09  可愛い使い魔とお年頃な勇者(♀)





 前回までのあらすじ


 元魔王のアルスは魔王時代の使い魔、老イビルキャットのキャスパーグから、孫の子猫シャルーを自分の代わりにと推薦される。


 何でも、幼稚園のかけっこで一位を取った俊足らしい。


 可愛いシャルーの外見に癒やされたアルスは


「いや、他の成長したイビルキャットを紹介しろよ」


 とは言えず、使い魔のテストをしてみるが、速攻フィリアに捕まって失敗に終わる。


 #####


「アレが例の勇者の小娘ですか。ベッドの下からでも、強大な聖なる魔力を感じましたぞ。魔王様が単独では、倒せないと危惧するのも仕方がないですな」


 キャスパーグがその圧倒的な力にベッドの下で怯えながら、観察したフィリアの分析を語る。


「いやいや、キャスパーグよ。今は勝てないと言っているだけだからな。将来的には勝つ予定であるが、『苦戦は必死なので皆の力を借りようかな?』というだけだからな!」


 アルスはここに来て、元魔王としての見えを張ってしまう。


「わかっております、わかっております」

「いや、その言い方は解ってないね!」


「りんごおいしいにゃー」


 フィリアの持ってきたりんごを、美味しそうに食べているシャルーの横で、これ以上の不毛なやり取りをしていても時間の無駄なので、本題に入ることにする。


「キャスパーグ。とにかく、アスイオスを見つけ出して、連絡をつけてくれ」


「承知いたしまました。イビルキャットネットワークを駆使して、必ずやアスイオス殿を見つけ出し、魔王様のお言葉をお伝えいたします」


 どうやら、孫を使い魔にするのは諦めたようで、彼が長を務めるイビルキャット使い魔サービスを使用することにしたようだ。


(始めから、そうしろよ…)


 アルスはそう思ったが、


「よろしく頼む」


 胸の内に収めて大人の対応をする。


「魔王様、シャルーはお側に置いていくので、使い魔としてお使いください」

「わかった。よろしく頼むぞ、シャルー」


「おまかせくだしゃい、まおうしゃま!」


 りんごを頬張りながら、舌足らずな口調で元気よく返事してくるシャルー。


(可愛いかよ!)


 正直、ペットとして以外、役に立ちそうにないが、可愛いからそれでいい。

 こうして、シャルーはアルスのペット(使い魔)になった。


 次の日―


「シャルーちゃんに、玩具持ってきたんだけど」


 フィリアが昨日のお詫びも込めて、ヒモの先端についたネズミのおもちゃを持って遊びに来た。


「シャー! シャー!(キライ! キライ!)」


 だが、シャルーのフィリアへの恐怖は薄れておらず、怯えて威嚇をしてくる。


「まあ、昨日の今日だからな。そのうち警戒もとくよ」


(まあ、シャルーも魔物だから、聖なる魔力を持つフィリアへの警戒は、解かないだろうがな… )


 これで玩具に釣られて、聖なる魔力を持つ者への警戒を解いてしまったら、魔物失格である。


「ほ~ら、シャルーちゃん~ ネズミですよ~」

「にゃー にゃー (何これ!? 楽しいー!)」


 だが、シャルーは即落ち2コマで、フィリアの操るネズミのおもちゃにじゃれ付き始める。

 言葉を喋らないのが、せめてもの救いである。


 そして、30分ほどフィリアに遊んでもらうと、疲れたのかスヤスヤと無防備にもお昼寝してしまう。


(可愛いな、もう~)


 魔物としても使い魔としても落第点ではあるが、ペットとしては満点だ。


「シャルーちゃん、寝ちゃったね」

「ああ(困ったヤツだ。可愛いけど)」


「シャルーちゃんが起きたら可愛そうだから、庭にいかない?」


 二人は気持ちよさそうに眠るシャルーを部屋に残して、庭にやってくると設置してあるベンチに腰を掛ける。


「フフフ… 」

「何が可笑しんだ?」


「アルスの使い魔らしい怖い子じゃなくて、可愛い子だなと思って」


「本当はもっと獰猛な動物(全盛期キャスパーグ)を使い魔にするつもりだったんだが、色々あったんだよ。まあ、シャルーが可愛いのは認めるが… 」


 イビルキャットの爪は鉄を切り裂き、低級魔法を使用し高速で空を飛ぶので、あながち嘘ではない。


 だが、幼いシャルーにできることは、子猫ができる事と低空を低速で移動するぐらいであり、爪もせいぜい木の柱を爪研ぎで傷つけるぐらいである。


「そう言えば、最近めっきり剣の稽古に誘ってこなくなったな?」


 二人が座っているベンチは、昔剣の稽古が終わった後に休憩で座っていたため、ふと気になっていたこの質問を、話題を変えるためにも彼女にしてみることにした。


「まあ… 私もこれでも年頃の女の子だし… いつまでも、そんなガサツな事はしないわよ…」


 フィリアは金色の髪を触りながら、照れた様子でチラチラとこちらを見ながらそう言ってくる。


 16歳になった頃から、フィリアは肩までの髪を伸ばし始め、服装も機能重視からオシャレなものを選ぶようになり、女性らしくなってきている。


 その姿を見て、アルスはピコーンとくる。


(なるほど、そう言うことか。最近色気づいてきたと思ったら、お年頃というやつで男を意識し始めたということか。だが、これは我にとってはチャンスである。フィリアが色恋でうつつを抜かしている内に、力の差を縮めることが出来れば勝てる!)


 その相手が自分である事も気づかずに、彼はそのようなことを考える。


「ところで、アルスは… その… 気になる娘とかいるの?」


 フィリアは相変わらず髪を触りながら、彼を横目でチラチラ見つつ割と直球気味な質問をしてくる。


「今は居ないな。というか、今の俺には異性にうつつを抜かしている暇はない! 俺にはやらねばならない目標があるからな!」


(そう! お前を倒して魔王に返り咲く目標がな!!)


「へぇー、ふぅ~ん… そうなんだ…。まあ、暫くはそういうのもいいんじゃない? ずうーとは困るけど」


 アルスの心中を知らないフィリアは、残念でもあり少しホッとしたという表情をしている。


「まあ、私も当面の目標は魔王退治だしね。といっても、今の私ならもう魔王デ… あれ何だっけ?」


(我はもう小娘にとって、名前すら忘れられる存在になっているのか… )


「あの最弱の魔王… 魔王デス… そうそう、魔王スゴイワルデスよ!」


「魔王デスヘルダークだよ! 最初にあった“デス”が、後ろになっているじゃないか! お前もう態とだろ!?」


 頑張って突っ込んだアルスであったが、ライバルと思っていたフィリアの記憶から、名前が消えていることに、流石の彼も悲しくなってしまう。



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