第16話 私は怒っている!

「では改めまして、僕の名前はセドリック・エル・イストワール。

 ソフィア嬢、よろしくお願いします」


「……ソフィア・ルスキューレです。

 以後よろしくお願い致します、セドリック殿下」


 王都にあるルスキューレ邸の中でも最も格式高い応接室にて、対面のソファーに座ってにこにこと柔らかな笑顔を浮かべる金髪碧眼の少年。

 そして……


「一応キミがまだ小さい時に一度会った事があるのだが……はじめましてと言わせてもらおう。

 私はエルヴァン・エル・イストワール」


「フローラ・エル・イストワールです。

 はじまして、ソフィアちゃん」


 セドリック殿下の両親。

 ニカッと明るい笑みを浮かべるイストワール王国を治める国王エルヴァン陛下に、優しく微笑む王妃フローラ陛下。


 まさか国王夫妻に第一王子が揃っておいでとは……いくらルスキューレ公爵家でも確かに王族が。

 それも国王夫妻と一緒に第一王子が来たとなれば、事前の約束がなかったとしても無下にはできない。


「ルスキューレ公爵家が長女、ソフィア・ルスキューレと申します。

 お会いできて光栄です」


 くっそぉ〜! 私の邪魔をしやがって!!

 せっかく後はいつもの戦闘服に着替えて初の実戦だったのに……そこらの貴族なら無視できたけど王家が相手じゃあそうはいかない。


 事前の約束も、使者を寄越して来訪を告げることも……いや、もしかしたら使者は寄越していて私が知らなかっただけかもしれないけど……


 ともかく! 突然やって来たくせに。

 私の楽しみを邪魔したくせに! 取り繕った笑顔を浮かべて懇切丁寧に対応しないとならない!!


「なに、今は公式の場ではないのだから気軽にしようじゃないか」


「そうですか……わかりました」


 国王たるエルヴァン陛下がそういうのならそうさせてもらおう。

 しかし、やっぱり王家が……国王が、国が無視できないだけの、私の邪魔を簡単にできない程の力を手に入れなければ!


「おいエルヴァン。

 お前、これはどう言うつもりだ?」


 お、お父様……?


「おいおい、これでも俺は国王だぞ?」


「ふん、気軽にしようと言ったのはお前だ」


 確かにそうだけど! 国王陛下を真正面から睨んで呼び捨てにした上にお前呼ばわりっ!?


「それはそうだが……」


 えっ? えっ!? なにこれ? どう言うこと!?


「ふふふ、私とヴェルトにフローラとエルヴァンは友人なのよ」


「幼馴染でもあるのよ?」


「お母様……フローラ陛下……」


「もう、ソフィアちゃん、陛下はやめてちょうだい」


「ご、ごめんなさい……あの、フローラ様」


「やだ! ソフィアちゃん可愛いっ!」


「わっ!」


 ど、どどどどうすればっ!? いきなり抱きしめられたんですけどっ!!

 あっ、でもお母様とはまた違ったいい香りがする。


「フローラ、ソフィーちゃんが驚いてるじゃない」


「あら、ごめんなさい。

 ソフィアちゃんが可愛いからつい」


 ちょっとこの展開についていけないけど……なるほど、ここは公の場でもないし。

 幼馴染ならお父様が国王陛下にこんな態度を取るのもおかしくはない……のかな?


 けど……いつもは私にデレデレしてて、よくお母様に怒られてるだらしなくて残念なお父様が堂々としてていつになくカッコいい!

 いいぞ! いいぞ! お父様、もっと言ってやれ〜!!


「ソフィア嬢」


「……」


 せっかく、カッコいいお父様を見て沈んでた気持ちがちょっとだけ浮上しはじめてたのに……


「体調を崩していると聞きましたが、お元気そうで何よりです。

 先程もお伝えしましたが、またお会いできて嬉しいです」


 私はまったく会いたくなかったけど。

 むしろ、この1ヶ月はお兄様達との修行で忙しくてすっかり忘れてました。


 というか! 許可もなく私の部屋に押し入って来きたくせに謝罪もなしか!!

 こうなったら私もお父様の援護射撃もとい、失礼で無礼な殿下に対して文句をいってやるわ!!


「ふふふ、どうやらセドリック殿下は素晴らしい教育を受けていらっしゃるようですね」


 ふふん! どうよ! この皮肉の効いた見事な口撃!!


「もちろんです!

 私はいずれ父上から王座を引き継ぎ、この国を守っていく者ですから」


 あ、あれ? 私の皮肉が効いてない??


「ほほう」


「あらあら」


 私の言っていることの意図がわかってる様子のエルヴァン陛下も、フローラ様も何故か面白そうな感じで微笑ましそうに私を見てるだけだし……

 い、いや! この程度で屈する私ではないっ!!


「さすがはセドリック第一王子殿下。

 私の許可も、ましてやノックすらすることなく突然私の部屋に押し入って来ただけはありますね」


「なっ!」


「っ!?」


 ふふん! これはさすがに両陛下も想定外だったらしい。


「本当にセドリック第一王子殿下は……イストワール王家は未来の国王陛下に相応しい素晴らしい教育をなさっているようですね」


 決まった〜!

 子供だからといって私をナメるなよ? 私は今、怒っているのだ!

 むふふ! 我が怒りを思い知るがいいっ!!

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