあるけど……とりあえず確かに言える事は、この世界は乙女ゲームと非常に似てはいるけど、実際には大きく違う部分も存在するという事。


「ふむ」


 魔王を倒して王家の威光を示すために禁忌魔法を使ってまで召喚して、今は乱心したとして幽閉されてる前王エルビルと前王妃ドラヴィラが悪いけど……エマとセドリック達で魔王を倒せるとはとても思えないんだよね〜。


 だって膨大な魔力といっても、さっきの魔力弾に込められた魔力が大体30万くらいだったし。

 それでエマの魔力総量が50万程度だよ?


 いやまぁそれでもエマはオルガマギア魔法学園への入学時、私とフィルに次いで魔力量が高かったミラさんの28万を大きく上回ってるし。


 セドリックは25万ほど。

 サイラスは30万ちょっとで、他2人は20万前後と王族と高位貴族だけあって凄いっちゃ、凄いんだけども。


「ウソよ、こんな事って……」


 激しく取り乱してるエマに、魔王という存在をどうにかするのは無理だと思う。


「み、認めない!

 こんなの、きっと何の偶然よ……!!」


 ブツブツと呟いてるけど……エマさんよ、距離が離れてるセドリック達には聞こえてなくても、私にはバッチリ聞こえてますよ?


「はぁぁっ!!」


 再びエマの周囲に浮かび上がるは、身の丈程もある神聖属性の魔力弾。

 それも1つではなく、全部で10個。


「はぁ、はぁ……どう、ですか?」


 さっきと比べてサイズはかなり小さくなったけど、その分魔力を分散させて数を増やしたわけね。


「これが私の、全力で……」



 ────!!



 エマの言葉を無視して放った氷の刃が、同時に全ての魔力弾を霧散させ……


「えっ?」



 バッ!



 扇を広げると同時に、呆けるエマの足元に数本の氷の刃が突き刺さる!


「っ……」


 ビクッと肩を揺らし、ヘナヘナと座り込んだエマを扇で口元を隠しながら見下ろし……


「まだ続けますか?」


 ドドンっ!!

 決まったぁ〜! 我ながら完璧すぎる悪役令嬢ムーブだわ!!

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