第52話 乱入者の正体はっ……!

「久しぶりね」


『お待ちしておりました。

 ようこそ、ご主人様が新たな迷宮ダンジョン、魔法神の休息所へ』


「へっ?」


 な、なに? どういうこと?

 ルミエ様とアクアさんはこの人と知り合いなの?


「おう、ルミエ、アクアも久しぶりだな」


「っ!!」


 ルミエにアクアっ!?

 あ、あの男! ルミエ様と大精霊たる精霊公であるアクアさんのことを呼び捨てにするなんて!!


「それで、仮にもダンジョンの中で何やってるんだよお前らは……」


「何って、見たらわかるじゃない。

 ダンジョン攻略で疲労したから、ちょっとした休憩をしていただけよ」


「休憩って……水で作られたビーチチェアに、パラソル、グラスに入った飲み物、明らかにバーベキューでもした跡。

 そんでもって水着に着替えて完全に楽しんでるじゃねぇか!」


「まったく、細かい事を一々言ってたらモテないわよ。

 だから未だに結婚もできないのよ」


「大きなお世話だ!

 ったく、昔はあんなに可愛らしかったのに、すっかりと生意気になりやがって」


「っ! 黙りなさい!!」


「あ〜あ、小さい頃のお前は会う度におじ様、おじ様って俺の足元をくっついて来てたのにな〜」


「いいでしょう、今すぐその口を開けなくしてあげるわっ!」


 ル、ルミエ様がこんなにも取り乱すなんて!

 いや! それよりもっ!! ルミエ様の小さい頃っ!?

 めっちゃ気になるんですけど! あの人、誰かは知らないけど教えてくれないかな?


「ちょっ! 危ねぇだろ!!」


 おぉ〜! すごいっ!!

 一歩で肉迫したルミエ様の回し蹴りを避けた!!

 って! 呑気に観戦してる場合じゃないっ!!


『はぁ、始まってしまいましたか。

 ソフィアさん、結界を展開しましたのでこちらに……』


「よしっ!」


 あの男の人の実力は知らないけど、ビシビシ感じる圧倒的な気配からするとルミエ様と同等。

 今はまだ私でも視認できる程度の攻防……っていうよりもルミエ様が一方的に攻撃を仕掛けてるだけだけど。


 とにかく! 2人ともまだ全然本気じゃない。

 2人が本気になっちゃう前に止めないと! ルミエ様とルミエ様と同等の力を持つ2人が本気でぶつかったら周囲がどんなことになるかは想像に難くない。


 もしそうなったら……魔法神様がご自身の別荘がある場所を再現された、この素晴らしい湖が大変なことにっ!

 それに! ルミエ様の小さい頃の話を詳しく聞かないとっ!!


『ソ、ソフィアさんっ!?』


「ルミエ様! あの、その方はいったい……」


「ソフィー……はぁ、ソフィーのおかげで命拾いしたわね。

 この男はガルス・カーナル」


 ガルス・カーナル? う〜ん、どこかで聞いたことがあるような……


「よろしくな、ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢」


「っ!?」


 な、なぜそれをっ!?

 確かに今は湖で遊……げふんっ! げふんっ! 休憩してたから仮面を外してだけど、この人とは完全に初対面のはず!!

 バレるハズがないのにっ!!


「ど、どうして……」


「くっくっく、まぁ嬢ちゃんが驚くのはわかる。

 俺と嬢ちゃんは正真正銘、今が初対面だからな。

 だが、俺は以前から嬢ちゃんの事を知ってるんだよ」


 私のことを前から……


「ソフィー、近づいたらダメよ? この男は変態だから」


「へ、変っ!」


 だから私のことを前から知ってたのかっ!?


「ちょっ、違う! 断じて違う! 俺は変態なんかじゃねぇからな!?」


「ふふふ」


「お前なぁ……嬢ちゃんの事は嬢ちゃんの兄貴から聞いた、というよりも散々聞かされ続けてたから知ってたんだよ」


「お兄様から?」


 散々聞かされ続けてたって……まぁ、確かにお兄様達ならあり得る、というか嬉々として延々と私の話をしている姿が簡単に想像できる。


「アイツから話を聞いて嬢ちゃんの容姿は知っていたし。

 このダンジョンに嬢ちゃんがいるから、このダンジョンに行くなら手助けしてやってくれって頼まれたんだよ。

 だから嬢ちゃんの本名がわかったってわけだ、もう一度言うが断じて俺は変態じゃないからな?」


『ソフィアさん、ガルス殿が変態かどうか一先ず置いておいて、ガルス殿がソフィアさんの事を知っていた理由については事実だと思いますよ』


「アクア、俺が変態じゃないって言ってくれよ……」


『残念ですが、仲間だとはいえ、私はガルス殿の私生活まで存じ上げないので。

 ですが、悪い人ではありませんのでご安心を』


「むぅ、わかりました、アクアさんがそういうのなら信じます。

 えっと、私のことはお兄様から聞いて知ってるようですが……はじめまして、ソフィア・ルスキューレです。

 ガルスさん、よろしくお願いします」


「おう、よろしくな。

 それにしても……あのエレンの妹がこんなにもまともだったとはっ!」


 えっ? なんでお辞儀して挨拶しただけでちょっと感動されてるの??

 お兄様ってアルトお兄様か、エレンお兄様のどっちだろって思ってたけど……エレンお兄様、ガルスさんになにをしたのっ!?


「まぁ、何はともあれ誤解が解けたようでよかった。

 ったく! ルミエ、これでも俺は教育者の立場なんだぞ? それを変態扱いしやがって」


「教育者?」


「ん? あぁ、そう言えば嬢ちゃんは知らないんだったな。

 いかにも、俺はオルガラミナ武術学園の理事長だ。

 嬢ちゃんの兄貴のエレンは俺の弟子の一人ってことだな」


「ふん、貴方が理事長なんて世も末よ」


「まぁ、ガラじゃないってのは俺自身も理解してるが……」


 オルガラミナ武術学園の……大賢者たるマリア先生が理事長を務めるオルガマギア魔法学園の姉妹校のオルガラミナ武術学園の理事長っ!?

 じゃ、じゃあ、まさか! まさかこの人が!!


「ガルスさんが、大賢者マリア先生と一緒に伝説に語られる英雄……冒険王っ!?」


「まぁ、そう呼ばれてるな。

 一応、こう見えて最古の現役Sランク冒険者でもあるぞ」


「水着姿のソフィーをじろじろと見てるんじゃないわよ!」


「っ!?」


「ちょっ! ルミエ、お前は本当に……!!

 誤解だからな!?」


 水着……そうだった。

 普通にガルスさんと話してたけど、そういえば私達は今、湖で遊んでて水着に着替えてたんだ……


「うぅ〜……み、見ないでくださいぃ……」

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