第160話 ギリギリセーフ!

「はぁ……」


「ため息なんて吐いて、どうしましたか? お嬢様」


「……」


 どうしましたか? じゃない! 貴方のせいでしょうがっ!!

 王位継承権を放棄したとはいえ、一国の王子がなんで公爵令嬢である私の従者になってるわけっ!?

 どうしてウェルバーが普通の執事みたいに、ファナやミネルバと一緒になって私のお世話をしてるわけっ!?


「あの、ウェルバー殿下」


「殿下などと、私はただの執事ですよ」


「……ウェルバーは、なんで私のお世話をしてるんですか?」


「今更ですか?」


 いやまぁ、確かにそうだけども。

 ウェルバーがなぜか私の執事を始めてから、もう1ヶ月が経ったわけだけども……


「あと執事に敬語は不要ですよ、お嬢様」


 私はいったいどうすればいいのよっ!!


「そ、そう? わかり……わかったわ」


「それで、私がお嬢様の執事をやっている理由でしたね。

 理由は色々とありますが……王位継承権を放棄したとはいえ、私を利用しようと試みる者はいるでしょうし。

 なにより、ここならミネルバと一緒にいられるからですね」


「もう! ウェルバー様……」


「……」


 なにこれ? 優しく微笑むウェルバーに、恥ずかしそうに頬を染めながらも素直になれずにプイっと顔を逸らすミネルバ。

 私はいったいなにを見せられてるんだろ?


 気まずい、非常に気まずいっ! どんな顔をしていればいいわけっ!?

 このおマセさん達めっ! おかしい……2人ともまだ8歳、私よりも年下のはずなのに……


「こほん、お嬢様そろそろ時間ですよ」


「へ?」


「もう集合時間なのでは?」


「……あっ!」


 や、やばいっ! 私としたことが、ついついゆっくりしすぎちゃったっ!!

 集合時間まであと数分しかないじゃんっ!


「もうっ! なんでもっと早くいってくれないのっ!?」


「ふふっ、申し訳ございません。

 まだ執事歴が浅いもので」


「むぅ〜!」


 ウェルバーめ! 絶対にわざと黙ってやがったなぁ〜!!

 もうウェルバーが王子だろうと関係ない! ウェルバーにはお仕置きをしてやるわっ!!

 悪役令嬢たる私を怒らせた罪は重いっ!


「ウェルバーは今日のおやつ抜き!!」


 それどころか、ウェルバーの分のおやつをウェルバーの目の前でみんなで分けて食べてやるっ!!

 ふふん! 私の怒りを思い知るがいいっ!!


「じゃあ、行ってきます!

 またあとで!!」


 普通なら遅刻確定だけど……私には伝家の宝刀! 転移魔法があるっ!!


「ふふっ」


『ソフィー、いくら転移魔法があったとしても急がないと、本当に遅刻しちゃうわよ?』


「っと、そうだった!」


 悦に浸ってる場合じゃない!

 今日は大事な行事が控えてるから絶対に遅刻できないのだ! 本当に時間ギリギリだから早く教室に向かわないと!!



 パチン!



「っと」


 指を打ち鳴らすと同時に一瞬で……


「到着〜!」


 教室の扉を開けて、ギリギリセーフっ!!


「あっ、やっと来たね」


「フィル、おはよう!」


「おはよう、ソフィー。

 間に合ってよかったよ、ギリギリだったけどね」


「ソフィーちゃん! やっと来たわね!!」


「ミラさん! おはようございます」


「まったく……」


「ふぁっ!?」


 な、なんでいきなりほっぺを引っ張るの!?


「今日は大事な日なのに、遅刻するんじゃないかと思ったじゃない!」


「あ、あはは……」


 事実だけになにも言い返せない。

 ミネルバ達もいっていたように、今日は大事な日! オルガマギア魔法学園と同じく、世界三大学園に数えられる学園。


 四大国が一角、帝国と並んで超大国と称されるレフィア神聖王国にある王立神聖レフィア学院で行われる交流会に参加するために、レフィア神聖王国に向かう日なのだから!!

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