第267話 過保護発動

「これは……」 


 目が! 目がくらむぅっ!!

 お、おおお落ち着け! 落ち着くんだ私っ!

 私には魔力感知があるんだし、別に目を瞑っていても周囲の様子は目で見るよりも鮮明にわかる!!


「こほん! 皆さん、落ち着いて」


 ここは生徒達の前だし、先生である私が取り乱す姿を見せるわけにはいかない!

 それに突然的にダンジョンに転移させられて、さらにはベル様の登場があったりと色々と混乱してるだろうし。


 ここはオルガマギア魔法学園の先輩として! 彼らの先生として!!

 堂々とした余裕ある態度で振る舞わなければっ!

 というわけで……


「魔力感知、発……!?」


「お嬢様ぁっ!!!」


「お姉様ぁっ!!!」


「どぉっ!?」


 び、びっくりしたぁ〜。

 視界が一気に明るくなったと思ったらまた暗く……いやまぁ、もうなにが起こってるのかは想像がつくけども。

 さすがにいきなりだからめっちゃドキってしちゃったじゃんか!!


「あぁ! お嬢様が! お嬢様が、こんなにも傷だらけにっ!!」


「お姉様! 血がっ!!」


 そりゃあ……まぁ、致命傷だけはなんとか回避してたけど、あれだけ攻撃をくらっちゃうとね。

 とはいえ! どれも傷は浅いし、見た目ほど酷くはない。


「もう、ファナもミネルバも大袈裟すぎ。

 こんなのなんてことないから」


 確かに普通の貴族令嬢だったら、この程度の傷でも泣き叫んでるだろうけど……

 私はいずれ最強に至る、孤高の悪役令嬢たるソフィア・ルスキューレ公爵令嬢っ!!


 教団の十使徒の1人にして魔王の一角でもあったナルダバートにお腹を貫かれたときに比べたら、この程度の傷なんてなんともないのである!!


「大袈裟すぎる事なんてありませんっ!

 健やかなれ」


「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」


 おぉ〜、さすがはファナ!

 我ながらボロ雑巾と呼ぶに相応しいボロボロぐあいだったのに、一瞬で怪我が全部治って傷一つない乙女の柔肌に!!


 この光景を私の後ろで見てた生徒達が、目を見開いて驚愕に息を呑んでるのが魔力感知でわかるけど……まぁ! みんながそんな反応になっちゃうのも仕方がない!!


「むふふっ!」


 だって! 私のファナはすごい人なのだよ!!

 回復魔法のスペシャリストで、回復魔法関連の実力は同じ光属性、神聖属性の魔法を駆使するSランク冒険者たるフィルをも凌駕するっ!!


 イストワール王国でも文句なしの頂点!

 こう見えてファナは、大賢者であるマリア先生にも認められるほどの実力者なのだ!!


「ふっふ〜ん!」


「なんでソフィーが得意げなのさ」


「むっ! いくらフィルでも、ファナはあげないからね!!」


 私の予想が正しければ。

 まぁまず間違い無いんだけど、フィルがファナのことを好きなのはわかっている!!


 だってたまにフィルは私のことを警戒しながら、ファナとコソコソ話してることがあるし。

 あれはファナの主人である私を警戒しながら、ファナを口説いているに違いない!


「あげるって、なにを……」


 この期に及んで私にバレていないとでも思ったか!

 こうなったらハッキリと宣言しておいてやるわ!!


「候補には入れてあげるけど……ファナの旦那様になりたいのなら! まずこの私に認めさせることが絶対条件だからね!!」


「えっ……」


「お嬢様……」


「お姉様……」


「「「「「「「「……」」」」」」」」


 えっ? なにこの微妙な空気?

 なんで生徒のみんなも、この場に集結してたマリア先生達もそんな残念なものを見るような目でこっちを見るの!?


「いえ、でもこれは好都合かも……」


「ファナ?」


 好都合ってどういう……


「そんな事よりも! 早くお嬢様を安全な場所に!!」


「そうでした! マリア様、後ほどよろしくお願いします」


「えぇ、わかったわ」


 マリア先生っ!?


「でへ申し訳ありませんが、我々はこれで失礼させていただきます」


「えっ! いや、もう大丈……」


「なにを仰っているのですか!

 傷は治っても疲労や失った血液までは戻りません!」


「そうですよ! まだまだ絶対に安静にしないとっ!!」


「ウェルバーくんがベッドを整えているはずです。

 すぐに移動しましょう!」


「ちょっ! ファナっ!?」


 恥ずかしいから生徒達の前で抱っこは!!


「あの、本当に大丈夫だから」


「「ダメです!!」」


「うっ……」


 お、おかしい! 私が主人のはずなのにっ!!


「フィル様、お嬢様のお部屋まで転移をお願いします」


「了解」


 フィルまでっ!!

 私にはこれからダンジョン内であったことを報告する義務があるのにっ!


「じゃあ後でみんなでお見舞いに行くよ」


「ちょっと待っ……」


 そして再び、一瞬にして視界が切り替わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る