危険な駆け引き 1
「もしもし」
『……どうしたの?』
「昨日はごめん」
『……ううん、いいよ。私が壊しちゃったんだから』
「はっきり返せなかった俺が悪いよ。だからさ、今日二人で会わないか?」
『……うん。家、行ってもいい?』
「いいよ、待ってるから」
『……』
返事はなく通話は切れた。
✕ ✕ ✕
十四時前、インターホンが鳴った。
画面を覗くと真弓が来てくれた。
すぐに玄関に向かい鍵を開ける。
「入って」
そう伝えると、無言でうなずいて玄関に入りコットンブーツをを脱いで、昨日ぶりに真弓が戻ってきた。
コーヒーを淹れるためにキッチンからリビングを覗いていると何故かベッドに腰を下ろす真弓。
不思議に思いながらも淹れ終わったコーヒーをマグカップに注ぎ持って昨日と同じようにテーブルにマグカップを置いた。
「昨日はごめんね」
頭を下げる真弓を片手を向けて制止する。
「それはもういいよ、俺も悪いから」
テーブルからマグカップを両手で持って口元でふーふーと冷ましながら飲んでいる真弓が首を小さく横に振った。
「じゃあ仲直りの印」
そう言ってベッドからゆっくりと立ち上がった真弓はマグカップをテーブルに戻し目の前まで近づいてきた。
くちびるとくちびるが触れるだけの優しいキス。すぐに離すと、またマグカップを持ってベッドに腰を下ろした。
切り出すのは俺からだと思い、まっすぐ見つめながら話を切り出した。
「あのさ、鹿島先輩のこと覚えてるか?」
「うん、覚えてるよ。咲葵とキスした日のことだよね」
「そう、その日のことなんだけど」
「まだ話してないことがある」
「えっ……?」
俺が話そうとしていた言葉を真弓が発した。
「驚かないでいいよ、多分知ってるから」
そう言うと、座り直して俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「シたんだよね、咲葵と? あの日からだんだんとおかしくなっていったことを考えると、辻褄が合うし」
怒っている様子もなく、淡々としていて逆に怖くなってくる。でも、話すと決めていたから逃げる気はなかった。
「うん、シた」
認めると視線を落とした。ショックなのは違いない。
俯いたままの真弓がなおも話を掘り返していく。
「その時はどっちからだったの?」
「咲葵から」
「本当?」
そのことに偽りはない。
「本当、咲葵から聞いてもらってもいい」
「聞くわけないでしょ」
顔を上げて否定した。それから視線を外し数回うなずく真弓。
すると、マグカップをテーブルに置いて上半身ごとベッドに仰向けになった。
俺を見ずに話し始める。
「許してあげる代わりに、俊樹からシて。私動かないから」
その誘いはあの日とは逆のものだった。
本当はまだ怒っているんだろう。淡々と話してはいるけど、やっていることは昨日の続きだった。
だからこそ、いまは聞きたくない言葉をためらいもなく向けてきた。
「咲葵とシてない初めてを私にしてほしい」
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