第209話 出発っ!!

 サイラス・エドウィン。

 エドウィン侯爵家の嫡子であり、セドリックが学園に入学するタイミングで選ばれる側近の1人。

 つまり……私の宿敵たる、攻略対象の1人っ!!


 半年ほど前の式典。

 揃って引退された前魔法師団長と前総騎士団に代わって、バリアード・アレス伯爵と一緒にその任に就いたイグリット・エドウィン侯爵の就任式典で顔を合わせたけど、すっかり忘れてた……


「あっ!」


 ま、まずいっ!

 ついつい名前を呼んじゃったけど、初対面の冒険者が自身の名前を知ってるなんて明らかに不自然……


「ふんっ、貴様のような下世話な冒険者でも、流石に私の名前くらいは知っているようだな」


 うん、まぁなんだ……都合のいいように勘違いしてくれたようでよかった。


「そうだ、私は賢者のお1人であらせられるアルト・ルスキューレ様の再来と……天才の再来と噂されている魔法使いだ!」


「えっ?」


 そ、そうだったの?

 まさかサイラスがそんなふうに呼ばれていたなんて、全然知らなかった。


 あっ、でも確かに前世の記憶にある乙女ゲームでは、天才の再来って肩書きを持ってた気がする!!

 なるほど〜、その天才ってお兄様のことだったのか。


「お兄様? どうかなさったの……?」


 やっぱり……馬車の中にまだ魔力反応があると思ったら、やっぱりサイラスの双子の妹であるリアットさんだったか。


「いや、なんでもないよ。

 リアは中に入っていて」


 リアットさんとは結構仲がいいだけに、バレちゃわないか心配なんだけど……


「っ! 貴女は……」


 やばい! 私を見てリアットさんがめっちゃ目を見開いてるっ!!

 れ、冷静に! 冷静になるんだ!!

 ここで変に取り乱したらダメだ! 堂々としてないと……


「とにかく、そういうわけだ。

 我々は冒険者風情に守ってもらう必要などない。

 そもそも貴様のような小娘に、私と妹の護衛が務まるはずも……」


「サイラス殿! いい加減にしなさい!!」


「っ!!」


 び、びっくりした! 今度はなにっ!?


「先程から黙って聞いていれば……貴方はいったい何を口走っているのか、理解しているのですか?」


「なんですって? それはどういう……」


「はぁ……お前達も、このお方達にそのような目を向けるな! 私が恥ずかしい」


「た、隊長、それは……」


「皆様、大変失礼致しました。

 皆の無礼、どうかお許しください」


 ふむふむ、さすがはAランクの実力者!

 隊長さんだけは、私達の実力に気づいてるみたいね。


「バレル殿! いったい何をっ!?」


「た、隊長!?」


「まったく、嘆かわしい……サイラス殿、そしてお前達はこのお方達が何方なのか本当にわからないのか?

 はぁ……トリニティの名を聞いてもわからないか?」


「「「「「「っ!?」」」」」」


 むふふ! 驚いてる、驚いてる!!

 そうっ! 私達こそ、世界中にその名を轟かせているSランク冒険者3人で結成されたパーティー……トリニティなのだよっ!!


「このお方達には……こちらのSランク冒険者ソフィー殿にとっては、1人で我々を皆殺しにする事も容易いだろう」


「「「「「「なっ!?」」」」」」


「まぁ、そうですね……否定はしません」


 事実、この場にいる騎士達全員を相手にしても勝つ自信があるし。


「せっかく冒険者ギルド統括グランドマスターである、ガルド殿直々の紹介で我々の護衛を引き受けていただけたというのに……重ね重ね、本当に申し訳ありません」


「い、いえ、私は別にそこまで気にしてませんから」


 あくまでも私は、だけど……リアットさんが聞いてるこの場で、下手に喋るのはよろしくない!

 なんとかして早く会話を切らないと!!


「こほん、ではそろそろ出発しましょうか!

 というわけで、ガルドさん、クリスティアさん! 行ってきますね!!」

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