好きじゃなくって愛してる! ~夏休み後半編!~
八乃前 陣
プロローグ 雨の夜の電話
「雨だなぁ…」
八月も下旬に差し掛かった夜。
育郎は一人、部屋でパソコンと向き合っていた。
夏休みの前半に、亜栖羽の友達も含めて海に行ったり、二人でドライブをしたりして、七月中に宿題を終えた解放感を謳歌。
今は、亜栖羽一家は毎年恒例の、故郷で一族が集まるお盆の習わしの為に、家族みんなで里帰りをしている頃だ。
一週間の帰郷も、まだ三日目。
亜栖羽からは毎日、メールが届いたり電話を貰ったりしているし、育郎からメールをする事もある。
声だって聴いているし、写真だって沢山見ているけれど。
「やっぱり、早く会いたいなぁ…」
当たり前に、同じ国内にいるとはいえ、やっぱりすぐに会えない遠くにいるのは、寂しく感じる。
年に数回しか会わない知り合いしかいなかった育郎にとって、こんなに寂しい想いをしているのは、初めてだった。
世間が夏休みでも、在宅プログラマーには関係なし。
むしろ相手先の休み明けには依頼を収めておかなければならないので、夏休みや正月こそ忙しかったり。
恋人に会えない寂しさを、仕事で紛らわせる。
という意味では、忙しいのが助かっている面もあった。
「うぅ~んん…はぁ」
立ち上がって大きく身体を伸ばして、腰を回して伸ばして、一息つく。
「少し、休憩しようかな」
夜の雨は、何だか落ち着くというか。
とめどない雨音で、逆にオートバイの音などは気にならなくて、仕事が捗る。
「明日の午前中には終わらせたかった分も、なんだか出来たぞ」
インスタントのコーヒーを作って、部屋間の明かりを消して、窓からの夜景を眺めてみる。
雨粒の滴る窓ガラスで、街の明かりがキラキラと煌めいて、頭も冷却される気がした。
「亜栖羽ちゃん、どうしてるかな…?」
朝の天気予報だと、亜栖羽の故郷は東京と違って、素晴らしく晴れ。
時計を見ると、現在、午後七時十一分。
「で、電話して…大丈夫かな…?」
声が聴きたい。
今、一属揃っての晩御飯かもしれない。
従姉妹たちとお風呂に入っているかもしれない。
もし亜栖羽ちゃんのご両親が電話に出たら、どうしよう。
などと、色々な事を考えてしまう。
「亜栖羽ちゃんに 迷惑はかけたくないし…」
と自分に言い聞かせながら、震える指で、十分以上も迷いながら、思い切って通話。
「ど、どうかっ、亜栖羽ちゃんが出られるタイミングでっ、ありますようにっ!」
もし三コールくらいで出なかったら、切った方が良いか。
コールが鳴って、育郎の心臓がドキっと跳ねて、更に高鳴ってゆく。
「で、出られない、かな…?」
数時間にも感じられる三回目のコールで、通話。
『もしもし~ オジサン~♪ 今晩は~♡』
「ぁあ、亜栖羽ちゃん…っ! こっ、今晩は…っ! ぃ今そのっ、だだだ大丈夫…?」
『はい~♪ オジサンがお電話くださって、すっごく嬉しいです~♡』
「そ、そう…良かった。あはは…」
『オジサン、東京は今日、雨だったんですよね~?』
「うん。今も結構、強く降ってるよ。そっちは 晴れでしょ?」
『はい~♪ 東京よりも北ですけど~、気温は高いですよ~。お墓参り、みんな 汗たいへんでした~。あ、後で写真 送りますね~♪』
明るい亜栖羽の弾む声は、静かな夜の雨の街と、不思議に合っていた。
~プロローグ 終わり~
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