悪役令嬢は最強を志す! 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います!〜
フウ
第1章 幼少期編
第1話 プロローグ
その日。
イストワール王国に存在する世界でも有数の歴史を誇る由緒正しき学園。
イストワール王立学園の卒業式、ならびに卒業記念パーティーの日。
既に卒業式は恙無く終了し。
豪華で煌びやかな装飾が施された大広間にて、晴れの舞台に着飾った卒業生達の新たな門出を祝うパーティーが催されていた。
「みんな! 少し私の話を聞いて欲しい!!」
卒業生だけではなく在校生や保護者達も参加しており、各々が親しい者達と笑顔を浮かべ和やかに談笑していた大広間の一角から上がった声に騒めきが大広間を包み込む。
皆が視線を向ける先……そこに立つは4人の人物。
金の髪に真っ直ぐで強い意志が宿った青い瞳、どこか優しさを感じさせる甘く整った容姿。
イストワール王国が王太子、セドリック・エル・イストワール。
銀の長髪に銀縁の眼鏡に彩られた高い知性を感じさせる緑の瞳を持つ青年。
数代にわたって宰相を務める王国の頭脳、アイビー侯爵家が嫡男オズワルド・アイビー。
燃えるような赤い瞳と短髪。
ほど良く鍛え上げられた肉体に、腰には一本の剣。
騎士団長であるアレス伯爵の嫡子にして学生の身でありながら近衛騎士団の一員でもあるガイル・アレス。
薄い青の髪に水色の瞳。
魔法師団が団長、エドウィン侯爵が嫡子であり天才の再来と名高いサイラス・エドウィン。
そして……セドリックにエスコートされ、他の面々に守られるようにして立つ、美女というよりも美少女といった黒髪黒目で小柄な愛らしい少女。
異世界より召喚されし聖女エマ。
誰もが壇上に立つ彼らの言動に注目する中──
「ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢!
今日この時をもって私は貴様との婚約を破棄するっ!!」
王太子セドリックの怒りを含んだその言葉に、騒ついていた大広間が一瞬にして静まり返る。
そして、聖女エマを庇うように立ち並ぶ王太子セドリックと3人の側近達に鋭い視線で睨まれている1人の少女へと……
スラッとしたスレンダーな体型、白銀の髪にアメジストのような紫の瞳。
婚約者であるセドリックから向けられる敵意に僅かに目を見開きながら静かにその紫の瞳でセドリックを見据える少女。
誰もが見惚れるほどに美しい、非常に整った容姿。
しかしながら、どこか冷たい印象を抱かせるソフィア・ルスキューレ公爵令嬢に視線が集まる。
「理由をお聞きしても?」
静まり返った空間に凛と透き通るような美しい声が。
しかしながら、僅かに震えるルスキューレ公爵令嬢の声が響き渡り……
「理由だと? 我々の都合で親しい者達と引き離され、もとの世界に帰る事もできないというのに……魔王を打倒するために!
この世界を救うために! 力を貸してくれているエマに対して貴様が行ってきた数々の嫌がらせを……陰湿で卑劣な愚行の数々を私が知らないとでも思っていたのかっ!!」
セドリックが整った顔を憤怒に染めて、嫌悪感を滲ませた怒声を荒げる。
「嫌がらせ、愚行……なんの事でしょうか?」
「あくまでも、シラを切るつもりか……」
「私はルスキューレ公爵家の一員として、そして王太子殿下の婚約者として。
誓って恥じる事は何もしておりません」
「良いだろう。
ならば貴様の罪を公のものとしてやる……ヤツを拘束しろ!」
「はっ!」
「っ!?」
セドリックの命令を受け、素早くルスキューレ公爵令嬢の背後に回り込んだガイルが彼女の腕を捻り上げて力任せに地面へと組み伏せる。
「言ったはずだ、貴様の卑劣な嫌がらせの数々は全て知っている。
エマの教科書を破り捨て、私物を隠し、噴水に突き落とし、聖女であるエマを平民だと差別するなど数々の嫌がらせを貴様は行ってきた」
セドリックが声高に語る、完璧な御令嬢として名高く、月の女神と称されるルスキューレ公爵令嬢が行ったとされる行為の数々に静まり返っていた大広間に再び騒めきが巻き起こる。
「わ、私は……」
「おっと、無駄な抵抗はするなよ?」
「っ──!!」
弁明しようと口を開いたルスキューレ嬢の整った美しい顔が、自身を組み伏せて拘束するガイルの言葉に。
捻られた腕に走った激痛に歪む。
「無論これらは全て目撃者の証言もあるが、貴様は公爵令嬢だ。
この程度の罪だけならば謹慎だけですんだだろう……だが、嫉妬に狂った貴様はそれだけに飽き足らず!
暴漢を差し向け! 更には階段からエマを突き落とし聖女を殺害しようとした!!」
「なっ!?」
「幸い暴漢はエマの危険をいち早く察知したサイラスとガイルが、階段では私がエマを守る事ができた。
だが! 聖女であるエマを殺そうとしたという事実は決して許される事ではないっ!
よってソフィア・ルスキューレ、貴様を国外追放に処すっ!!」
セドリックの宣言にどよめきが大広間を包み込む。
「そいつを連行しろ!
抵抗するようなら多少手荒でも構わない」
セドリックの命を受けた騎士達がパーティー会場である大広間に雪崩れ込み、唖然とするルスキューレ公爵令嬢の身柄をガイルから引き受け改めて拘束して連行する。
それでこの断罪劇は終了する……はずだった。
「っ──!!」
最初にその異変に気が付いたのは、天才の再来と称されるサイラス・エドウィン。
騎士達に身柄を拘束され、連行されるルスキューレ公爵令嬢から急激に膨れ上がった膨大な魔力に息を呑み……
「っ、きゃぁぁぁっ!!」
喉が引き攣った悲鳴が鳴り響いた。
ビチャビチャッ……
夥しい量の真っ赤な鮮血が地面に弾けて、鉄のような鼻につく血の匂いが充満する。
青ざめた1人の騎士が握り締めた剣がソフィア・ルスキューレ公爵令嬢の胸を……
「ぅぁ……」
あれ? 公爵令嬢の胸?
違う、ルスキューレ公爵令嬢は、胸を貫かれたソフィア・ルスキューレは……誰でもない、この私。
「こふっ」
私の胸を背後から剣が貫いて……これは、いったい……さっきまで、私は私を見てた?
「ぁ、にが……ぉ、って……」
「う、うわぁぁっ!!」
全身から力が抜けてしまって、目の前の若い騎士が剣を振り上げてるのが見えてるのに動けない……
「待てっ!」
誰かが叫んだ次の瞬間……意識が真っ黒に染まった。
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