第1話 獅子は舞っても舞われるな ①


「なぁなぁ みかん」



「どしたの?研ちゃん」



とある秋の日の朝。


とある地方にある、とある田舎町の片隅にある一軒家の2階の自室。


”みかん”と呼ばれたその少女。

本名は「土野 みかん」と呼ぶ。

今年の春に高校の卒業し、ダメ元で面接して受かった地元のすずを加工する鋳造工芸会社に現在働いている職人の卵である。



小柄で可愛らしい顔立ちのその少女。

ショートカットで首元に。小さく左右にゴムでまとめたおさげを下げて。

ちょっと色物なTシャツと。

ゴツめだが何故か彼女によく似合う、カーキ色のズボンを履いている。



少女をみかんと呼んだその男。

彼女に話したいことがあって来たのだが。

どうしても言いたくなったのでまず尋ねる。



「・・・その前に何やってんの?」



「彫刻だけど」



「丸太を部屋ん中に持ち込んで、ノミとハンマーで削ってんのも驚きなんだけど、何で仏様彫ってんの?」



「手慰みってヤツですよ」



「お前は宮本武蔵か」




本当に武蔵が彫っていたかの真偽はともかく。

時々その辺の木を拾っては仏様を彫っていたという。



「田舎は娯楽が少ないからね。無ければ作れば良いじゃない♪の精神だ!」



娯楽が無いからと言って、木彫りに楽しみを見出して。

部屋に丸太を持ち込んで仏様を彫る少女はどう考えなくても少数派だろう。




「ホント変わってんなー。お前。そ言えば最初からブっ飛んでたわ」



「”死神”やってる研ちゃんに言われたくねーわ」





”研ちゃん”と言われたパっと見30前後の疲れたような顔立ちのその男。

そこそこ背の高い痩身で。

紅葉色の線が所々に走ってる、ベースが深緑色のコートを羽織ってる。

みかんが言った通り、実は普通の人間にあらず。

彼の正体は”死神”である。



正確には 死神研修生(正規採用前)である。



みかんとは半年ほど前に、偶然にみかんによって召喚されたのをキッカケに仲良くなった。(第0話 参照)


色んな条件が重なって。

何故かみかんが昔ドンキで買った魔方陣ぽいマットの上に。

彼の好物である”月餅”を供えると彼は召喚されて現れる。



まぁ今はみかんの家の玄関からフツーに尋ねて来たけど。



そして”研”という名前は本人が頑なに本名を言いたがらないので、研修生なので”研”の字を取って、みかんが勝手に”ケン”と名付けたという経緯があったり。






「まぁ。とにかくさ。今日はみかんに案内して欲しい所があんだよ」



「案内して欲しい所ー?」





研はよっこいせと立ち上がり。

みかんの自室の窓から見える。200m程離れた場所に朝日を浴びて輝く鳥居を右手の親指で指しながら。







「お前の町内。”北神町”の神社だ」





面白くもなさそうな顔で。

それでも行かなきゃって顔で。


研はそう言った。




◆◇◆



「で。何でウチの町内の神社に用があんの?」



「神社とゆーより用があんのは神社の中だな」



みかんの家から歩いて3分の所にある神社。

2人並んでトコトコ歩く。

ちょっと寒くはなってきたが。

先日までは暑すぎたのでちょうど良い。




ダラダラ歩いてすぐに2人は神社の鳥居の前まで辿り着く。



「なかー?」



「おう。上からの指令によるとあの中に―」




研が懐から和紙の巻物のような物を取り出して、説明をしようとした時。




「あ―――。みかんじゃん!?」



「あ―。ホントだ。みかん!!生きてたんだ!!」



「生きとるわい!!」





後ろから15人くらいの子供と大人が声をかけてきた。





「何年かぶりに見た。変わってねーなー」



「おー。久しぶりだなー。みかん」




「あ。・・・お久しぶりです。佐久間さん」



「えーと。同じ町内の人達?」




研は彼らがみかんに話しかける雰囲気と、彼らの身だしなみで検討を付ける。

どの男女も部屋着をちょっとマシにしたような恰好しかしていない。

とても街に行くぜー。仕事にいくぜー。

という姿ではない。


近場でちょっと用があるから、見苦しくない程度に整えました。

とゆう感じ。


大人の人に至っては完全に農作業スタイルだ。







みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ

みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ

みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ

みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ みかんだ



みーかーーん。






「・・・有名人だなー。お前」





「ん。ま。まぁ」




「・・・ところで。初めて見る顔だけど、君は誰だい?」



20代くらいの農作業スタイルの。

佐久間と呼ばれたちょっと2枚目のあんちゃんが。

よく見知った顔の少女のとなりに、見知らぬ男がいるので尋ねてみる。




「--えーと。彼は」



「みかんのカレピです」



「おい!!」




「みかんにカレピ!?」


「おい!聞いたか!?みかんにカレピだってよ!!」


「マジか!?あのみかんが!!」


「庭でよく不思議なおどりをしてたみかんが!!」


「よく部屋で奇声を発してたみかんが!!」


「オレ、みかんのお父さんからよく”どうしよう あの娘”って相談を受けてたんだけど。そうか・・・とうとう」






「お前が町内でどうゆう立ち位置かなんとなくわかったわ」




「恥ずかしいぃぃぃいいいい!!!!!!!!!」




みかんは釣って、陸に上げられた魚のように。

びたん びたん と地面の上をのたうち回る。




「で?あのーー」



「研です」



「研さん。みかんとの最初の出会いはどんな感じでしたか?」



「最初からクライMAXでした」



「「「キャーーーーーーーーーー!!!」」」




「研!!!どういうつもりさ!」



町内の人たちと久しぶりに会ったと思ったら、何を思ったかイキナリ研の爆弾発言。

さすがに研の胸ぐら掴んでみかんは顔を真っ赤に至近距離で問い詰める。



「いやいや。”死神です。ココに用があって来ました”なんて言えるワケないじゃん?だからオレもさ。最初、遠い親戚とかさ。そっち方面で行こうとしたけど、この感じじゃ親戚・縁者は大体把握されてるだろーし、嘘言ってもみかんの親に聞かれたらすぐバレるだろーし」



田舎あるある。

町内付き合いで、大体の家庭事情はお互いみんな把握してる。

特に親世代。




「だったら友達で良かったでしょ!?実際そーだし!!」



「みかん。お前わかってねーよ」



「何が?」



神妙・真剣・憂鬱という感情をブレンドさせた表情で。

わかってくれよ。と両手でガチッとみかんの両肩を掴みつつ。

研はみかんの顔をじっと見つめる。


軽く息を吸っては吐いて。

覚悟を決めて研は言う。




「ホラ。神社や公民館とか地元の人間が集まってる中でだ。ただの友達がその中に混ざって会話するってめっちゃアウェイ感半端ないじゃん?ちょっと箔欲しいじゃん?」



「あんたのチキンハートをフォローするために、しれっと恋人関係にしないでくんない!!?」





割と最低な理由だった。





つづく!

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