悪役令嬢は最強を志す！ 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います！〜

第198話 誇り高き咆哮

「ッ〜！！」

　今まで一度も感じたことのない、全身を押し潰されるような、心の臓を握り潰されるようなこの感覚。

　一見ただの……というには容姿が整ってるけど、とにかく！ 普通の美少女にしか見えないのに！！

　あの少女からはなにも……ナルダバートにピア、ルミエ様や鮮血姫ルーナ様から感じたような圧倒的な魔力も。

　絶対的な力の波動も。

　目の前にいるのに、その気配すら感じない。

「あの、人は」

　なのに……

「いったい……」

　なのに！ 身体が金縛りにあったように、まったく動かない！

　一歩でも動けば……４人組を嬉しそうに見てる少女の視界に一瞬でも入れば、その瞬間に待ってるのは死だけだと不思議と理解できてしまう。

「なん、で……」

「いや！」

「こ、こないで！」

「そんな……」

　あの４人の怯えよう。

　少女もあの４人に用があるみたいだし、顔見知りなのは確実だろうけど……やばい、この異様な空気に呑まれる……

「ふふっ、それで……」

「っ！」

　怖い。

　一目チラッと見られただけなのに、足が……身体が勝手に震えて……

「まぁ良いでしょう。

　私の聖域を穢し、さらにはご主人様を貶めた者共は決して赦さない」

「「「「「「「「「「ッ──！！？」」」」」」」」」」

　今駆け巡った凄まじい……常人なら向けられただけで即死してもおかしくないほどに。

　この私に絶対的な死を確信させるのに十分な、苛烈で強烈すぎるこの殺気っ！！

　まずい！ すぐにこの場を離れないと、今のは私の隔離結界を隔ててたけど……もし今の殺気に直接向けられたら、いくら高位冒険者といえども無事ではすまない！

　とりあえず転移でこの場にいる全員を、安全な場所まで避難させて……

「ふふっ、安心してください。

　貴様らはちゃんと、他のゴミ共と同じように殺してあげますから」

「「「「ッ！！」」」」

　ちょ、ちょっと待って！ 殺すって、まさかその４人を！？

　そ、それはまずい！ その４人からは今回の一件について……人為的にスタンピードを発生させる方法を聞きださないとダメなのにっ！！

「それに、お仲間の方は全員、先に逝って待っていますからね」

　くそっ！ 動け！ 動け動け動けっ！

　今動かないと……あの４人からなんとしてでも、今回の一件についての話を聞き出さないと、全世界を危機に晒すことになるっ！！

　まさか……この私が！ このソフィア・ルスキューレが！！ あの少女のことを怖がって、臆していると！？

　動け！ 動くのよっ！！ 私はソフィア・ルスキューレ！ いずれ最強に至る者なんだからっ！！

「待っ……」

「ソフィー、下がって」

「フィル！？」

「落ち着いて。

　残念だけど、今の僕達ではあの方には敵わない」

「でもっ！」

　あの４人が殺されちゃったら、スタンピードを人為的に引き起こすことができる教団に対抗するための手掛かりが！

「わかってる。

　それでも今の僕達が、あの方に戦いを挑むのは無謀だよ」

　それは……そうかもしれないけど！ じゃあどうすればっ！！

「大丈夫。

　今はダンジョンに手を出されて激怒してて、気付いてないみたいだけど……あの方の怒りを鎮められたらどうにかなる」

　どうにかなるって……そもそも！ あの少女の怒りをどうやって鎮めるの！？

「まぁ、安心して。

　僕達には……心強い味方がいるんだから」

　味方って……

「あっ！」

　こ、この魔力の感じは！！

　ドゴォォォオッ──！！！

　大地が揺れて、大気が、大都市そのものが揺れ動き……

　────ッ！！

　耳をつんざく……生きとし生けるもの全てに畏怖の念を抱かせるような。

　誇り高き竜種（ドラゴン）の、ダンジョンから姿を現した美しき白竜の咆哮によって生じた凄まじい衝撃波が……青い髪の少女を遥か上空まで吹き飛ばした。