第329話 初イベント!

 木の上に子猫がいなかったらエマが木に登る事も、木から落ちてセドリックに助けられる事もない?

 つまりセドリックが私との婚約を破棄する事も……


 ま、まずいっ!

 ど、どうしよう? どうすればっ!?

 い、いや! 落ち着け私っ! これは……そう、これはいい機会じゃない!


 エマが乙女ゲームの事を知っていて、乙女ゲームと同じように事を進めようとしているなら!

 たとえ木の上に子猫がいなくても、木に登ってセドリックとの出会いイベントを再現しようとするはず!!


「あれ?」


 うそ、これって……


「ル、ルミエ様っ!」


『えぇ、わかっているわ』


 さっき逃してあげたのに、いつの間にか木の上に子猫がっ!!

 ど、どうなってるの……


「はっ!」


 ま、まさか! これが世界の強制力っ!?

 いや! 強制力が働くのなら好都合!

 断罪されても大丈夫なように、力を付けてきたわけだし……


「きゃっ!」


「危ないっ!!」


 視界の先でバキッと枝が折れて、可愛らしく悲鳴をあげたエマが落下し……


「大丈夫かな?」


 偶々近くを通り掛かったセドリックが受け止める。

 なんていうか……うん、親方! 空から女の子が! のワンシーンを実際に見れて、ちょっと感動したわ。


「あ、ありがとう、ございます」


「い、いや、怪我は?」


 至近距離で見つめ合う2人。

 完全に乙女ゲームのスチル通りの光景っ! ってことは……


「だ、大丈夫です!

 助けていただき、ありがとうござ……あっ」


 足をついたエマがバランスを崩して……


「きゃっ」


 セドリックに再び抱き上げられる。


「無理はダメだよ。

 近くに静かな場所があるから、そこで怪我を確認しよう」


「あの、その……!」


「大丈夫、私の名前はセドリック・エル・イストワール」


「えっ……?」


「この学園の生徒会長で怪しいものじゃない」


「そ、そんな! 王子様にこんな事をさせるわけには!!」


「問題ないよ、困っている生徒を助けるのも生徒会長である私の役目だからね」


 いや、問題大有りだと思うけど……まぁ恋に盲目というか、昔から自分の考えが正しいって思ってる節があるからなぁ〜。

 婚約者だからって理由で、私の部屋にも勝手に押し入ってくるし。


「あぅ……」


 エマが顔を真っ赤にして押し黙り、セドリックは王子様然とした爽やかな笑みを浮かべる。

 この光景を見てると可愛いヒロインを助けた、カッコいいヒーローって感じだけど……


 エマの方はともかく、セドリックの本性というか、これまでの言動を知ってる身としては……ねぇ。

 なんとも言えない微妙な感情にならざるを得ない。


 エマが乙女ゲームを知っていて、私の事を陥れるつもりなのかは未だに不明だけど。

 とりあえず、セドリックに目をつけられるとか、ご愁傷様です。


「う〜ん」


 乙女ゲーム通りの展開だし、これが正しい流れなのかもしれないけど。

 なんかちょっと、エマに不良物件を押し付けちゃってるような罪悪感が……


『それはソフィーが気にするような事じゃないと思うわよ?

 自身の目で見た上でセドリックに惹かれるというのなら、それは彼女自身の問題だもの』


「ルミエ様……」


 まぁでも、うん! ルミエ様のいう通りだよね!!

 エマだって本当に嫌なら、自分の意思でセドリックから距離を取るはずだし。


 でも……それすらも世界の強制力で、ねじ曲げられていたら?

 そうなると流石に私でもどうにもできない。


「まっ、細かい事を考えてもどうにもなりませんよね!」


 仮にエマの意思が強制力によって捻じ曲げられていたとしても、私と敵対するのなら容赦はしない!

 たとえこの世界には強制力があって、破滅するっていうのが私の運命だとしても……


「ふふっ!」


 運命なんて力でねじ伏せてやるわっ!!

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