第22話 緊急事態 その2
その日、大陸東方部の玄関口たる超大国。
帝国の帝都を守る外壁に常駐している騎士達の元に一人の冒険者からある情報がもたらされた。
その情報を騎士達に報告したのは最近Bランクに昇格したばかりのソロ冒険者。
長年、帝都を拠点に活動している事もあり、確かな信頼もある人物。
そんなBランク……一流と呼ばれるランクの高位冒険者が肩で息を切らし、その顔を焦燥感に染めて門兵をしていた騎士に告げた。
『魔の森の方向から帝都に向かって白い
「なに?」
騎士から報告を受けた外壁の最高指令官、バリオル子爵はその報告に眉をひそめる。
鋭い視線を向けられた騎士と冒険者の間に即座に緊張が走る。
世界で最強の種族と呼ばれる
それは、
しかしながら事実として建国以来400年、ドラゴンの襲来は一度もなく。
いくら信頼のおける冒険者からの情報であろうと、確証もなく信用するわけにはいかず。
むしろ荒唐無稽な嘘や、ワイバーンと見間違えたとして切って捨てられても一向におかしくは無い。
「それで、何をしている?」
「っ! 信じられないのはわかる!
現に俺だってまだ信じられねぇ……だが、アレは本当にドラゴンだったんだ!!」
信じてもらえないかもとは思っていたが、やっぱりかと内心舌打ちをしながら冒険者の男が必死に声を上げ……
「そうではない! 国家存亡の緊急事態だぞ!!」
バリオル子爵が座っていた椅子を倒しながら立ち上がる。
「何を悠長にしているっ!? 即座に斥候を出して事実確認!
ったく、緊急時における指揮系統はどうなっている……この件が片付いたら鍛え直してやらねば。
私は皇帝陛下に報告する! 貴殿は今すぐ冒険者ギルドにこの事を報告してくれ」
「「……」」
「早くっ!!」
「「は、はいっ!!」」
こうしてBランク冒険者の男はギルドへと走り、今度は溺愛する妹の危機に荒ぶるお兄様達に睨まれる不運に見舞われることになり……
バリオル子爵の指示で即座に事実確認に向かった斥候から、Bランク冒険者のもたらした情報は紛れもない事実だと判明した。
そして今、多くの騎士達が慌ただしく動き回り。
ピリピリとした緊張感が張り巡らされた外壁周囲は喧騒に包まれていた。
「アルト兄さん」
「あぁ、これは……まずいな」
そんな外壁の上。
慌ただしく動き回る騎士達を気にする事なく冒険者ギルドから転移して来たアルト・ルスキューレとエレン・ルスキューレは、その整った顔に冷や汗を浮かべる。
前方からゆっくりとしたスピードで向かってくる強大な魔力の塊。
まだ肉眼では確認できない距離があると言うのに全身からイヤな汗が噴き出るような圧倒的な力の波動。
「おい! そこで何をしているっ!?」
「そんな事よりも、ここの……」
「なんの騒ぎだ?」
「し、子爵閣下!」
アルト達に詰め寄っていた騎士が慌てて佇まいを正す。
「キミ達は……アルト・ルスキューレ殿にエレン・ルスキューレ殿っ!?」
「僕達の事をご存知なのですか?」
「当然でしょう。
なにせ貴方方は若干15歳で賢者の称号を得た天才に、剣帝と呼ばれるSランク冒険者ですからね」
「っ!!」
バリオル子爵の言葉を受けて、敬礼しながらそばで聞いていた騎士が目を見開いて息を呑む。
「私はここの指揮を皇帝陛下より任せられているエリオ・バリオル子爵です。
しかし、何故お2人がここに?」
「話せば長いのですが……今はそれよりも」
「バリオル子爵殿、俺達の見立てではアレはただの竜種じゃない。
もしかすると竜王の可能性もある」
「なっ!! それは本当ですかっ!?」
「ええ、俺はギルドの依頼で
「すぐに避難勧告を出してください。
アレは僕達でもヤバい相手です」
「ご報告、感謝します。
すぐに陛下に連絡を……」
「その必要はないよ」
「「「「っ!!」」」」
バリオル子爵の言葉を遮った声に、騎士も、バリオル子爵も……アルトもエレンも。
この場にいた全員が息を呑んで一斉に声の方に振り返り……
「へ、陛下っ!」
バリオル子爵と騎士が即座に外壁の上に立って魔の森を……こちらに向かっているであろう
「避難勧告は必要ない」
「はっ! かしこまりました」
淡々と跪くバリオル子爵に命令を下した青年の視線がアルト達に向けられ……
「「っ!!」」
一瞬、全身を駆け巡った違和感に。
その圧倒的とも言える圧に息を呑む。
「やぁ、初めまして。
アルト・ルスキューレ君に、エレン・ルスキューレ君。
キミ達の噂はかねがね聞いているよ」
「貴方様が……」
「現人神……」
「あはは、その二つ名は恥ずかしいんだけどね。
まぁ、安心すると良いよ、キミ達の妹さんは無事だから」
「っ! どうしてそれをっ!?」
「いや、それ以前に無事とはいったい……」
「詳しく説明したいのは山々だけど……そろそろ来るよ」
チラッと皇帝が魔の森へと視線を向けた瞬間……美しき白き竜の姿が。
そして……
「お兄様ぁぁぁぁっ!!!」
愛しい妹の声が鳴り響いた。
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