第237話 入学式
「……」
我が宿敵セドリックにエスコートされつつも、リアットさんのおかげでギスギスした気まずい空気になることもなく。
無事に入学式の会場である大講堂に到着。
新入生総代として答辞の準備があるからと、名残惜しそうにするセドリックと別れられたのはよかった。
セドリックと離れられれば、側近であるガイル達とも離れられるわけだし。
「はぁ……」
セドリック達と離れられたところまでは、よかったんだけど……周りにばれない程度にため息をついちゃうのは仕方ないと思う。
だって……
「あぁ! ソフィーが、ソフィーが可愛すぎて辛いっ!!
この講堂にいる新入生の中で、ソフィーが一番可愛いのは間違いないね」
「ふふふ、ヴェル。
ソフィーちゃんは私達のソフィーちゃんなのよ? そんなの当然の事じゃない」
「あっ! ソフィーがこっちに気づいたみたいだよ!」
「ソフィーちゃんのお隣の方は……エドウィン侯爵家のリアットさんね。
お友達かしら?」
「もう友達ができたのか、流石は俺達のソフィーだな!」
「何を言ってるのよ。
私達のソフィーちゃんは誰からも愛される天使なのよ?」
十四賢者の一角に名前を連ねるアルトお兄様。
Sランク冒険者の1人、剣帝としてその名を轟かせるエレンお兄様をはじめ……
アルトお兄様のお嫁さんで、魔導学園都市王国の公爵令嬢でもあるフィアナお姉様。
エレンお兄様のお嫁さんで、オルガラミナ武術学園がある騎士王国の大公令嬢であるディアお姉様。
王妃フローラ様と双璧を成して社交界を牽引し、イストワール王国の社交界を支配しているお母様に。
王家に匹敵……というよりも王家をも凌駕するだろう力を有するルスキューレ公爵家が当主であるお父様。
今のイストワール王国で最も力を持っている大貴族。
ルスキューレ公爵家の面々が勢揃いしてるんだから、周囲の注目も当然集めまくってるわけで。
傍目からには優雅に談笑してるようにしか見えないだろうけど……
「……」
私には全部聞こえてるんですけど!
恥ずかしいからやめてほしいんですけどっ!!
「ソフィア様? どうかなさいましたか?」
「いいえ……なんでもありません」
きっと今の私は死んだ魚のような、諦めの境地に至ったような目をしてるだろうけど。
「そ、そうですか……」
リアットさんにも苦笑いされちゃったけど、こればっかりは仕方がない。
そりゃまぁ、家族に愛されてることは当然嫌じゃない。
お父様もお母様もお兄様達もお姉様達も。
ファナもミネルバもルミエ様も、みんな大好きだけれども! 恥ずかしいものは、恥ずかしいのだ!!
「それはそうと……ソフィア様は殿下の事が苦手なのですか?」
「あっ、ちょっと待ってくださいね」
その話をするんだったら、周りに聞かれないように遮音結界を展開しないと。
「これでよしっと」
「っ〜! この結界は、ソフィア様が?」
「はい、一応仮とはいえ婚約者の立場ですし。
王族の悪口を聞かれるのはよろしくないので」
「それでこの結界を、それもなんの動作もなく一瞬で……さすがです!」
「ふふっ、ありがとうございます」
まったく、リアットさんったら目をキラキラさせちゃって!
後でこの結界も教えてあげよう!!
「それで、セドリック殿下の事ですが……実は……」
セドリックは仮とはいえ婚約者だけど、はっきりいって私の専属メイドであるファナに対する横暴な態度とかもあって、いい印象は全くない。
どちらかといえば、苦手な人ですらある。
だって何度いっても勝手に私の部屋に押し入ってくるし。
人の話は聞かず、自分の都合のいいように頭の中で変換して解釈するし。
そりゃあ私だって最初は歩み寄ろうとしたよ?
いくら乙女ゲームのことがあるとはいえ、ここは乙女ゲームの中じゃなくて現実。
セドリックが乙女ゲームみたいに、本当に聖女エマを好きになるとも限らないわけだしね。
けど……乙女ゲームの件をぬきにしても、残念ながら私のセドリックに対する好感度はゼロに等しい。
私のセドリック対する印象なんて、アプローチと称して長年さまざまな嫌がらせをしてきた宿敵。
そしてなぜか私に愛されてて、相思相愛だと思い込んでるストーカーだもん。
「それは……確かに酷いですね。
まさかノックもなしに、乙女の部屋に押し入ってくるなんて!」
「そうなのです!」
リアットさん、わかってくれますか! この誰にもぶつけることができないモヤモヤを!!
「他にも……」
────!!
えっ? なになに、なんでいきなり拍手喝采?
「新入生総代セドリック・エル・イストワール様による答辞に続きまして、学園長からの挨拶です」
あっ、リアットさんに溜まりに溜まったセドリックの愚痴を語ってたら、いつのまにかセドリックの答辞が終わっちゃってた。
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