第181話 もう1人

 窓から差し込む光を背に、黒い革張りの椅子に腰掛け。

 広々とした机に肘をついて、顔の前で両手を組合む。

 まさに威風堂々! 一国の国王にも劣らない空気を身に纏う人物……


「この人が……」


 最古の現役Sランク冒険者にして、約400年前の聖魔大戦において活躍した英雄。

 冒険王と称されるガルスさんとも張り合う、ガッチリとしたこの体格! この重圧プレッシャー!!


統括グランドマスター


 全ての冒険者達の頂点に位置する人。

 各国の各街に存在する、全ての冒険者ギルドを束ねる人物っ!

 冒険者ギルドという、強大な武略を保有する超多国籍機関を統べる男っ!!


「おぉ〜!」


 さすがは冒険者ギルドの頂点に立つ人物! めちゃくちゃカッコいいっ!!

 あっ、でも副統括のクリスティアさんとは違ってエルフじゃないんだ。


「……統括」


「何かね?」


 っ〜! 冒険者ギルドの頂点に君臨する2人の会話っ!!

 い、いったいどんな会話を──


「なにを格好をつけているのですか?」


「へ?」


 んん〜? ク、クリスティアさん……??


「そうよ、気持ち悪いからやめてくれるかしら?」


「ルミエの言う通りです。

 似合わない事はしない方でください、ちょっと鳥肌が立ちました」


 し、辛辣っ!!

 ルミエ様もクリスティアさんも辛辣っ!!

 しかも……2人ともまるでゴミでも見るかのような、すさまじく冷たい目をしてるし……


「ちょっ、お前らなぁ……」


 あ、あれ? 怒って、ない?


「ったく、最初の印象が大事だって言い出したのはクリスティア、お前だろ?」


「だからといって、何故そうなるのですか?

 こうも言ったはずですよね? 貴方はただでさえ見た目に威圧感があるのですから、可能な限り紳士的に出迎えてくださいと」


「いや、だからこうしてだな……」


「ですから、私のアドバイスを受けて何故こうなるのですか?」


「それは、その……」


 これは……いったいどういうことなの?

 というか、私達は……私は今! なにを見せられてるのっ!?


「ふふっ、実はあの2人は夫婦なのよ」


「へぇ〜」


 冒険者ギルド頂点に立つ統括グランドマスターであるガルドさんと、副統括サブマスターのクリスティアさんってご夫婦なんだ……


「へっ? ふ、夫婦っ!?」


「そうよ。

 まぁ見ての通り、すっかりに尻に敷かれてるんだけど……ああ見えて、ガルドは愛妻家で有名なのよ?」


「ほぇ〜」


 まさか冒険者ギルドの頂点に立つお2人が、ご夫婦だったとは……知らなかったわ。


「ちょ、ちょっと待ってください!

 ルミエ様っ! それって本当なんですかっ!?」


「統括と副統括のお2人がっ!?」


「あら、知らなかったの?」


「そういえば……お前達に言った事はなかったか?」


「言われてみれば、伝えていなかったかもしれませんね」


「で、では……」


「あぁ、クリスティアは俺の妻だ」


 お、俺の妻宣言っ!!


「まぁこっちではあまり知られてないようだし、無理もないわね。

 あの2人が夫婦なのは、紛れもない事実よ」


 ま、まさかこの目で、生で俺の妻宣言を見ることになろうとは!!

 な、なんか見てはいけないモノを、見ちゃってるような気がしてきた……


 あ、あれだ! お兄様達のお部屋に忍び込ん……こほん、お邪魔して読んだ小説によると。

 ここからクリスティアさんと、ガルドさんが見つめ合って!

 お、おおお大人な! だ、男女の一時がっ!!


「とまぁ、無駄話はこのくらいにしてだ。

 本題に入ろう……と、言いたいところだが、実はまだ1人来てなくてな」


「皆様こちらへ。

 もうすぐ到着するはずですが、もう1人が到着されるまでお茶にしましょう。

 さぁ、ソフィーさんも」


「ひゃ、ひゃい! 私はなにも見てませんからね!!」


「「「「……」」」」


 あ、あれ? なにこの変な空気は……


「ふふっ、可愛いから黙ってたけど、それはソフィーの勘違い」


「へ?」


「流石に人前でソフィーが想像してるような事はしないわ」


「っ〜!!」


「どんな想像をしてたのかは知らないが……まっ、そういうわけだ」


「ふふっ、さぁソフィーさんもこちらへどうぞ」


「は、はい……」


 ま、まさかただの勘違いだったとは!

 は、恥ずかしい!!


「酷いですね。

 僕を待ってくれても良かったのに……」


「っ!?」


 な、なんで! この声は……!!


「たく、やっと来たか。

 遅刻だぞ」


「あはは、申し訳ありません。

 ちょっと下で絡まれまして……やぁ、ソフィー、2日ぶりだね」


「フィルっ!!」

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