第89話 王都防衛戦 決着
「さぁ! 我が王の軍勢よ……蹂躙を開始しろ!!」
〝五死〟暴殺のドレイクが号令を下した瞬間……綺麗に整列し、微動だにしなかった約2万5千にも及ぶ
「クックック! 見たところ数名突出した者はいるようだが、お前らの実力を平均すればBランク冒険者相当ってところか?
確かに単騎ならば俺が指揮するコイツらなんて歯牙にも掛けないないだろうが……」
言葉を切ったドレイクが身構える騎士達を見渡し、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
「だが! お前達1000人足らずに対してこっちは2万5千の大軍勢!!
そんな少数で我らに歯向かう無謀な勇気は認めてやるが、圧倒的な数の力を思い知れ!!」
「チッ! 見た目通り単純な脳筋タイプで、自身が真っ先に突っ込んでくるかと思ったが……厄介だな。
単体では有象無象の雑魚とはいえ、あの数はバカにならない! 総員、直ちに迎撃体制を整えろ!!」
「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」
「バルト、リーメル」
「ここに」
「何なりと」
「好きに暴れろ」
「畏まりました」
「了解しました」
ヴェルトの指示を受けた騎士達が隊列を組み、執事長バルトと騎士団長リーメルの両名が各々笑みを浮かべて頭を下げる。
「さぁ、せいぜい足掻いて見せろ!」
1000対2万5000。
圧倒的な数の差を前にして怯む事なく闘志に満ちた人間の姿に、この場における絶対強者たるドレイクは楽しげに嗤い……
「お嬢様がこの場にいらっしゃらなくて良かった……貴方の下品な笑い声なんて、とてもお嬢様には聞かせられません」
「あ? お前は……さっきのメイドか、なんの真似だ?」
騎士達の前に……迫り来る不死者の軍勢の前に、戦場には場違いなメイド服に身を包んだ1人の少女が立ち塞がる。
「ファナ! 早く後方にっ!!」
「ご安心を、ここは私にお任せください」
「はっ! ただのメイド風情に何ができる?」
「言ったはずですよ、暴殺のドレイク。
私は守りと回復に特化した後衛。
元々お嬢様のお側付きに選ばれたのも私がお嬢様をお守りするのに適した力を持っていたからですが……最強を目指されるお嬢様をお守りする私がこの5年間、なんの努力もしていないとでも?」
「5年間? 何の話を……っ!?」
突如として戦場を覆った神聖な気配に。
地面から放たれる白い光にドレイクが驚愕に息を呑み……
「神聖魔法……浄魔の光!!」
白き浄化の光が戦場を、不死者達を包み込んで世界を白く染め上げる!
「ファナ……」
「これは……」
「凄まじいですね……」
唖然と言葉を漏らすヴェルト達の視線の先。
視界を黒く埋め尽くすほどの大軍勢を綺麗に消し去り、ゆっくりと輝きを緩める白き光の中に佇む1人の少女。
2万5000もの
「伝説に語られる聖女様みたいね」
「っ! マリア様!」
「あはは、あれで特異点じゃないって凄いですよね」
「皇帝陛下も……お2人がここにいらっしゃるという事は、そちらは既に方が着いたというわけですか」
「えぇ」
「まぁね。
しかし驚いたよ、まさかあんな子がいたなんて」
「ふふふ、私が手解きをしたのだから当然よ」
「マリア様が……なるほど」
「でも、まだ終わってないわよ」
大賢者マリアの視線の先。
「クックック、やってくれたな。
まさか、大賢者と現人神以外にこんな規格外がいたとは……!」
白い光が完全に収まった草原にて、たった1人……ドレイクが全身から煙を上げながらも五体満足でファナと対峙する。
「ふふふ、最強を目指されるお嬢様がこの先どのようなお怪我をなされても……たとえ手足が欠損されるような大怪我を負われたとしても、元の状態まで回復させる事ができる今の私にはこの程度は当然です」
魔王ナルダバート配下の最高幹部〝五死〟が一角である暴殺のドレイクを前にして堂々と言い放つ1人のメイド。
「……あの、マリア様」
「何かしら?」
「マリア様にソフィーが師事している事は知っていましたが……いつの間にか娘の専属侍女が5年で英雄級の実力者になっているのですが……」
「あら、言ってなかったかしら?」
「初耳ですね」
「ふふふ、まぁそんな事よりも……ソフィーちゃんに王都はお父様に任せなさいなんて啖呵を切ったくせに、これじゃあ良いところなしね」
「っ!! そ、それはまずいっ!!
確かにファナの実力は予想外だったとはいえ……少々お待ちを、すぐに終わらせますので」
ルスキューレ公爵家が現当主、ヴェルト・ルスキューレが内心を焦燥感で染め上げながらも悠然と戦場を歩く。
「ファナ、ご苦労だったね。
ここから先は接近戦になる、ここは私に任せてキミは後方に下がりなさい」
「えっ、しかし旦那様は……っ!?」
突然視界が切り替わった事実に。
気がついたら大賢者マリア達の側にいたという事にファナが息を呑んで驚愕に目を見開く。
「暴殺のドレイク。
悪いがすぐに終わらせてもらうぞ」
「クックック、想定外のあの小娘のせいで確かに軍勢は失ったが……雑魚共を片付けた程度で、この俺に勝てるとでも?」
「ここまではファナに良いところを全部持って行かれてしまったからな……このままではソフィーに失望されてしまうっ!!」
「は?」
「手負いのお前と戦うのは気が引けるが……私にはカッコよくて尊敬できる父の威厳がかかっている。
お前には悪いが容赦はしない」
「クックック……人間風情が、面白いっ! 死ねっ!!」
瞬間、地面が爆ぜる。
一瞬でヴェルトへと肉迫したドレイクが振り上げた腕を振り下ろし……
ドゴォォォオッ!!
その圧倒的な力によって地面が割れる。
大地が陥没して、巨大なクレーターを作り出す。
「っ! 旦那様っ!!」
あまりに一瞬の出来事に、唖然と目を見開いていたファナが悲痛な悲鳴をあげ……
「っ!?」
舞い上がった砂埃が晴れてドレイクが、ファナが、この場にいる数名を除いた全員が……白い衣に身を包み、振り下ろされたドレイクの拳を錫杖によって受け止めたヴェルトの姿に息を呑んで驚愕に目を見開く。
「ふふふ、心配しなくても大丈夫よ」
「マリア様……」
「確かに日頃の彼からは想像できないでしょうけど、ああ見えてルスキューレ公は元Aランク冒険者。
公爵家の嫡男という事もあってSランクにこそ昇格しなかったけれど、その実力はSランク相当。
かつてはユリアナや身分を隠したそこの皇帝と一緒に冒険者として名を馳せた強者なのよ」
「旦那、様が……?」
「マリア様の仰る通りです。
まぁ、奥様の尻に敷かれているいつもの姿を見ていれば想像できないかも知れませんが、ああ見えて旦那様は凄いお方なんですよ」
「執事長、そう言う貴方だって昔は幻霊と恐れられた伝説の殺し屋でしょう?」
「いえいえ、私などまだまだの若輩者でしたよ」
「……」
「まぁ、確かにヴェルトからしてもドレイクは強敵である事には違いないけど……キミの神聖魔法であそこまで弱体化したドレイクならヴェルトの敵じゃないよ」
「こ、皇帝陛下!」
「ほら、見てごらん」
執事長バルトと騎士団長リーメルのやり取りを唖然と見ていたファナが促されて前を見ると……
「叶う事なら、万全のキミと戦いたかった」
「クックック、本当にテメェら…言ってくれる、じゃねぇか……」
身体の端が炭化し始めたドレイクが胸に大穴を空けながらも獰猛な笑みを浮かべて……地面に倒れ伏した。
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