第152話 使徒の祝福

 私じゃあ、ピアには勝てない……?


「なめ、るなっ!!」



 バチィィィ──ッ!!!



 どうして雷そのものと化した私の腕を、掴むことができるのかはわからないけど……不用意に私に近づいたのは間違いだ!

 この至近距離で最大出力での雷の放出、絶対不可避の雷にその身を焼かれ……


「あ〜! 良い事、思いついちゃいました!!」


「ぇ……」


 私の雷をまともに受けて、無傷で平然と……


「うふっ!」


「っ〜!!」


 この全身の毛が粟立つような感覚、これは……殺気? いや、これは純粋な殺気なんかじゃない。

 ミネルバが向けてきた、憎悪に満ちた殺気とも違う。

 もっとなにか……楽しんでるような、嗜虐的な悦楽を含んだ殺意。


 ピアに視線を……この殺気を向けられただけなのに、一瞬全身が硬直して身がすくむ。

 まさか、この私が敵に……ミネルバを洗脳していいように利用した下種に臆してるっていうの?


「これから〜」


「なっ!!」


 私の右腕を掴んでた片手だけで。

 それも、まったく予備動作のない、完全なノーモーションで投げ飛ばされたっ!?


 けど……この程度で取り乱す私ではない!!

 ピアから警戒は怠らずに、とりあえず空中で体勢を整えて……


「ソフィーちゃんの事を、徹底的に甚振りたいと思います!!」


「っ!?」


 いつのまに目の前まで肉迫してっ……まずい! よけれっ──


「かはっ!!」


 いったい、なにが?

 気が付いたら、吹き飛ばされて……


「ぅ、ぐっ……」


「あはっ! 流石ですね!!

 咄嗟に魔力で防御して、致命傷は避けたようですね!」


「げほっ、げほっ、ぅぁ……」


 まさか、この私が受け身も取れずに無様にうめきながら、地面を転がることになるなんて!


「いま、なにを、したの……?」


 ピアに投げ飛ばされてから、一瞬たりともピアから警戒は逸らさなかった。

 全神経を、全身の感覚を研ぎ澄まして、叡智の権能で思考速度を加速させながらピアの一挙一動から一瞬たりとも目を離さなかったのに……いつのまにか目の前にいて、気が付いたら吹き飛ばされていた。


「うふふ! 気になりますか〜?

 そ〜れ〜は〜……普通にソフィーちゃんのお腹を蹴り飛ばしただけ!!」


 蹴り飛ばした?

 雷と化して雷速で動ける上に、叡智の権能で加速した世界を見ていた私に一切気づかれることもなく。

 ましてや、認知すらさせずに……?


「さて! お喋りはこのくらいにして……続けるとしましょう!!

 うふふ! 約束通り、ちゃ〜んと甚振ってあげますからね!」


「っ! いって、くれますね……」


 けど……さっきピアがいってた通り、悔しいけど今の私じゃあピアには勝てない。

 でも! 時間を稼ぐことはできるっ!!


 ルーを通して既に報告はした。

 もう少しで王都に待機してた、お兄様達やルミエ様、マリア先生達が応援に駆けつけてくれるはず。


「あっ、ちなみに時間をいくら稼いでも無駄ですよ?」


「ぇ……?」


「今王都は私が用意したステキなプレゼントのおかげで、大騒ぎになっているでょうし。

 いくら待っても、ここに応援なんて来ませんからね!」


「っ!!」


 まさか、本当に王都で待機してたお兄様達の出番がやってきていたとは……ここに私とウェルバーだけできたのは、どちらかというとミネルバとその背後にいるであろう人物。

 ピアを油断させるためだったのに!


 まぁ、王都でなんらかの異変が起きてるってことは、念のために備えておいて正解だったってことだけど。

 これは……今までにないほどの大ピンチなんですけど!!

 ま、まずい! これは非常にまずいっ!!


 お、落ち着け私!!

 1番年上である私がウェルバーとミネルバに動揺を悟られるわけにはいかない!

 いかないけど……はっきりいって、ピアがどうやって私に認知すらさせずに攻撃してるのかを見破らないと勝ち目がない!!


「あぁ、それから」


 こんどはなにっ!!


「ソフィーちゃんのその右腕、もう必要ないよね?」


「へ?」


 いきなりなにを……


「ぅっ……なに、これ?」


 いきなり右腕に激痛が……って! なんか赤黒くなってるっ!?


「ルスキューレ嬢!」


「っ! あれは……」


「もう! 外野は黙っててください。

 敬愛する愛しき光の神様のモノであるピアちゃんの身体にキズをつけて、さらには! 一度ならず二度までも私の身体にキズをつけようとしたんですよ?

 そんな腕なんて必要ないに決まってるじゃないですか!!」


 右腕の感覚が……それに力も一切入らない。

 これは……


「だ、か、ら! ピアちゃんが特別に、愚かな右腕に祝福を授けてあげちゃいました!!」

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