第197話 見〜つけた

 冒険者ギルド本部の中心に位置する広場にて、歴史上初めて発生した七大迷宮でのスタンピードを華麗に食い止め!

 誰一人の人的被害も、この広場以外の街への被害も出さずに、スタンピードを収束させた!! のに……


「やっぱり、貴方達が……」


 何故かダンジョンの中から、氷を砕いて派手に飛び出して来たかと思ったら、次は今回のスタンピードを人為的に引き起こしたっ!?

 むぅ〜! せっかくの私の活躍に泥を塗りやがってっ!!


 というか! 人為的にスタンピードを引き起こす、なんてことが本当に可能なの?

 もしそうなら……教団はいつでも好きなときに、好きな場所のダンジョンでスタンピードを発生させられるってこと。


「フィル、何があっても彼らを逃したり、殺しちゃったりしたらダメだよ」


「うん、わかってるよ」


 ここ冒険者ギルド本部と同じく、七大迷宮はもちろん、ダンジョンの周りには街ができて栄えてることが多い。

 もし仮に、仮に教団がスタンピードを人為的に引き起こす方法を確立してるのなら……教団は今まで以上に、計り知れないほどの脅威になる!!


 けど……今は目の前に今回のスタンピードを引き起こしたっていう、張本人達がいるっ!

 これは不幸中の幸いだわ!

 この人達を捕まえて、なんとしてでも詳細を聞き出さないと!!


「貴方達の身柄は、この場で拘束させてもらいます!」


「キミ達には、色々と聞かせてもらうよ?」


 相手は4人。

 対してこっちは、フィルに加えて数百人の高位冒険者による包囲網。

 隔離結界も展開してるし、万が一にも逃げられることはない……と思うけど。


 あの4人は魔王ナルダバートやピアと同じく教団……光の使徒の一員。

 私が最高幹部の1人だったナルダバートに勝ったことは当然知ってるはずなのに、4人とも何故か自信満々って感じだし……油断はできない。


「クックック、それはこっちのセリフだ!

 言っただろ? 俺達にはもう後がねぇ、俺達のためにもお前には一緒に来てもらうぞっ!!」


 瞬間──地面が爆ぜる。


「オラッ!!」


 一足で私の懐まで踏み込んで、迫り来るボディーブロー。

 確かに速い、並の者なら反応すらできないスピード! だけど……私を誰だと思っている!!


 私は魔王の一角にも名前を連ねたナルダバートやピア、教団の最高幹部である十使徒と渡り合ってきたのだ!

 この程度の速度で私を捉えられると思ったら大間違いよ!!


「遅い!」


「ガッ!?」


 放たれた拳を軽やかにかわして、私の愛刀・白で首筋に一太刀!

 まぁ、峰打ちだけど……とりあえず! これで1人は片付い……


「ラァッ!!」


「っ──!!」


 うそっ! あの一撃で気絶しないの!?

 しかも首筋を峰打ちされて体勢を崩した状態から、無理やり蹴りを放ってくるなんて…… まっ、それでも苦し紛れに放った蹴りなんて、私には当たらないんだけど。


「はっ!」


 蹴りを掻い潜って懐に潜り込み……ガラ空きの腹部に一閃!

 巨体の男を弾き飛ばす!!


「むっ」


 石畳に足が沈み込んで……


「ふふっ、相手は彼1人じゃないわよ?」


 あの女の人の魔法か。

 まぁ、そりゃあ連携くらい取って攻めてくるよね。

 最初の巨漢の男の人が私の気を惹きつけて、女の人が魔法で私の動きを封じて、残りの2人が左右から私を叩く。

 なかなかの連携だけど……


「ぐっ!?」


「うっ……!」


 左右から迫っていた敵2人が唐突に吹き飛ばされる。


「なっ!?」

 

「私も1人じゃない」


 驚愕に目を見開く女の人の懐に踏み込んで……


「ッ──!!」


 お腹に回し蹴りを叩き込んで蹴り飛ばす!!

 ふっふっふ〜ん! 私にかかれば、あの程度の足止めなんて一瞬で突破できちゃうのだよ!!


「まったく、この場所には僕もいる事を忘れないで欲しいな」


「フィル! ナイスタイミング!!」


 そう! 私を挟撃した敵2人を吹き飛ばしたのは何を隠そう、このフィルなのだ!!


「むふふ! 確かに良い連携だったけど……私達には敵わない!!」


 なにせ! 私とフィルはお友達だもんっ!!


「こほん、これでわかったでしょう。

 私とフィルに加えて、この場所は数百人もの高位冒険者によって包囲されています。

 貴方達に勝機はありません、大人しく降伏……っ!?」


 うそ、まさか……


「ソフィー? どうかし……っ!!」


 フィルも気づいたみたいだけど……


「これは……ヤバイ」


 今まで感じたことのない感覚。

 ナルダバートやピアとも全く違う……この全身を押し潰されそうな感覚。


 この4人を相手にしてる場合じゃないっ!

 悔しいけど、認めたくないけど……あれは格が違いすぎる。

 この場に、この街に残ってる人全員が確実に殺される!!


「ふふっ」


「「「「ッ──!!!」」」」


 唐突に響き渡った鈴を転がしたような綺麗な笑い声に、広場全体が静まり返る。

 4人組が一斉に振り返り、この場にいる全員がその声の持ち主を……


「見〜つけた」


 まったく気配を発することなく。

 いきなり私の隔離結界内部に転移して現れた少女を……楽しそうに、嬉しそうに笑みを浮かべる青い髪の少女を目にして息を呑んだ。

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