第五話 熊のぬいぐるみと儚い水草


 繊維を食べる珍妙な巨大スズメバチから逃れ、越えれば宇宙港がある岩山へと向かう裸の二人は、蜂たちによって肌へとかけられたハチミツのような体液の粘性に、辟易していた。

 ステーションから支給されている検査キットで調べたら無害で、甘い香りについ舐めてみたら少しニガかったけれど、見た目も香りも粘性も、純度の高いハチミツ風。

 なので、走る腕が脇の下に擦れたり、両脚の内股同士が擦れたりすると、ネトっと粘着し合うような感触があった。

「走りづらいですわ」

「ボクも そう感じるよ…ん?」

 森の風に乗って、どこからか、清水の香りが漂ってくる。

「ユキ、これ」

「? あら」

 マコトに倣って森の地面を見たら、大きな木の根っこの向こう側に、小さな水の流れが確認できた。

 水の流れに逆らって歩を進めると、開けた場所に出る。

「うわぁ…」

「素敵な景色ですわ」

 拓けた場所は湖で、高さ五メートルほどの崖から、済んだ水が滝として流れ出ていた。

 滝壺という程の深さは無いけれど、池と呼ぶにはかなり広い湖で、更に小さな小川として森へ流れている。

「綺麗な水だと 思うけれど…」

「確かめてみますわ」

 検査キットを使って湖の水を調べたら、人体には全く問題なし。

「この蜂の、流そうか」

「ええ♪」

 二人はグローブとブーツを脱いで、バックパックや装備品を大樹の陰へ隠すと、黒い首輪に全裸という姿で、湖の中へと進んで行った。

「きゃ! 冷たいですけれど、とても気持ちが良いですわ♡」

「そうだね…んん…」

 素足の細い脛からスベスベの腿、更に大きな裸尻や腰の前側などが、やや冷たい清水へと浸される。

 湖の中央まで進むと、裸の下半身は完全に浸かり、細いウエストや大きなバストが、水面の反射光で下から照らされた。

 湖の水は程良く冷たくて、走った汗だけでなく、蜂の恐怖という心の疲れも癒してくれる。

「ん~♪」

 マコトも鼻歌を歌いながら、肌にかけられた巨大蜂の興奮体液を洗い流す。

 中性的な王子様のような美顔が寛ぎで微笑み、黒いネコ耳としなやかなネコ尻尾が、跳ねる水滴にピクピクと反応。

 両腕を上げて背筋を伸ばすと、双つの巨乳が上を向いたまま、タプんっと跳ねた。

「うふふ♪」

 穏やかなお姫様のような愛顔を無垢に微笑ませながら、ユキもご機嫌で肌を流す。

 掬った清水を、白いウサ耳やウサ尻尾へと流して、両掌で丁寧に挟んでウォッシングを施してゆく。

 前屈みになった肢体に合わせて、濡れた双巨乳が質量を増し、湖面の反射で艶々に照らされている。

 遠くの山々や高い森、拓けた崖の湖という、緑豊かな大自然の真っ直中で、二人のケモ耳美少女捜査官の、首輪以外は一糸纏わぬ裸身が、太陽に晒されていた。

 髪や頬、上腕やバストやヒップなどに付着していた粘液を全て洗い落とすと、少しだけ湖に裸体を浮かせて、寛いだり。

「そろそろ 出発しようか」

「ええ…あら」

 起き上がった二人の濡れた身体が、キラキラと輝く。

 ユキが気づいたのは、近くに流れていた緑色の水草である。

「? どうかした?」

「マコト、ご覧になって下さいな」

 ユキが手にした水草は、細い茎と広い葉っぱが繋がっている、ちょっと珍しい形をしていた。

 湖面を漂っていた葉っぱは、湖底に繁茂していて抜けた茎らしい。

「これ、利用いたしましょうか」

「?」

 湖から上がった二人は、グローブとブーツを身に着けると、水草の茎を裸身へと巻き付ける。

「丁度良い感じですわ♪」

「うん、確かに」

 水草は、細い茎を紐として、葉っぱで巨乳と少女腰を隠す形だ。

 一見すると葉っぱ柄なビキニのようにも見えるけれど、ボトムは腰紐だけで繋がっていて、ある意味、一番大切な下は合わさっていない状態。

「スースーするね」

「そこは 致し方ありませんわ。オールヌードよりは、気にならないでしょう?」

「まあ そうだね」

 一応、文明人と言えるスタイルとなった二人は、ツノゴリラに追い付かれない為にもと、少し速足で岩山へと向かった。


 森の中を進んでいると、背後の低い草むらから、ガサガサと物音がする。

「!」

 もしやツノゴリラに見つかったのかと思って、麻酔銃を抜いて振り返ると、そこにはヌイグルミのような、地球本星に生息する熊に似た小型の生物たちがいた。

 ぬいぐるみっぽい熊みたいな生物は、身長が一メートル弱で、つぶらな瞳と茶色い毛並みが、ヌイグルミっぽさをより強く感じさせる。

 三頭身な体格に、手足も太くて短くて、ヨチヨチと歩く姿など、生きている熊のヌイグルミそのものであった。

「あら…♡」

 可愛い物が大好きなユキは、警戒心が解けてしまい、つい近づいて屈み込む。

 しゃがむと、裸のお尻が剥き出しになったり。

「ユキ、警戒しないと」

 と忠告をするマコトだけど、ユキの膝に抱き着いて甘えながら小さな甲高い声を出す愛らしい姿に、つい警戒心が緩んでしまった。

 人間が恐ろしくないようで、ユキの膝やマコトの脚に頭を乗せて、見上げている。

「まあ、害はないのかな…」

 と、マコトもお尻が露出しながら屈んで、そして一瞬、固まった。

「ユキ 残念な報告」

「? どうかいたしまして?」

「その子、ちょっと持ち上げてみて」

「?」

 言われて、ユキは膝に甘えるヌイグルミを持ち上げて、やはり一瞬だけ硬直。

「!」

 愛らしいヌイグルミ生物の股間部分には、生殖器官が露出していた。

 しかもその形状は、二人が剥き出しの変態犯罪者などを捕らえた時に見てしまうソレと酷似した、生々しい姿。

 全体の大きさも、二人はよく知らないけれど一般的なヒューマノイドタイプの成人男性よりは大きく、しかも同種同志での繁殖を幾度か経験しているような、穢れた色艶だった。

 ついでにみんな、生物として種族が違う二人に対して、繁殖欲が剥き出しである。

「マ、マコト…」

 いつの間にか取り囲まれていたマコトとユキが、生殖ヌイグルミたちに襲われないのは、どうやら二人が裸身に纏っている水草のお陰らしい。

 ヌイグルミたちは、この水草に触らないように、二人の肌へと抱き着いていた。

 小熊のような外見は可愛いのに、繁殖欲だけでなく繁殖経験があるとわかると、途端に小さくイヤらしい中年男性のような嫌悪感しか、感じられなくなる。

「ユキ、行こうか」

「ええ」

 無表情で立ち上がって、岩山へと向かって歩き出すと、ヌイグルミたちは一メートル程の距離で付いて来る。

 しかも興奮で息を荒げ、繁殖欲の証を隠す事もなく、むしろ誇示していた。

「付いて来るね」

「ですわね」

 追跡者たちの視線では、下から見上げる形となり、二人のお尻が左右に揺れて、目的の秘処も見えるのである。

 流石に色ボケな相手とはいえ、異生物なうえヌイグルミっぽい相手に、恥じらいは感じない二人だ。

「まあ、付いてきたいのなら、付いてきてもいいけれど…ん?」

「? どうかいたしま…あぁ!」

 二人は、お互いと自分自身の変化に気づく。

 湖で見つけて、ビキニ状に纏っていた緑色の水草が、茶色く枯れ始めていたのだ。

「ど、どうして ですの…?」

「ああ、きっと…!」

 湖から引き揚げられた水草が、照り付ける太陽と二人の体温などの影響で、急激に水分を失い、乾燥しつつあるのだ。

「マ、マコト…!」

 茶色く枯れた葉が、水分を失うと同時に端からこげ茶色に艶を失って硬化をして、小さくポロポロと崩壊を始めている。

 そのスピードは、見ていて解る程に、早かった。

「こ、これって…!」

 このままでは、そう時間を待たず二人の葉っぱが塵と崩れ、秘すべき全ての肌が露出をさせられてしまう。

 後ろを見ると、苦手な水草が崩壊して肌面積が増えて行く艶々の女体に、繁殖のヌイグルミたちが、更に繁殖欲求を高めていた。

「走って!」

「ええっ!」

 このままでは、全裸になって、あの繁殖小熊たちに捕まえられて、繁殖行為の餌食にされてしまうだろう。

 欲求に猛る小熊たちは、麻酔銃の弾数よりも多い。

「ユキ!」

「マコト!」

 マコトがユキの手を取って、二人は全力で走って逃げる。

 走る風圧で、上下に弾む双乳で、左右に振られる裸ヒップで、枯れた葉っぱが粉砕されて、艶めく肌が更に晒されてゆく。

 繁殖欲求のヌイグルミたちに追われながら、二人は全速力で逃げるしかなかった。


                       ~第五話 終わり~

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