第18話 最終試験!
「ふん、ふん、ふ〜ん」
その昔……今から数百年前に勃発した人間と魔王との戦争にて、瞬く間に大陸の半分を支配下に置いた魔王との最後の決戦が行われた場所。
その時、魔王が放った膨大な魔力の残滓によって形成された巨大な森林。
大陸のほぼ中心に位置するこの場所は、強大な魔物達が跋扈する危険地帯。
冒険者ギルドにてS級危険領域に指定されている通称、魔の森。
アルトお兄様の授業で出てきたけど……確かにこの森の魔力濃度は他の所の比じゃない。
常人ならこの森に立っているだけで魔力酔いを起こして辛いんじゃないかな?
「ふふっ!」
尤も! 私にとっては逆に心地いいくらいだけど!!
「ふん、ふふふ〜ん!」
本当ならこんな大声で鼻歌を歌いながら歩くなんて公爵令嬢として許されないけど……ここは強大な魔物達の巣窟たる魔の森!!
この広大で鬱蒼とした森には私以外の人間は誰もいないっ!
という訳で、今の私は自由だ!
声高に鼻歌を歌いながらスキップしても、走り回っても私を咎めて叱る者は誰もいないのだ!!
というか、今日くらいこうしてないとやってられない!
「はぁ……」
セドリック殿下との顔合わせの席で前世の記憶を思い出し、最強になることを誓った日から早5年。
まぁ、正確にはまだ5年は経ってないけど……細かいことは気にしない!!
とにかく! この約5年間で、それこそ語るも涙、聞くも涙のできごとが色々あった。
まず第一に、公爵令嬢としての淑女教育を速攻で終わらせた。
早くお兄様達との修行に専念したかったから、それはもう必死に頑張ってたった一年足らずで全部を終わらせて見せた!
まぁ、それのせいでセドリック殿下が私こそ未来の王妃に相応しいとか騒ぎ出し。
一部の貴族もそれに賛同したりして地味に外堀が埋められていくっていう弊害もあったけど。
そんなことになるとは夢にも思ってなかった私は鬱陶しいセドリック殿下や貴族達は無視して修行に専念した結果。
まだまだ最強には程遠いけど、かなり強くなったと思う!
たまに……週一くらいで大賢者たるマリア先生にも修行をつけてもらったし。
まぁアルトお兄様がいってた通りあの初老の優しそうなお婆ちゃんは仮の姿で、マリア先生の本当の姿が夜を思わせる艶やかな黒い髪に金色の瞳をした妖艶な美女だったのは驚いたけど……
とにかく! 私は5年前と比べて格段に強くなった!! ……はず。
それでもお兄様達との手合わせでは一回も勝ててないし。
お父様やお母様、お兄様達にファナを始めとした使用人一同の過保護も変わらず健在だけど。
「むぅ〜」
問題はつい先日起こったアレ。
5年前、ルスキューレ家にセドリック殿下が国王陛下とフローラ様を引き連れて押し掛けてきた日以降もセドリック殿下からのアプローチという名の嫌がらせは続き……
周囲の貴族達の声も徐々に大きくなってきて、困った国王陛下は私とお父様達に必死に頭を下げて懇願して頼み込んできた。
お父様はそれに反発して、私にセドリック殿下との婚約を無理強いするようなら謀反を起こすとまでいい放った。
ルスキューレ公爵家は国内外で手広く事業を展開していて、その力と影響力は王家にすら匹敵するほどに絶大。
そんなお父様が……ルスキューレ公爵家がイストワール王国に対して謀反を起こすとなると、国が真っ二つに割れて大混乱に陥ることになる。
さすがにそんなことは望んでないし、暴走しそうになってるお父様とお兄様達を何故か私とお母様で説得することになり。
ついには王命という形で全く納得はしてないけど私とセドリック殿下の仮婚約が交わされたことが大々的に発表されたのが1週間前。
まぁ、婚約も仮だし、その仮婚約にも色々と条件をつけたけど。
ともかく! そんなわけで、ここ1週間ほど私の機嫌はすこぶる悪い。
それこそ自分の部屋に閉じこもってダラダラと……こほん、無言の抗議をするほどにご機嫌斜めだったわけだけど……
「むふふっ!」
私は今、9歳と11ヶ月。
あと1ヶ月で私は誕生日を迎えて10歳になる!
つまりっ! ついに私は冒険者になれるのだ!!
「むふふふっ!」
すぎたことをいつまでも気にしていてもどうにもならない!
セドリック殿下との婚約が仮とはいえ成ってしまったのはもう仕方がない。
実際にセドリック殿下が私との婚約を破棄するのかは現状ではわからないわけだし。
今はセドリック殿下の婚約者という立場を甘んじて受け入れよう。
けど! もしセドリック殿下が乙女ゲームのように私を貶めて、婚約破棄して、断罪するのならば。
もし私がこの婚約が心底嫌になった時が来たのならば……ふふふっ! 力で捩じ伏せてやるわ!!
「ガルルルゥッ!!」
「むっ」
唸り声を上げながら周囲の木々を薙ぎ倒して飛び掛かってくる、体長5メートルはありそうな巨大な黒豹が5匹……ここは黒豹達の縄張りなのかな?
「ほっ!」
飛び掛かってきた黒豹をひらりとかわしてスパッと喉笛を剣で一閃!
ふふん! これぞ、蝶のように舞い、蜂のように刺すっ!!
仲間がやられて一瞬動きが止まった黒豹達の間をすり抜け……
チンっ
剣を鞘に戻すと同時に黒豹達の身体が地面に崩れ落ちる。
「ふぅ〜」
5匹の黒豹達による連携攻撃。
中々に良かったけど、私には通用しない!
「さてと」
パチン!
亜空間に黒豹達を収納してっと。
「よし!」
今日、転移魔法を使ってわざわざ魔の森に来たのは、お兄様達から出された最終試験を突破するため!
準備運動もできたことだし……いざ行かん!
世界よ、待っていろ! 私の最強伝説がついに幕を開けるのだっ!!
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