第92話 決着

「ソフィーちゃんっ!!」


「ソフィーっ!」


「今助けにっ!」


「くそっ……こんな結界!!」


「っ……」


 ふふっ、お母様もルミエ様もアルトお兄様、エレンお兄様もガルスさんも。

 みんな、そんな泣きそうな悲痛な顔をしなくてもいいのに……


「クックック、私の分体の胸部に風穴を空けてくれたように貴女の胸部も貫いてあげようとしたのですが……素晴らしい反応です。

 まさか完全に気配を消した私に気付いただけではなく、咄嗟に反撃まで仕掛けてくるとは」


「ひゅ……ひゅ……」


「お陰で狙いが逸れて腹部を貫いてしまいましたよ。

 ですがご安心を、特異点たる愛子である貴女は我々の計画にとっても無くてはならない大切な存在」


 そういえば、さっきも計画がどうのって……


「なにを、かふっ!」


「今のように血液が逆流するので無理に喋らない方がいいですよ?

 とにかく貴女を殺しはしませんが……また暴れられても厄介なので、貴女には少々眠っていてもらいます」


「こ、のっ……」


 たかだか私の不意をついての抜手で、振り向きざまにお腹を貫いた程度で調子に乗りやがってぇ〜!!

 確かにさっき私の愛刀は半ばから折れちゃったけど……私には神炎の太刀があることを忘れるなよ!

 この距離なら外さな……


「っ……!」


「クックック、腹部を貫かれてまだそんな元気があるとは」


 さっきまではナルダバートの黒い剣と打ち合えていたのに、たった一振りで神炎の太刀が両断され……


「ぅ……」


 ま、ずい……視界が、かすれて……


「惜しかったですね。

 貴女がもし万全の状態なら今ので私を本当に殺せていたかもしれませんよ?」


 意識が……


「しかし、維持するのがやっとだったとはいえ……腹部を貫かれ、大量の血を流した状態でなお神炎の剣で攻撃を仕掛けてくるとは流石は特異点たる愛子!

 ですが……流石にもう限界のようですね」


「ひゅ……ひゅ……」


 こんな、ところで?

 こんな、ところで……相手が魔王とはいえ、この私が負ける……?

 そんなことは許されない!!


「ん? クックック、今更そんな刃折れの剣でなにを?」


 私はソフィア・ルスキューレ!

 ルスキューレ公爵家の娘にして悪役令嬢……そして、いずれ世界最強に至る存在っ!!

 相手が誰だろうと関係ない……私はこんなところで、負けるわけにはいかないんだ!!


「良いですね、その目!

 しかし、最後まで闘志を失わない姿勢は称賛しますが……残念ながらその刃折れの剣では私には届きませんよ」


 そんなことは百も承知。

 お腹をナルダバートの腕で貫かれて宙ぶらりん状態の私じゃあ、半ばでへし折られちゃった刀をナルダバートに届かせるにはリーチが足りない……けど……


「ほら腕が震えて剣先がブレていますよ。

 無駄な足掻きはやめて、もう諦めてください」


「……た……ず」


「?」


「いった、はず」


 油断し、慢心したことがお前の敗因だと!

 いま、私たちの周囲には私の魔力が……さっき、ナルダバートに両断されて空気中に霧散した神炎の太刀を構成してた私の魔力が充満してる!!

 そして、ナルダバートは呼吸によってそれを体内に取り込んだ。


「体内、から……燃やされろ」


「は?」


「蘇れ……」


 私たちの周囲に満ちる神炎の太刀を構成していた魔力を。

 ナルダバートが体内に取り込んだ魔力をもう一度圧縮して、折れた刀の刀身に!!


「がぁっ!?」


「不滅、炎刀っ!!」


「なん、だと……」


 心臓を、ナルダバートの核を破壊した。

 そして、この刃は神聖属性の炎が圧縮された神炎の太刀!


「ふふっ、燃え尽きろ」


「そんな、バカ……な!」


 愕然と目を見開くナルダバートを白き炎が包み込む!!


「まさか、この私が。

 人間、風情に……負けるとは……」


 笑みを浮かべたナルダバートが完全に塵となって消滅し……


「ぅっ……」


 まさか、自分の血溜まりに倒れ伏す日がくるとは……


「ソフィーちゃん!!」


「「「ソフィーっ!!」」」


「おい! 嬢ちゃん!!」


 お母様、お兄様、ルミエ様にガルスさん……


「こふっ……!」


 ナルダバートの腕が、無くなったせいで一気に血が……


「ぅ、ぁ……」


 なんとか、勝てたのに……もう、意識が……

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