12:荒野の三人
真下に、茶色の大地が近付いてくる。
「ここに降りましょう。周囲に人の気配はありませんので丁度良いでしょう」
シスカがブリッジで操作を行い、着陸モードへとラヴィナを変化させる。ラヴィナの下部が変形していき、着陸用の足が出てきた。おー、すげー! これロボットとかにも変形できるんじゃね?
「できませんよ。でもそれも面白そうですね。改造してみますか!?」
「冗談だよ! しかし、見事に荒野だな……」
ラヴィナが大地へと静かに着地する。そこは岩と砂しかない荒野で、緑どころか生物らしきものも見当たらない。
そんなところに突如と現れたこの緑豊かな島は、さぞかし周囲から浮いているだろう。物理的にも、景色的にもね。
「外に出てみましょうか」
「待ってました!」
正直、俺はずっと空の上だったせいで、いい加減大地が恋しくなっていた。
そうやって俺がソワソワしていると、ブリッジから外へと続く扉が開かれた。
舞い込んでくるのは、乾いた砂混じりの熱風。
「あつっ!」
「見たまんまですが、乾燥地帯のようですね」
俺はタラップを降りていき、砂だらけの地面へと降りた。
「うおおおおお!! やっと降りてこれた!! やったぜ!! ひゃっほい!!」
俺は嬉しさのあまりに、飛び跳ねてしまう。
地平線まで見渡す限り荒野なのが、これほど嬉しいとは思わなかった。
「――シスカ、それにリンドよ」
頭上から威厳ある声が降ってきたので、見るとテュエッラがゆらゆらと泳ぐように降りてきた。
「我ら竜族はひとまずこのラヴィナと周辺の空を警戒しておく。お前達はどうする?」
「実は降下中に、妙な物を見つけました。それの調査に赴こうかと」
「妙な物?」
そんなもんあったっけと俺が思っていると、シスカが空中にホログラムを出現させ、この周囲一帯の地図を表示する。
「現在地がここで、ここから北に十数キロ行った先のあの岩山ですが――」
シスカが北の方を指すと、そこには確かに大きな岩山があった。
「あの岩山から多数の生物反応および、エーテル波動を検知しました」
「岩山にか?」
「生物反応だけでしたら、原生生物の可能性がありましたが……エーテル波動となると、我らと同等のエーテル技術を有しているかと」
「なるほど。人類の可能性が高いってことか」
「おそらく……ですが」
「うっし、じゃあ行ってみようか。百聞は一見にしかず、って言うしな」
「ヒャクブン?」
シスカが首を傾げるので、俺は笑いながら言葉を返した。
「あはは、俺の世界の言葉さ。あれこれ考えて調べたりするより、見た方が早いってことさ」
「それは道理ですね。では、行きましょうか。とはいえ、十数キロを徒歩も大変なので、ラヴィナの格納庫で見つけた例のアレを使いましょう。リンドのスキルで動くのは実証済みですし」
「おー! あれな!」
それは、ラヴィナのブリッジに行く途中にあった格納庫にあった物だ。他にも色々あったが、今がまさに使い時だろう。
シスカがラヴィナを操作して、それを大地へと射出する。
それは、四人乗りのホバークラフトのような乗り物だった。流線型のSFチックな見た目で、どうやって浮いているのかは謎だが、まあ要塞が浮くぐらいだから今さらだ。
既に起動スキルは使用済みなので、問題なく動きそうだ。その格納庫の中は物は保存状態が良く、起動自体は俺のスキルがいるものの、機能は全く問題なかった。
中にはワクワクするようなSF兵器もあったが、正直シスカと竜達がいれば過剰火力なので、今は眠らせている。
「さ、行くか」
と俺とシスカがそのホバークラフトに乗ったと同時に、空から黒い小さな影が降ってきた。
「我も同行しよう。万が一もあるからな」
「……いや、誰?」
ホバークラフトの前へと降り立ったのは、なんだか凄く偉そうな幼女だった。ロングの緑髪に、シンプルなローブを着ただけの姿。
こんな幼女に覚えはないが、頭部に生えている角には覚えがある。
「あら、珍しいですね。竜は人の形になるのを嫌がるのに」
「竜? まさかお前……」
「何を寝ぼけたことを言っている。我はテュエッラだ」
「……幼女化した。つーか、女だったのね」
「うむ。元の姿のままだとあまりに目立つからな。この姿だと高確率で人間は油断する。多少力は落ちておるが、まあ些事だろう」
「それは頼もしいな」
シスカだけで正直十分だが、まあ良いだろう。
「さあ、行くぞリンド、シスカよ!」
腕を組んで、後ろの席でふんぞり返るテュエッラを見て、俺とシスカが微笑みあった。そうしてホバークラフトが音もなく滑るように、発進する。
「目指すは岩山だな」
「うむ。疾く、行くがいい」
「テュエッラお前、なんか口調変わってね」
「そうか? 前からこうだが」
姿が人っぽくなっただけで、なんだかえらく親しみやすくなった気がする。
シスカの操縦するホバークラフトは地面の状態に関係なく進むので、大変快適だった。まあ、砂がめちゃくちゃ口や鼻に入ってくるが。
「――何かこちらに来ますね」
「へ?」
「ふむ……」
ホバークラフトの進行方向。
俺の視界に――小さな人影が映る。さらにそれを追い掛けている、歪な駆動音を響かせる複数の黒い存在も。
「あれは?」
「――人です! 何やら妙な機械に追われています!」
「……子供のようだな」
テュエッラの言う通り、その小さな人影はフードを被り、砂避けのマントを羽織った少女だった。まだ幼さが抜けきってない顔付きからしてまだ中学生かそこらだろうが、その顔はどこか気品を感じさせる。シスカとどこか似た雰囲気だ。しかしその表情は焦っている。
「その後ろにいるのは……〝ゴブリン〟だ」
テュエッラがそう呟いた。
少女の背後には、一メートルほどの大きさの人型の機械が迫っていた。脚部の車輪で少女を追うそれは、確かに子鬼と形容するにぴったりな異形だった。
「俺の知ってるゴブリンとなんか違う!」
「あれこそが、人類が生みだした災厄の一つ――〝
「……どうしますかリンド」
目の前には、ゴブリンに襲われている少女がいる。
ならすることは一つでしょ。
「セーブザキャット……助けるに決まってる!」
「よろしい――ならば我が行こう」
そう言って、テュエッラが飛び出した。
さて、いきなり波乱の予感だが――いよいよ異世界ライフも面白くなってきたぞ。
***
【作者からのお知らせ】
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異世界ライフは空の上から ~遺跡しかない浮遊島に異世界転移した俺、授かったスキル【起動】を使ったら、なぜか封印されていた半神半機の姫様が目覚めた。二人で島を復興していたら気付けば世界最強の空中要塞に~ 虎戸リア @kcmoon1125
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