第238話 運命が動き出す

 イストワール王立学園の入学式。

 溜まりに溜まっていたセドリックに対する愚痴も、リアットさんに話すことができただけではなく……


 もはや見慣れてしまったメイド服ではなく。

 王族の専用席でウェルバーと一緒に、綺麗なドレスを着て座ってる可愛いミネルバも見れた!!


 とまぁ、私的には非常に有意義な入学式がつつがなく終わり。

 各自引率の先生に従って、教室に移動することになったんだけど……


「ふふふ、これから5年間ソフィア嬢と一緒に学べると思うと、楽しみですね」


「ええ、そうですね」


 私は全然楽しみじゃないですけどね!!

 はぁ……どうしてこんなことに? 本当なら今頃、リアットさんと話に花を咲かせながら移動してたはずなのに……


 現実は当然のように私をエスコートしつつ、爽やかな笑顔を浮かべるセドリック。

 そして、そんなセドリックっと私の後ろをついてくる側近の3人。


 侯爵家の嫡男にして、宰相令息でもあるオズワルド・アイビー。

 腹黒メガネの姿が見えないから、もしかしてなんらかの要因で入学しなかったのかな?


 なんて期待したけど、そんな都合のいいことはなく。

 どうやら新入生総代として答辞をするセドリックのために入学式の準備を手伝っていたとのこと。


 まぁ今は別にオズワルドのことはどうでもいい!

 重要なのは私がセドリックにエスコートされていて、その周りを側近が固めているという事実のみ!!


「……」


「ん? そんなに私の顔を見つめて、どうかしたかな?」


 見つめてないしっ!!


「いえ、なんでもありませんわ」


 非常〜に居心地が悪いんですけど。

 いやまぁ婚約者だから、私のエスコートをするのは不自然じゃないんだけども……


 爽やかな笑顔を浮かべるセドリックを見て、頬を染めながらキャッキャと盛り上がってるご令嬢達。

 騙されたらダメだからね!?


 確かにセドリックの容姿は整ってる。

 さすがは攻略対象の1人にして、乙女ゲームのメインヒーローなだけはある。


 けど……本当に顔だけだから!!

 王族らしくファナ達には横暴だし、なにをいっても自分の都合のいいように脳内変換するストーカーだからっ! っていいたい、いいたいけど……


「本当に大丈夫ですか?」


「ふふっ、ご心配ならさず」


 さすがにそれはいえないんだよな〜。


「本当ですか? 先程から気分が優れなさそうですが……私の前では無理をする必要はありませんよ?」


「いえ、少し考えごとをしていただけで、本当になんともありませんから」


 しいていえば、この状況のせいです。

 はぁ……まだ聖女エマも召喚されてないのに、前途多難な学園生活になる気がするわ……






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「もうすぐです」


 美しい女神像の前に設置された円卓を囲う10の席。

 そのうち最も女神像に近い位置に座る、純白のローブに身を包んだ人物が焦がれるような声音で……


「我ら十使徒を一度ならず、二度三度と退けた実力と幸運。

 流石は特異点たる愛子、運命に守られし者といったところでしょうか?」


 何もかもが白く厳かな空気に包まれた空間。

 他9つの空席を眺めながら男は1人、しかしながら誰かに語りかけるように独り言を呟く。


「あぁ、我らが真なる神よ……もうすぐです。

 もうすぐ貴方様の、そしてこの私の宿願が叶う!」



 バサァ



「皆を、我が同志達を招集しなければ」


 男が席から立ち上がった拍子に、純白のローブから白い翼が覗き……


「もうしばらくお待ちください。

 来るべき日は近い……ついに、ついに運命が動き出す」


 その場所には最初から誰もいなかったかのように、舞い落ちた白い羽だけを残して男の姿が掻き消えた。

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