第176話 ギルマスの提案

「グレンさん、お久しぶりです。

 けど……」


 なんでグレンさんが私を待ってたのか、私にどんな用があるのかはさておき。


「ふふっ」


 グレンさんがちょっと丁寧な言葉遣いで取り繕ってる!!

 ぱっと見は親戚の優しいお兄さんって感じだけど……普段のグレンさんを知ってる私としては違和感がすごい。


「ソフィーちゃん……」


 あっ、わ、私としたことが! 取り繕ってるグレンさんが面白くて、ついつい笑っちゃった!!


「す、すみません。

 ただ……違和感が……」


「だから言っただろ? グレン、お前その喋り方、気持ち悪いぞ」


「いつも通りで構わないと言っているのに、変に意地を張るから……」


「……」


 グレンさんが恥ずかしそうに、ちょっとだけ顔を赤くして俯いてしまった。

 グレンさんは私のお客様なわけだし……ここはお客様をもてなすホストとして、私がなんとかしなければっ!!


「エレンお兄様! アルトお兄様!

 そんなことをいったらグレンさんが可哀想ですっ!!」


 そもそも! グレンさんは冒険者ギルド、イストワール王国王都支部のギルドマスターって立場で、確かにイストワール王国の重鎮の1人ではある。


 とはいえ、いくらグレンさんが重鎮の1人でも貴族ってわけじゃないし、ルスキューレ家は公爵家なのだ!

 しかも……Sランク冒険者であるエレンお兄様と、賢者の1人にしてAランク冒険者でもあるアルトお兄様の実家!!


 ギルドマスターという立場にいるグレンさんにとって、ルスキューレ公爵家は粗相を働くわけにはいかない相手!

 そんなルスキューレ公爵家に出向いたグレンさんが、取り繕って猫をかぶるのは当然のことといえる!!


「ソ、ソフィーちゃん……」


 ご安心をっ! 私はちゃんと、グレンさんの事情をわかってますからね!!


「グレンさんにも立場というものがあるのです。

 確かに違和感がすごくて、ちょっと面白いですけど……頑張ってるグレンさんをからかって、イジメたらダメです!!」


「「っ〜!!」」


 お兄様達とグレンさんが仲良しの、お友達だってことは知ってるけど……親しき仲にも礼儀あり!

 グレンさんが個人的にプライベートお兄様達を訪ねて来たのならともかく、ギルドマスターとして私を訪ねて来たグレンさんの事情も考えてあげないと!!


「ディア、見ましたか?」


「えぇ、もちろん」


「ふふっ、後でミネルバちゃんにも教えてあげないとね」


「そうですね……ルミエ様にもご協力をお願いしましょうか」


 フィアナお姉様とディアお姉様はいったいなんの話を……っと、今はそれよりもグレンさんだ!


「グレンさん、お兄様達が申し訳ありません……」


「いや……うん、気にしないで」


 若干引きつった苦笑いを浮かべるけど……さすがはグレンさん。

 結構恥ずかしかったと思うのに、笑って流して見せるとは!

 冒険者ギルドのギルドマスターは伊達じゃないっ!!


 それに比べて、お兄様達は……私が軽くお説教したのに、なにやらニヤニヤしてるし。

 むぅ〜、こうなったらお兄様達にはあとで、しっかりとお説教をして反省してもらわないと!


「こほん、それで俺……私がソフィーちゃんを訪ねて来た理由なんだが……」


 そういえば、まだグレンさんがなんで私を待ってたのか聞いてなかった。

 はっ! もしや、またなにか緊急事態がっ!?


「ソフィーちゃんに1つ提案があるんだ」


「提案、ですか?」


 緊急事態じゃないの??


「そう、ソフィーちゃんが冒険者になって約3ヶ月。

 当初の話では特別推薦試験でAランクに上り詰めた事もあって、周囲の反応が落ち着くまではAランク冒険者として活動するって方針だったが……」


 確かに、冒険者登録をした次の日にグレンさん達とそんな話をした。

 下手に目立ちすぎて国の介入とか、面倒ごとに巻き込まれないようにするための作戦だけど……それがどうかしたのかな?


「魔王ナルダバートの撃破に、オルガマギア魔法学園の新人戦。

 はっきり言って、既に世界中で話題になる程に目立ちまくっている」


「……確かに」


 そんなことはない! っていいたいけど……その通り過ぎて否定できない!!


「と、いうわけでだ! 既に当初の方針は瓦解している事は明白だし、ここまで目立っているのならAランクに留まっているよりも上を目指した方がいい。

 ソフィーちゃん、そろそろSランク冒険者になる気はないかな?」

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